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125 前哨戦の弐



「吉継よ、聞こえるか?」


 目の前の趙雲と名乗る敵。そして対するこちら側の戦力。

 わしらがドバイにいた頃から戦闘が続いていたとして、丸1日の戦闘が続いておったにもかかわらず、相手に疲労の色は見えない。

 対する華殿や毛利勢もかなり頑張ってきたとも言えるけど、それだけの時間を費やしてもまだ決着のきっかけすら見当たらない状況じゃ。


 さすれば、ここは一時撤退が無難じゃろう。

 というかこのまま戦いを続けると、これまで継続して戦ってきた華殿、そして他の戦場におる三原や頼光殿たちの方が先に動けなくなってしまう可能性すらあった。

 そうすれば各戦場の戦力バランスは瓦解し、バックアップをしておる毛利や長宗我部、島津、そして出雲勢力の兵たちが一気に潰される。


 それを嫌ったゆえのわしの無線であったが、すぐさま吉継の声が返ってきた。


「どうした? 作戦方針を変えるか?」


 ふっ。吉継もこの膠着状態の不利さに気付いておるようじゃ。

 こちらは実際に戦場に出たゆえの作戦変更。対する吉継は前線基地において、3つの戦場をモニターから眺めながらの分析結果。

 にもかかわらずどちらも似たようなことを考えておるっぽいから、ここはそう動くのが望ましいじゃろう。


「うむ。今はまだ味方の戦力が低い。これでは膠着状態が続くだけで、勝ち切るのは難しいと思うんじゃ。のう、吉継?」

「そうじゃな。ここは一度引くか……? いや、さっき北条家の氏直殿に連絡を入れた。あっちの増援組も問題なく迅速に動いてくれるそうじゃ」

「ほう、それはいい報告じゃ」

「なのでそれらの戦力が到着し次第、戦力の入れ替えをしようぞ。それまで暫し耐えよ」

「そうじゃな。んでどれぐ……ぬお! って、こなくそ! ……吉継? どれぐらいかかりそうじゃ?」


 ちなみにわしは趙雲との戦いを続けながらなので、たまにそっちの掛け声が入ったりしておる。

 でもわしは敵に対して近すぎず、遠すぎず。

 吉継と会話をしながら同時に目の前の戦闘に集中するのも無理なので、少し距離をとって華殿に対する趙雲の意識をちょいちょい邪魔する程度の動きをこなす感じじゃ。

 でもわしがうろちょろしておることで、敵も戦いにくそうに顔をゆがめ、たまに接近戦に成功した華殿から攻撃をくらったりはしておる。

 そう考えるとちょっと有利になったような気もするけど、あくまで“気がする”だけじゃな。


 秒を追うごとに華殿の顔に疲れの色が表れ、というかそろそろ限界のようじゃ。

 他方、あかねっち殿とよみよみ殿が参戦した戦場でも三原が……そして頼光殿たちのところでも頼光殿本人やその配下の者たちに限界が来ておるはず。


「最も早く到着するであろう平家の兵がおよそ20分。源氏と相・甲・駿。そして上杉はそれ以上かかるじゃろうが、遅くても1時間以内には……と氏直殿が言っておった」

「うむ。それなら……やはりここは華殿を離脱させる」

「そうじゃな。華代と……あと義仲殿を離脱させ、陰陽師勢力にも疲労と怪我の重い者から離脱を許可させよう」

「うむ。頼む」


 ふっふっふ。

 今さらながらに、この無線通信という技術はすごいな。

 かつての時代なら馬を用いた伝令役を戦場各所に走らせる必要があったが、ドローンの映像も含めそれらが一瞬で伝わる。

 ――なんて感傷に浸っておる場合ではなかったわ。


「華ちゃん? 聞いてた? ここは僕に任せて、そろそろ撤退を! 毛利勢もまだ戦える者以外は一度退け!」


 華殿本人にとっては悔しい気持ちもあるじゃろう。

 だけどこの敵は勢いに任せてどうにかできる相手ではない。

 道術という存在の厄介さ。それこそ敵も丸1日戦い続けているはずなのに、わしの武威センサーにて敵の残存武威には十分な余力がある。

 それゆえの持久戦じゃ。これは道術を用いた敵の武威の持久力から考えればあまり意味のないような気もするけど、わしの狙いはそこではない。


 その武威を宿す身体そのもの。

 人間の体が本来持っている覚醒時間の限界。

 要するに睡魔というか、脳の活動時間の限界を目論んだだけなんだけど、そこに焦点を当てて今後の作戦を展開していけば、いずれは敵も限界が来ようぞ。


 そしてその時には氏直が話を付けてくれた相・甲・駿の三国と源平、そして上杉の勢力も加えたうえでの大規模戦闘を仕掛ける。

 そこに勝機がある。またはそこにしか活路がないような気がするんじゃ。

 なので今現在は、ここにいる戦力とさらなる戦力で一度形を整える必要がある。


 それまでは撤退戦。というか、この敵に休みを与えぬ持久戦に持ち込まねばならんのじゃ。


 そしてもう1つ重要なこと。


「えぇ! 任せるわ! でもお前様、死なないでね!」


 わしの指示に従い、華殿があっさりと撤退を決めた。

 裏で破壊神と呼ばれるほどの華殿が苦戦を強いられてきたこの敵。

 そんな強敵を相手にわし1人が戦う。

 一応毛利勢も多少は残ってサポートしてくれるようじゃが、こんなもん普通に考えたら瞬殺に決まっておる。


 だけど運のいいことにわしの武威センサーはこの敵の攻撃と相性が良い。

 敵の放った“飛ぶ斬撃”は武威センサーによってしっかりとらえることができるし、それら斬撃のちょっとした違いすら感じ取れる。


 加えてこっちもこっちで拳銃を使用すれば中距離攻撃的な攻防も行えるし、もし趙雲が接近戦を仕掛けてきたら、それこそ儲けものじゃ。

 スタッドレス武威による機動力と、右手に握るわしの金属バットで応戦すればいいだけ。


 華殿もそこまで理解し、あっさりと撤退を決めたんじゃ。

 他の戦場ではあかねっち殿とよみよみ殿が関羽に対して有無を言わさず超接近戦を仕掛けておるはずだし、頼光殿たちだってむしろあやつが率いる出雲勢力が現状で1番戦力が高い。


 なので華殿、三原、そして頼光殿たちの勢力の誰かが戦場を離脱しても、平家やその他の勢力が到着するまでの時間稼ぎは可能なんじゃ。



「ふーぅ、次はお前1人か? なかなかの連係プレーだったんだが……お前1人で大丈夫か?」


 その時、敵が動きを止めて話しかけてきた。

 華殿が撤退し、その破壊的な武威の空間が消失した空港のど真ん中。わしと趙雲が相対し、ちょっとだけ会話の時間じゃ。

 まぁ、趙雲からしても華殿の戦線離脱は予想外だったのじゃろうな。

 それゆえこちら側の意図を調べようとしておるのじゃろう。

 その思惑はわかりやすいけど、こっちも目の前の敵と少し話をしてみたかったのでいい機会じゃ。


「あっ、吉継? 聞こえるか? 三原のとこにいると思うんじゃが、島津の鬼ジジイは強制的に戦線離脱させてくれ。

 あとであやつと少し話がしたいんじゃ」


 なんてな!

 そんな会話にいちいち乗るか!

 というか吉継との打ち合わせはまだ終わってないんじゃ!

 いちいち貴様なんぞのペースに乗るわしではないんじゃ!


 ぱーん!

 ぱーん!


「ぐっ! 嘘だろ!? この流れで……」


 てっきりわしと会話できると思っておった趙雲が突然の銃撃に驚く。

 もちろんわしが放った2発の銃弾は見事に防御されるけど、驚いた趙雲はその流れで10メートルほど背後に跳躍した。


 んで趙雲の問いかけを無視して、わしは吉継との無線に話し続けた。


「うむ、わかった。でも島津義弘殿は……あっ、モニターに映っておるわ。まだまだ元気そうじゃ。だけどその義弘殿をどうして?」

「あやつに後の総指揮を頼みたい」

「ほう。となると……“島津の退き口”じゃな?」

「そうじゃ。おぬしが関ヶ原で死に、わしは敗軍の将として逃げ回っておったゆえ、その始終は見ておらんけど、それに似た撤退戦と包囲戦を指揮してもらいたいんじゃ」

「あいわかった。義久殿に無線を繋ぐ。こちらは切るぞ?」

「うむ。わしも趙雲との戦いに集中する。では」

「あぁ、グッドラック」


 吉継よ、最後のそれはいらん。

 まぁ、よいか……。


 さて、敵もさっきの銃撃でちょっと怒っておるようじゃし、それを無視して無線の会話を優先してたわしにさらに怒りを覚えておるようなので、逆にこれから世間話でもしてやろうぞ。


「ふっ。すまぬ。ちょっと他の部隊とやり取りせねばならぬことがあってな。それにおぬしが近づいてくると流石のわしも怖いんじゃ。

 だからさっきの銃撃は許せ」


 ちなみにわしが無線でやり取りしておったのは吉継で、その吉継が今おる場所はすべての情報が集まる“前線基地”じゃ。

 そんな重要拠点があるなど教えてしまったら、疲労した者や怪我人も集まっておるであろうあの場所がこやつの攻撃目標になりかねんので、ちっちゃな噓をついておいた。

 だけどその後に趙雲の強さを褒めておいたので、相手の怒りもすぐに収まったようじゃ。


「ふーん。まぁ……そういうことなら許してやろう」

「恩に着る。流石は中華に名高い武将ぞ」

「ふっ、まぁな」


 こういうところはまだまだ若造。わしの方が話術に分があると言えよう。


 いや、ちょっと待て。

 そういえばこやつ、日本で過ごしておった普通の若者だったのに、最近になって突然趙雲の転生者となったとか言っておったな。

 むしろ転生者とも違うなんらかの現象。趙雲の魂が憑依したというか、降臨したというか。

 まぁ、転生術の中にはそういうのもあるのじゃろう。


 でも気になるのは前世における趙雲の完全な記憶。それの有無じゃ。

 わしや吉継のように記憶残しであるのか、またはその他の転生者たちのように時間とともに前世の記憶が蘇っていくのか?

 そしてあやつの自我は記憶に乗っ取られておるのか? またはただ記憶があるだけで、最近までの若者のごとく言動するタイプなのか?


 記憶記憶と脳内で連呼しすぎて、もう自分でも何を考えておるのかわからなくなってきたけど、とりあえずはそこらへんについてあやつの事情を調査せねばなるまい。


 それにさっきのわしのちょっとした謝罪に対して、あやつは軽いノリでそれを許してきよった。

 手にした武器は趙雲っぽいけど、今着ておるあやつの服装も含め、どちらかというと最近の若者っぽい雰囲気も持ち合わせておる。


 だからというべきか。

 おかしな疑問だというのはわしもわかっておる。

 記憶と意志。これまでの記憶によって形成される価値観と、それを元にした言動。

 わしの周りの転生者はそういうのを上手く混同させ、またの場合は過去の価値観に囚われて争いごとを起こしたりしておった。


 それに比べてこの男は……?

 うーむ。突如脳内を覆ったであろう趙雲の記憶と上手く付き合っておるようじゃが、それならばこのような戦を起こすようなことはしなかったはず。


 などなど、戦闘中にも関わらずわしとしては珍しいぐらいに考え込んでしまったのだけど、相手も相手でわしを興味深そうに観察しておる。


「お前、名前は? いや、前世の方の名だけど……?」

「わしか? わしは石田三成と申す」

「へぇ。あの石田三成か。有名じゃん」


 いや、どちらかというと世界的にはおぬしの方が有名……まぁ、どっちでもよいか。


「まぁ、この国の戦国時代におけるただの一武将じゃ」

「いやいや。でもすげぇよ。昔学校で習ったことがあるけど、その人物が金属バット持って、反対の手には拳銃で……。

 よくわかんねぇ戦闘スタイルだけどさ。さっきまではあのお嬢ちゃんといい感じの連携してたし、今度は俺とサシの勝負をしようなんて」


 おっ、わしのことを学生時代に習ったという記憶もあるようじゃな。

 とすればこやつの意識は、完全に趙雲の人格に乗っ取られたというわけでもなさそうじゃ。

 ふむふむ。さすればどちらかというと勇殿の脳内システムに近い……のか?

 いや、自分でもよくわからなくなってきたな。


 でも会話の内容から察するに、あやつもわしの情報を探っておるようじゃ。

 まぁ、こっちは余計な情報など与える気はないけど。



「まぁ、そこらへんは気にするな。こっちにも事情があるんじゃ」

「ふーん。変な戦い方だな。まぁ、それが俺にとっても厄介なんだけど」

「誉め言葉と受け取っておこうぞ。ところでおぬし、先ほど趙雲の魂が最近宿ったみたいな感じのことを言うておったが、その意識も趙雲そのものなのか?」

「ん? あっ、いや、なんというか……1ヶ月ぐらい前に、頭の中に急に記憶が生まれて。あと頭の中に声が……って、痛ッ!」


 そして突然頭を抑える趙雲。

 急に頭痛っぽく苦しみ始めたけど、どうした? これはチャンスか? 罠か?


「ぐっ……頭の中におかしな声が響いて……それに従って俺はこの国を……し、侵略……って、っつぅ! 従わないと……こうやって……頭痛が……」


 お、おう。

 もしかしてこやつも誰かに操られておる?

 趙雲ではなく……こう、こやつの脳に趙雲の記憶を植え付けたやつに……?

 そう思わせるには十分な言じゃ。


 というかそれを痛みに耐えつつもわしに伝えてきたあたりが……その“頭の中の声”とやらに抵抗しておるのではなかろうか?

 んで余計なことを敵であるわしに伝えようとすると、やつの脳が攻撃される。みたいな?


 うーん。どういうことじゃ?

 ファンタジー要素がどんどん重なって、もうこれ、わしとしてもどう対処すればよいのかわからんぞ。


 と趙雲から少し離れたまま腕を組んで考え始めたんだけどさ。


「というわけで俺はこの国を攻め、支配する。俺と仲間たちで!」


 もう少し会話を進め、敵の情報をあぶり出そうとしておったわしの予想に反して、趙雲がそう叫びながらいきなり襲い掛かってきおった。

 なので、とりあえずの調査はここまで。


「うぉ!」


 わしもあわててスタッドレス武威を発動し、両の手に持つ武器にも武威を流し込む。

 おそらく趙雲はわしが接近戦に弱いと思っておったのじゃろうな。さっきまで華殿がいたため、わしが趙雲と距離をとっておったからじゃ。

 あと拳銃の件もあるし、と思わせて反対側の手には防御用っぽい金属バットも持っておる。

 それが刃物の類ではないことからもそう分析し、一気に距離を詰めてきおった。


 だけどわしもわしで接近戦には多少の心得がある。

 スタッドレス武威でちょこまかと動きつつも、金属バットで殴打。

 そういう戦い方も、拳銃の存在を隠す必要性のある頼光殿たちとの訓練で鍛えてきたんじゃ。


 加えて20歳を迎えたこの体は、まさに身体能力の全盛期。

 相手も若い体だからその条件は平等だけど、わっぱだったあの頃の貧弱な体と比べ、武威と法威の効果を存分に発揮できる今のわしの体ならば、有名な蜀の将軍が相手でもなんとか戦い続けることができようぞ!


「って、いきなり!? 卑怯な! ぐッ! とうッ! せいッ!」

「まぁ、そう悪く言うなよ。これも戦いだ! うるァ! とう! おらァ! 死ね!」


 わしもそう思っておるし、卑怯な戦い方はむしろわしの方が得意なんだろうけどな。

 一応敵の奇襲に慌てたように見せかけ、そんな敵の行動を否定するような発言をしつつ、でも実のところは接近戦における敵の攻撃力の調査じゃ。


 ふっふっふ。押されておるように見せかければ、相手は調子に乗ってどんどん攻撃を仕掛けてくる。

 そして徐々にこちらもその実力を出していけば、敵は気づかぬうちにわしのペースに合わせて力を出してくる。

 その頂点がどれぐらいなのかという調査もしておけば、今後の戦いに役立つじゃろう。


「はぁはぁはぁ……くそ、ちょこまかと……」


 およそ15分……ぐらいか?

 わしのペースに促され趙雲も攻撃の手を速めるが、しかしながら不規則な動きをするわしのスタッドレス武威は捉えられないようじゃ。

 というか槍や薙刀のような長さである趙雲の矛は小回りの利く攻撃ができないので、その点でもわしはこやつと相性がいいらしい。


 もちろんわしの体の数センチ脇を通り過ぎるこやつの斬撃は、まともに受けたら簡単にわしの体を真っ二つにするじゃろう。

 まぁ、似たような威力の蹴りを放つ華殿とも一緒に訓練してるから、そういう紙一重の回避をし続けるのにもわしは慣れておる。

 ゆえに命を掛けた回避を続ける緊張感や焦りなどもない。


 そしてたまに右腕に持った金属バットのみでその斬撃を受けてみたりな。

 これはいなす程度の防御で、すでに体は回避を終えつつ、その斬撃の軌道にバットだけを残すんじゃ。

 両足を地面に踏ん張り、敵の攻撃を全身で“ぐっ!”と防御したならば、それはおそらく致命傷レベル。それを肌で感じておったので、バットだけでその衝撃を確かめてみただけど……やっぱりこれ、とんでもない威力じゃ。

 斬撃を受けたバットがわしの右腕ごとすごい勢いで背中側にはじかれて、危うく肩の関節を外してしまいそうになったわ。


 でもその際にはわしもできる限りの武威をバットに送りつつ、それを法威でがっちりと固めておったため、ぎりぎりバットをへし折られるようなことはなかった。

 とはいえ、うん。もうこれは止めよう。


 さて、次はこやつの防御力の調査じゃな。


「ふん!」


 まずは再度距離を取り、左手に持った拳銃で2発。

 さっきの会話の最中にもちゃっかり装填しておったので残弾数は充分だけど、ただの調査に全弾撃ち尽くす意味もない。

 なので趙雲に対して2発だけを発射し、わしもその弾丸の後を追う。

 趙雲がその銃弾を矛にて受け流すか、がっちりとガードするかはわからんが、そこに生まれるであろう一瞬の隙を狙って敵の頭部に金属バットのフルスイングをお見舞いしてみる算段じゃ。


 でもさ。


 ごん!


「いてぇ……な、おいッ!」


 相手はわしの放った銃弾2発を上手く受け流し――そんでもってやつの頭部をバットでフルスイングすることには成功したんだけどさ。

 もちろん手ごたえは十分だし、そんじょそこらの武威使いなら戦闘不能に陥れることもできるはずのわしのフルスイングが……まったく効かんのじゃ。

 いや、趙雲も一瞬だけリアクションしたぞ? リアクションっていうぐらい軽い反応だったけど、“頭を強めに引っ叩かれた”程度の反応だったんだけど……?



 うーむ。わしの攻撃力って……? やはり最弱……?



 いや、めげてる場合ではない。

 一瞬遅れて敵の矛がわしの頭部へと接近し、その鋭い突きを反射のレベルで受け流そうと思ったんだけど、バットをフルスイングしたせいでむしろこっちが不利な体勢になってたわ。


「ぐっ!」


 なので敵の矛がわしの左肩のあたりに深く食い込み、わしは短く声を発しながら即座に距離をとる。

 痛みとともにかなりの血が流れ、わしは顔をゆがませた。


「ふっ、それでお前の左手は使い物にならなくなったな」


 敵の言う通り左肩のあたりの筋肉をえぐられ、しかしながら骨や関節はさほど壊されてはおらんようじゃ。

 しかしこれでもうわしの左腕はだらりと垂れ下がるのみ。とてもじゃないが腕を上げて拳銃を操るなんてことはできようもない。


「ちっ! 少しリスクを取り過ぎたか……」

「リスク? いや、お前の考えはわかってるぞ。俺の武力を調べようとしてるだろ?」

「あぁ、まぁな。でも……まさかわしのフルスイングがまったく効かんとは思わなかった。なんという防御力……その、武威の鎧とでもいおうか? すごすぎじゃな」

「ふっふっふ。ちょっと痛かったけどな。あと、これって日本じゃ“武威”っていうのか? 昔の中国じゃ単に“気”と言っていたらしいけど」

「ほう。それは面白い。でも……」

「あぁ、呼び方なんてどうでもいい。それに……」


 少しの会話を済ませ、趙雲の体から放たれる武威の激しさがさらに増した。


「それでお前の攻撃手段は無くなったなぁ!」


 そして再度趙雲の猛攻が始まった。

 わしはすぐさま拳銃を懐にしまい、防御と回避に徹する。

 腕は上がらないけど、その左腕をバットの中央付近に添え、握力は無事なのでそのまま握る。んで右手はグリップのあたりに。

 送りバントの構えといえばまさにその通りなんだけど、スタッドレスを用いた機動力で逃げ回りながら、たまにそれが不可能な瞬間だけ敵の攻撃をバットで受け流す計画じゃ。

 でも敵の攻撃を連続で受け流すにはやはり左腕がもたないので、そういう時はすぐさまスタッドレス武威による回避じゃ。



 んでそれを5分ほど続けていると、待ちに待った報告が無線用イヤフォンから聞こえてきた。



「三成よ。平家が到着したぞ。他の増援ももうすぐこちらに来る」

「はぁはぁはぁ……あぁ、んじゃ平家は関羽の方へ回してくれ。全員じゃ」

「ん? いいのか? おぬし、ここからモニターを観た感じじゃ、結構押されておるようじゃが?」

「うむ。でも平家は張飛。源氏は関羽。それぞれに武田と上杉も当てて、残った今川と北条にはそっちでの待機を命じてくれ。

 そして出雲の皆をこっちに。あと京都の陰陽師勢力も到着し次第こっちに。よいか?」

「そうじゃな。源氏と平家は分けた方がよい。同様に上杉と武田も」

「あぁ、そういうことじゃ。んで、一番遠い上杉が到着するまでさらに時間がかかるか? わしももうちょっと頑張ってみるわ」

「お、おう。そうか。ならば気をつけて戦え」

「おうよ」


 わしが無線に話しかけていたため、趙雲も2メートルほど離れた距離にて聞き耳を立てておる。

 ゆえに意図せず斬撃の嵐が止み、戦場がにわかに静かになった。


「増援か? そんなもの、全然意味ねぇよ」


 そしてまたまた始まる突然の会話タイム。

 趙雲は矛の先をこちらに向けながら、余裕の笑みを浮かべ……


 わしはというと、ここで金属バットを地面に投げた。

 と同時に両手をだらりと下げ、スタッドレス武威を解除する。


「ん? どうした? 諦めたか?」


 諦めるわけがなかろう。

 わしの……そう、なんとなくここまで引っ張ってきた伏線というか、ちょっとした布石というか。


「あー、そうじゃな……諦めた……? のか? これは……? いや、むしろ……?」


「あぁ? いったい何を言って……」


 わしのよくわからん雰囲気に趙雲が首を傾げ……

 そして次の瞬間、わしは懐にしまっていた拳銃を右手に掴み、それを超至近距離から趙雲に向けて全弾を連発した。


「別に右手で撃ってもよかろう?

 というかわし右利きだし、こっちの方が威力も精度も上なんじゃ」




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