目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

132 最終決戦の参


 吉継たちを乗せた揚陸艇が山口県の壇之浦という町の海岸線に接近し、およそ100メートルの距離に近づいたところで、吉継たちが陸に向かって跳躍した。

 もちろんホバークラフトが敵の“飛ぶ斬撃”によって壊されないようにという配慮じゃ。

 そして20メートルほど近づいた後は水面を走り抜ける。先に言ったように、わしら武威を用いた脚力を利用することで、数十メートルぐらいなら水上走行できるからな。


 あと――偶然なんだけど、この壇之浦という地域は源平合戦の折に最後の決戦が行われた地でもある。

 まぁ、関羽たちが泳ぎ着いた場所がここだったのは本当に偶然だし、今現在源平勢力のほとんどは戦場を離れ、治療や睡眠に入っておる。

 それぞれの兵たちは別々の船に分けておいたし、余計な小競り合いなど起きぬじゃろう。

 だけど……なんというか、21世紀になってもここで大きな戦いをやっていると考えると、やはり感慨深いものがあるな。


 とはいえ、感傷に浸っておる場合でもない。


「吉継? 敵がおぬしらの接近に気付いた。張飛が起き上がって迎え撃つ態勢に入ったぞ。気をつけよ」

「あぁ、こちらからも肉眼で確認できる。でもやつらの手元に武器が見当たらんな。海に落としたか?」

「かもしれん……かもしれんが……」

「うむ、分かっておる。あやつはプロレスラーと言ったか? 要するにこの時代の格闘家じゃろう?

 肉弾戦でも相応の強さを持っておるだろうし、道威とやらの能力も底が知れん。まだ何かあると見ておいた方がよかろうぞ」


 ふむふむ。発言から察するに吉継も警戒心を解いてはおらん。

 というか勘の鋭い吉継がここで油断するなどありえない。

 たとえ武器がなくてもやつらの体は強固な武威の鎧で覆われており、こちら側にはそれを貫く即死レベルの攻撃手段がない。

 まぁ、わしの拳銃や華殿の攻撃ならばその可能性もわずかにあるが、吉継を始めとするこの部隊にはそういった攻撃力はない。

 景勝殿も、勝頼殿も。


 だけど吉継はあえてこのタイミングで威力偵察を申し出た。

 そこになんらかの意図があるのは明白だし、法威を操る吉継――そしてその体の本来の持ち主である勇殿だってもはやこの国における屈指の戦力じゃ。

 ならばわしはしばし戦闘を見守ろうぞ。


「ふははははッ! やっと仕掛けてきおったか! こざかしいザコどもめ!

 じゃけんのう! わしらはまだまだ戦える! そんな少人数で勝てるとでも思ったんか!

 皆殺しにしてやんけぇのぅ! 覚悟せいやァ!」


 敵との距離が狭まるにつれ、無線を通して張飛の叫び声が聞こえてきた。

 だけどそういうのにいちいち反応しないのが吉継という男じゃ。


「よし……では貴公らは波打ち際で待機しておいてくだされ」


 敵の挑発じみたセリフを綺麗に無視し、吉継は背後を走っていた景勝殿や勝頼殿にそう伝える。

 こちらの迎撃態勢をとったのが張飛だけと見るや否や、あやつとの一騎打ちに入るつもりじゃ。


 そして両手にはいつも通りのプラスとマイナスのドライバー。

 なんかいつの間にかどこから持ち出したのかわからんボディバッグを肩から掛けておるのが気になるけど、馴染み深い武器を両手に構え張飛に襲い掛かった。


「ぐぅ!」

「ぐぬぅ!」


 お互いに似たような声を発し、吉継の工具と張飛の右こぶしが衝突する。

 軽く衝撃波が発生し、しかしながら次の瞬間にも張飛は左腕を大きく回し、ラリアットじみた攻撃で吉継の胴体を狙った。


 ふっ……


 そしてそれすらも吉継は無難にかわす。

 頼光殿がよく使ういきなり現れたり、急に姿を消したりするかっこいい動き。

 ほんの一瞬だけ足にとんでもない量の武威を込め、爆発的な脚力を発揮することで周囲の人間の動体視力を無力化する。

 動きの速さに緩急をつけて錯覚を起こさせるものなんじゃが……いや、わしもその原理はよくわかっておらんのだけど、そういう動きは吉継も得意なんじゃ。


 なので張飛にとっては一瞬吉継が姿を消したかのように錯覚させつつ、その本人は張飛の背後へと。

 今度は左手に持ったマイナスドライバーで張飛の延髄のあたりに狙いを定めた。


「ちっ……! やはりここは堅いか……」


 しかしその攻撃は張飛の首の後ろを覆う武威の鎧にて防がれる。

 わしが拳銃で関羽を狙ったのは首の前側。ここは首を自由に動かすために若干武威の鎧が弱くなっておった。

 それをドローン映像で見ておった吉継は、いつものように張飛の背後に回りつつ、首の後ろに狙いを絞っておったらしい。


 とはいえ武威センサーによって敵が持つ武威の鎧の強弱を詳細に把握できない吉継は、実際に攻撃を当ててみないことにはその弱点を確認できない。


「吉継? 首回りは前方の方が狙い目じゃ。 あとは四肢の関節周辺じゃな。特に脇の下から肩関節を狙ったり、股の下に入って股関節を狙……あ、それならいっそ股間の急所を……?」

「それができたら苦労はせん。下手に近づくとこやつに捕まって体術にやられる可能性もあるじゃろ?」

「そうじゃな。んじゃ……どちらかというと中世ヨーロッパの重装歩兵をイメージした方がよいかもしれんな。関節以外の場所をあれぐらいガッチガチに覆っておる。その隙間を狙うんじゃ」

「三成め、簡単に言ってくれるな」


 そんな作戦会議的なやり取りをしつつ、吉継は殴打や蹴りをぶんぶん繰り出す張飛の周りをちょこまかと。

 うーむ、やはり吉継って結構な天才じゃな。

 張飛との距離をとり過ぎず、でも近づき過ぎず。

 距離を取れば飛ぶ斬撃が来そうだし、近づきすぎるとプロレス技の餌食になりかねん。

 もちろん張飛は海を泳ぐために武器を捨ててはおるが、武器がなくても飛ぶ斬撃を放つ可能性だってある。

 そういうのを本能で悟っておるゆえ、あえて絶妙な距離感で張飛の攻撃を回避しつつ、逆に体の各所にドライバーを差し込んで、その防御力を調査しておったのじゃ。


「くっそ! このガキめ! ちょこまかちょこまかと!」


 もちろんそんな吉継の意図に張飛も気付いておるため、いらだちが募っておるようじゃ。

 んでそんな攻防を数分ほど行ったところで、張飛の怒りが頂点に達した。

 まずは吉継と距離をとるため一度後ろに下がり、体を休めていた関羽や趙雲の間に着地する。

 これはさすがに危険を感じたため、吉継は追撃を諦めた。


「兄者? さっき道沿いの自動販売機から酒を奪い取ったじゃろう? あれ、1本くれんかの!」


 ん? 酒?

 そんなもんどうする気じゃ?


「吉継よ、警戒しとけ」

「あぁ、わかっておる」


 このタイミングでこの動き。そして酒を所望。

 完全に何か意味がある。


「えぇ。それやとつまり……あれをするんですね?」

「うむ。さすがにちょっと動きが鈍っておる。体力も精神力も限界じゃけんのぅ。少しぐらいえぇじゃろ?」

「仕方ありませんわな。あの若者もなかなかの厄介者……まさかここにきてあれほどの戦力を残しておったとは」


 そんな会話を済ませ、関羽がびちゃびちゃに濡れておるスーツのポケットから日本酒の缶を一本取り出した。

 俗にいうワンカップというサイズの酒なんだけど、それを隣に立つ張飛に渡し、張飛が一気に飲み干す。


「ぐはははッ! やはり酒はいいのう! 体に力が満ちてくるんじゃ!」


 アル中か?

 いや違う。

 わしの武威センサーが異変を感じ取っておる。

 張飛の野郎、酒を飲んで……武威が増えた!?


「おいっ、吉継! 気をつけよ! 張飛の武威が若干回復しやがった!」

「うーむ。マジか……いや、この距離ならわしでもわかる。武威が回復し……表情にも生気が戻りおった」


 そうきたか。

 おそらくこれは張飛の特性。特徴とか特殊能力とか言い換えてもいいのかもしれん。

 飲酒による各種能力の回復。

 わしが感じる武威の回復と、吉継が実際に見た表情の変化。

 おそらくそれ以外にも体中の筋肉疲労などを和らげ、なんだったら睡眠欲や疲労による脳機能の低下などにも効果がある。


 最悪の場合を想定してみると、張飛のこの行動はそれだけの効果があると見ておいた方がいいじゃろう。

 こんなもん、吉継ほどの鋭い直感を持たぬわしにだって想像できる。


「くそっ……せっかくここまでがんばってあやつらの体力や武威を削ってきたのに……!」


 ここ数時間のわしらの努力がただの飲酒で無に帰す。

 と考えたらめっちゃヤバい状況じゃ。


「でも三成よ。そこまで悲観するな。おそらくこの能力は張飛だけのもの。現に他の2人がそれでもろもろの回復を行おうとしないのがいい証拠じゃ」

「うむ、そうじゃな。でも……」

「あぁ、わかっておる。こやつの武力も格段に戻ったとみてよかろう」


 吉継もだいぶ警戒しておるな。

 そしてそのせいで動かない吉継の視線の先では、酒が体中に回ったと思われる張飛が逆に動き始めようとしていた。


「ふーぅ。ええ感じじゃのう! これはまさに“酔えば酔うほど強くなる!” 懐かしきあの感じじゃ!


 え? マジで? それって……酔拳? んじゃここからさらに強くなったりするのか?


「んじゃ、とりあえずはそこの若造……さっさと始末しておくか!」


「おい! 吉継! 気を付け……」


 その言が終わるか否やといった瞬間に張飛がいきなり距離を詰め、その速度そのままにドロップキックを放つ。

 わしや頼光殿が以前食らった超速移動をしつつのドロップキック。周囲に若干のソニックブームを発生させ、もはや張飛自体が極音速ミサイルのようじゃ。


「ぬぉ!」


 んで吉継がそれを脊髄反射のレベルで横に回避したが、それを認識した張飛は即座に右腕を横に広げ、ラリアット的な攻撃へと変化させる。

 この攻撃は流石の吉継も回避することができず、吉継の首のあたりに思いっきり張飛の腕が食い込んだ。


 およそ20メートル。

 吉継の体が後方へはじかれ、しかしながら波打ち際のあたりに待機しておった景勝殿と勝頼殿が飛んできた吉継の体を受け止める。

 でも首に破壊的な攻撃をくろうた吉継は……?


「げっは! ぐはっ! げほッ! げほッ! くっそ……」


 あっ、意外と大丈夫なようじゃな。あの一瞬で首をガードしたか?

 しかもガードしつつも迫りくる張飛の腕にドライバーの先を突き立て、むしろ張飛の動きを利用する形でカウンターの攻撃すらしかけておったようじゃ。


 なので吉継は首に多少のダメージ。対する張飛も右腕の上腕あたりに吉継のドライバーが2本刺さっておる。

 張飛がその痛みに気づき、腕に刺さっているドライバーを無造作に抜く。

 それらをはるか遠くへ投げ捨て、張飛が長い髪を掻き上げながら言った。


「ふーぅ。これすら対処するとは、やはりなかなかの使い手じゃな。おぬし、名はなんという? 覚えておいてやるけんのう。名乗ってみぃや」

「ふっ、我が名は大谷吉継。豊臣家家臣として戦国の世を勝ち抜き、天下統一を果たした武将の1人よ……」


 吉継のセリフ、なんかかっこいいな。

 じゃなくて!


 それを聞いた趙雲がまたしても口をはさんできおった。


「そいつも知ってる! 授業で習った! でも……」


 さらには関羽も。


「えぇ、有名ですわ。でも前世では病に侵され、戦場ではまともに戦うことなどできぬ大名と……?」

「あぁ、関羽の兄貴。俺もそういう印象だ。とはいえこの時代じゃ健康な体を手に入れ、これほどまでに厄介な使い手になってるっぽいな」

「そういうことですかいな。張飛さん! 気ぃ付けなはれや! その男も侮ってはいけない相手のようですわ!」


「ほう、わかったけん。でも……やつの武器は今さっき奪って放り投げた。やつも手ぶらじゃけん、こっから先は腕力勝負になるんべや?

 くっくっく。わしの腕にしっかりと傷をつけたのはお見事。さっき空港で……なんといったかのう? 石田なにがしといい、今日出会った敵の中でもわしらに手傷を負わせたのはおぬしら2人だけじゃ。

 かっかっか! 褒めてやるぞぃ! だけどまぁ、それも努力賞といったところじゃがのう!」

「ちっ、なめやがって……」


 張飛の挑発じみた言によって、吉継が珍しく苛立った様子で呟く。

 その小さなセリフも無線を通してわしのところに届いておる。

 届いておるんだけどさ。


 まず、張飛? わしの名前を覚えておけよ。

 それと張飛の操る訛りは広島あたりの方言かと思っておったけど、一瞬それが東北に行かなかったか?

 やっぱりいろんな地方の方言混ざり過ぎじゃ!


 そして重要なこと!

 今張飛が言ったように、吉継の両手にはプラスマイナスのドライバーがない。

 張飛の腕にぶっ刺した後、あやつによってどっかに放り投げられてしまったからな。

 かといって張飛も張飛で武器を海に落としておる。

 ゆえにここからはお互いの四肢による肉弾戦。


 体格の差と言い、道威を用いておる張飛との肉弾戦は、完全に吉継が不利じゃ。

 まぁ、吉継が今もなお体に携えておるボディバックの中にスペアの工具が入っておれば、話は別じゃが……。


 さて、どうするか?

 そもそもこれはただの威力偵察。張飛に酔拳的な能力があるという事実を確認できただけで十分な成果じゃ。

 そろそろ撤退させておいても問題はない。


 とわしはモニターを見ながら腕を組んで……そんでもってそんなことを思っておったんだけどさ。


「ん? あぁ、そうじゃな。んじゃ、代わるか?」


 まずは吉継の不可解な独り言。

 いや、これはわしなら理解できる。脳内におる勇殿の意識と会話しておるんじゃ。

 でも……もしかしてここで勇殿と代わるつもりか?


 もちろん勇殿もこれまでの定期訓練にて、三原や頼光殿とそれなりに厳しい戦闘をこなしてきたため、戦いにおいてはなかなかの使い手に成長しておる。

 でもそれをさらに超えるのが吉継という天才。言い換えれば、勇殿の方が吉継より若干強さに劣る。


 それゆえこういう大事な戦いにおいては吉継が率先して戦ってきた。

 なのにここにきてその体を勇殿に譲るとは?


「ふっ……よし! んじゃ次は僕が相手だ!」


 一瞬だけ意識の入れ替えをする為のふらつきを見せ、そしてその言と表情が勇殿のものに変わった。


「え? ちょっと待って! もしかして勇君!? 代わったの?」

「おっ、この声は光君だね! うん、代わったよ! こっからは僕がこいつらの相手をするよ!」


 いや、待て。流石にこの状況では?


「ふっふっふ。ついにこれを光君に見せる時が来ちゃったね! でも……これもちゃんと実戦で試しておかないと!」


 だけど勇殿はそんな不可解なことを言いながらボディバッグの中をもぞもぞとあさり始める。

 急に気配を変えた勇殿という二重人格を前に、今度は張飛が何事かと警戒しておる。

 それゆえ生まれた少しの時間なんだけど、勇殿はバッグの中から何やら拳銃のようなシルエットの工具を取り出した。


「え?」


 いや、ドローンによる遠距離からの空撮映像ではよくわからん!

 あれは? 拳銃か?

 でも若干輪郭がゴツイような。拳銃の類にしてはゴツすぎるような……?


「ゆ、勇君? なにを……?」


 わしが慌てて報告を促そうにも、対する勇殿から無反応。

 あとで分かったことじゃが、この時の勇殿は新たな工具に“武威を均一に流し込む”ための武威操作に集中しておったらしい。


 そして2秒ほどの後に、無線を通して低い機械音が聞こえてきた。


 ぶぉーーーーん。ぶぉん……ぶぉん……ぶぉーーーーん。


 そしてわしの武威センサーに新たな異変。

 勇殿が右手に持ったその工具? いや、この音は間違いなく電動工具の類が放つ機械音なのじゃが、そこから武威の刃が1メートルほどの長さに伸び、ぐるぐるとらせん状に回転し始める。


「ふーぅ。とりまいい感じだ。んじゃお次は……」

「お次……じゃなくて! 勇君? それ何?」

「ふっふっふ。光君、気になる?」

「気になる! でも……」

「そう、今は戦闘中。だから、説明はあとで!」


 そういって、勇殿は動き出す。


「なんじゃそのおぞましい“刃”は!?」


 無線の向こうから張飛の驚いた叫びも聞こえてきたけど、それどころではない。

 勇殿と張飛の距離が適度に縮まったタイミングで、勇殿はその右手から伸びた回転する武威の刃で張飛に襲い掛かる。

 無線から『ぶぉーーん』、『ぶぉん』という機械音が聞こえてきて、それに合わせて空撮映像でも勇殿が右腕を振り回しておったのだけど、張飛はそれを大げさに避けていた。


「おじさん、逃げても無駄だよ! てゆーか僕の“電動ドリル”とおじさんの“鎧”? だっけ?

 どっちが強いか試してみようよ!」

「うぉ! んな!? ふ、ふざけるな! それは明らかにヤバいんじゃのうて!」


 だけど勇殿は止まらない。

 背後に回避した張飛だけではなく、後方で待機していた他の2人にまで襲い掛かった。


 てゆーか勇殿が手に持ってるの、電動ドリルなんか!? おい!

 ちょっと待て! わしの拳銃より複雑な仕組みの電動ドリルに武威を上手く流し込み、そしてわしみたいな強化作用をその電動ドリルに施しておるんか!?

 ちょ、武威操作の技術力がヤバすぎじゃろ! いや、工具の類に異常な愛着を見せる勇殿ならその可能性もあるけども!

 そんな破壊的な武器をいつの間に!? しかもわしに内緒で!?


「あぁ、もう! 逃げるだけじゃ僕に勝てないよ。ほら、ほら!

 よし! とらえたァー! えい!」


 そして何度かの攻撃とそれを回避した張飛たちに対する追撃の末に、勇殿の一振りが張飛をとらえ、武威の鎧はおろか胴体まで達する深い傷を負わせた。


「張飛の兄貴ィ!」


 胴体を袈裟斬りにされ、左肩から右の脇腹までえぐい傷をおった張飛が倒れ、それに気づいた趙雲が慌てて反撃に出る。

 張飛にとどめを刺そうとしていた勇殿の脇腹に飛び蹴りを放ち、その攻撃を察知できなかった勇殿は真横にぶっ飛ばされた。


 とはいえ勇殿も10メートルほど砂浜を移動した後に受け身をしっかりとこなし、今度は趙雲に狙いを定めて跳躍する。


 だけどそれはそれで、大傷にもかかわらず即座に起き上がった張飛の蹴りの的となり、趙雲に攻撃を加えようとしていた勇殿は今度波打ち際の方に蹴り飛ばされてしまった。


 海面へと突っ込み、しかしながらすぐに起き上がる勇殿を見つめつつ、張飛たちが話し始める。


「なんつーやっかいな。あんなん、こちらが武器も持たんで、どない対応せいっちゅーんじゃ?」

「そうだな、張飛の兄貴。いや、関羽の兄貴も? あれは3人でかからないと!」

「そのようですわ。あれは我々の防御も簡単に貫く。いや、削り取る? と言ってもええのかもしれません。いずれにせよ、危険すぎます」

「ちっ、武器を海で失ったのが痛いな。どうするよ、関羽の兄貴?」

「えぇ、せやけどそれもしかたありませんやろ。あの時は泳ぐのが精いっぱい。まぁ、今は今でなんとかあの吉継さんを」

「そうじゃな。あのガキは今ここでどげんかしとかんと……あとで絶対に厄介な存在に……」

「そういうことですわ。では行きますよ? 張飛さんに趙雲さん。あの若者はここで始末しましょう」


 そんな会話の後、関羽たちが動き出した。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?