戦国勢力の中でも屈指……いや、むしろ最強。
わしの武威センサーをして、そのように認識されるおよそ15の反応が戦場に現れた。
んでそれらがさらにすさまじい武威を放ちながら関羽たちに襲い掛かる。
でもこのタイミングでの織田家が援軍に来るなど明らかに不自然じゃ。
いや、不自然というかこちら側に都合がよすぎる、と考えるのが普通じゃな。
なのでそこに何かしらの思惑が見て取れる。
わしが察するにその思惑……というかこういう時にそういうことをしやがる存在。
寺川殿じゃ。間違いない。
「上様? 寺川殿はどこにおられるのですか? 暁光の育児ゆえ、今回は育休的な戦力外のはずですが……?」
わしの言の後に対し、無線への介入を示す少しのノイズの後、よく知った声が聞こえてきた。
「ふふふ。やっぱ気づかれちゃった?」
「その声は寺川殿! やっぱりか! つーか気づいて当然じゃ! どこにおるんじゃ? まさか寺川殿まで戦うつもりとかいうんじゃなかろうな!?」
「怒らない怒らない。大丈夫よ。今回、私は育休でしょ? ちゃんとおとなしくしてますってば!
でも……私は、今ね……えーとぉ、小月(おづき)ってとこにある海上自衛隊の施設なんだけど……教育航空群……?
よくわかんないけど、そこにいるわよ。織田家の皆さんと一緒にさっきここに到着して、んで私達だけここで待機してる感じね」
……私……達?
「光成おにーちゃーん! 勇多おにーちゃーん! がーんばれ! がーんばれ!
それ、ガンバ♪ ガンバ♪ ガンバ♪ ガンバ♪」
そして無線の向こうから暁光の声も聞こえてきた。
なぜ暁光をこっちに連れてきた?
しかもめっちゃ応援してくれておる。
やはり天使か……? と。
わしの体の疲れもどっかに飛んでいったし、なんだったら両腕の怪我も治ったような気すらしてきた。
いや、暁光の可愛い応援に顔の筋肉を緩めておる場合ではない。
暁光の手前、その母親たる寺川殿が戦場で殺し合いを始めたら教育上よろしくないことは明白じゃし、それどころかこんな激しい戦いの中で寺川殿の身に何かあったら暁光の心に多大な影を落とす。
そういうのを危惧したがゆえ、今回は寺川殿を戦力として考えないようにという配慮はわしも――そしてこの戦いを戦闘開始当初から指揮してきたあかねっち殿も心に決めておった。もはや暗黙の了解と言ってもいい。
な・の・にィ!
あんのクソババァ!
そういうわしらの配慮を思いっきり踏みつぶして、さも当然のようにこの戦いに絡んできおった!
しかも暁光を連れて!
「暁君、ありがとう。お兄ちゃん頑張るね。でも……」
しかしながらわしが暁光にそんなお礼を返してる途中にも、また寺川殿が会話に割って入ってきやがった。
「佐吉? さっき氏直君が作ってくれた作戦概要の資料見たけど、本州側の基点も必要でしょ? 主に山陽地方から中国山地に兵を送る基地的なものが。
今、輸送船に乗って早期離脱組の戦力が続々とここの近くの港に到着してるわ。私がこっちから支援するわよ!
でも、ふふふ。どう? いいタイミングだったでしょ?」
あぁ、寺川殿はいつも絶好のタイミングでわしらを助ける。
それはそれはもう……こういう大きな戦いにおいて、そのすべての戦果を自分の手柄にするかのように――いや、そういうのはどうでもいいんだけどさ。
まぁ、これも結果オーライといったところか。
いや、“結果”というか織田勢の戦いはむしろこれから始まるんだけどな。
そこに行くまでの過程――政界引退から数年、それぞれ全国に散らばっておった織田家の家臣団を即座に集めるよう信長様に依頼し、というかご本人すら戦場に引っ張り出してきやがった。
こんなことができるのはねね様たる寺川殿以外にはありえない。
でもそんな寺川殿の暗躍により、戦況が一気に変化したことも否めん。
そしてそんな戦況の変化を敏感に察知する男が1人。というか吉継のことなんじゃが、ここでホバークラフトにて撤退中の吉継から無線が入った。
「三成? わしらもこの船を再度折り返し、戦場に戻る。威力偵察から敵武威の消耗作戦に切り替えるゆえ、おぬしもそのように!」
うむ。やはりというか、当然というか。
織田勢を加えれば、吉継と上杉・武田の精鋭たちと合わせて十分な戦力と言えよう。
あとついでに康高。
まぁ、ここ数年康高には過酷な戦闘訓練を仕込んできたし、スタッドレス武威も十分に操れるし……。
そういう意味ではあやつのことはまったく心配はしておらんけど――うーむ、やはりちょっと心配じゃな……あれ?
まっ、いいか。
「了解じゃ! 今織田家の皆様が3つに分かれて戦闘をしておる。だけど、そこに吉継らを単純に戦力分割配備しても、各々の連携を上手く発揮できん。
なので上杉・武田勢は趙雲へ。吉継は康高を連れて関羽に!
すでにそれぞれと戦闘を始めておる織田方の兵は、全戦力を張飛に集中させる感じでお願いしますじゃ!」
わしは早速戦場の戦力分布を再配備し、無線からもそれぞれの兵たちの勇ましい返事が返ってきた。
まぁ、因縁深き武田勝頼殿と織田方の面々をあえて離したかったという事情もあるんだけどな。
そういうこともちゃんと配慮しつつ、んでもってさらなる戦力を投入じゃ。
「氏直? そろそろ行くか?」
わしの近くでずっとパソコンをいじっておった後北条家の氏直に怪しい笑みを投げかけ、氏直も似たような笑みを返してくる。
「御意!」
「では吉継・康高と組んで関羽との戦闘を頼む」
「はっ!」
ふっふっふ。
こちらにもまだまだ秘蔵っ子と呼べる人材がおるのじゃよ。
あと、そうじゃな。別室で謙信公たちと待機しておるはずの1人の人物にも声をかけてみるか?
「虎之助殿? 聞こえるか?」
「おっ。三成さんですね? はい、聞こえますよ?」
「もしよかったら関羽と闘う部隊に加わってほしいんじゃが?」
「えぇ、わかりました。ではすぐに出陣を」
「助かる。吉継は戦闘経験豊富じゃが、その体が小谷勇多に変わっておる時は……って、多分電動ドリルを操っておる時はずっと小谷勇多の方だと思うんじゃが、その場合、康高や氏直と同じく長期戦のような特殊な実戦経験に乏しい。ゆえに虎之助殿にサポート的な動きをしてほしいんじゃ」
「承知しました。でも……あの3人ですか……私めでは若干力不足のような気もしますけど、まぁやってみます。褒美は米沢牛にピッタリな日本酒でよろしくです!」
ふっ、相変わらず控えめでいて、そしてフランクな男じゃ。
あとは……戦力の再配備に関する指示も終えたことだし、わしもモニターの映像と武威センサーに集中しておかねば。
新たな武器を手にした関羽たちがどれほどの強さを取り戻したかという意味でじゃ。
と、わしが視線をモニターに戻して意識も武威センサーに向けた瞬間、信長様から無線が入った。
「それで……サルの小姓よ? いや、今は三成と呼ぶべきか?
くっくっく。全軍を率いる総大将として、今の貴様を小姓と呼ぶには不釣り合いな状況であろう?」
いや、ちょっと待て。
信長様、いきなりそんなこと言うなや。
わし、そんなこと言われると……特にわしが今まさに織田勢力すら指揮下に置いているみたいなことを、信長様自らお認めになられたこの感じィ!
「え? あ、その……えぐっ……ひぐっ……くっ……ぐすん……。
はい、聞こえて……聞こえております、上様……。
何かご不明な点でも……?」
「だから貴様はいちいち泣くな! しかもこんな状況で! 貴様の情けない声が無線で全軍に広がっておるわ!
落ち着くのだ! というかまた泣くのか! いつまでこれを続けるつもりなのだ!?」
おっこられたぁ! めっちゃ! おっこられたぁ!
でも仕方なかろう! そんな……殿下ですら問答無用でひれ伏しておったあの信長様がわしのことを……!
いや、でもここはがんばろうぞ。
今まさにわしの器が試されておる。今は亡き殿下と、そしてその家臣たるわしが……いや清正など他の家臣も含め、豊臣家そのものが試されておるようなもんなのじゃ。
――のような気がする。
さすれば豊臣家の代表として、今のわしは泣いておる場合じゃない。
「ぐず……いえ、がんばりますじゃ……して、なにかご不明な点でも?」
「ふむ。先ほど貴様が行った戦力再配備について迅速な指揮、見事であった」
めっちゃ褒められた! だからそういうの危ないってば! また目頭のあたりがブワッてなってしもうたわ!
でも泣くのは我慢じゃ。
てゆーか信長様……この状況でわしのこの現象を楽しんでねぇ?
いや、信長様だって若かりし頃は自ら戦場を駆け巡り、死線を何度も潜り抜けた武人中の武人。
関羽たちが復活したこの戦況がどれほど危険なものなのかぐらいは、十二分に理解されておる。
「それで貴様が再び敵武威の消耗作戦に切り替えたのはいいが……我々はどれほどの時間戦いを続ければよいのだ?」
「はい……出来れば4時間ほど……」
「あほか? 無茶言うな。我々のような年寄りに普通そんな負担を課すか? それがサルから教わった貴様の矜持か?」
「す、すみませぬ! いえ! むしろその敵……張飛を早々に討ち取ってくだされば、それでもかまいません!」
「ならばこやつを討ち取る勢いで行こうぞ。それゆえ、持久戦になった場合はそう長くはもたん。そうだな、半分の2時間を目安に。貴様もそのように頭に入れておけ」
「はっ、ではそのように! それと敵の能力についての情報は?」
「ねねから聞いておるゆえ大丈夫ぞ。張飛は確か“追尾型の斬撃”といったか? くっくっく。これほどの強敵……血が騒ぐな」
「では織田家の各々方には全力で戦ってもらって!」
今戦っている勢力のうち、唯一法威の技術を用いておらん戦力。
だけどそんなものを凌駕するかのごとく、各々が戦国最強レベルの武威を放ちながら戦う織田勢。
まぁ、あの方々はそもそも神仏に頼ろうなどという意識などなく、ただただ破壊と殺戮をこなす面々ばかり。それゆえ法威とは無縁じゃった。
とはいえ、やはり何度もいうように法威の技術すらすっ飛ばして、それぞれがそもそも強いというのが織田家なのじゃ。
柴田の親父殿を始めとして、丹羽殿、滝川殿、池田殿、佐々殿などなど。
さらには黒母衣衆で有名な蜂谷殿や、言わずもがな織田家の狂戦士たる森家の可成殿……そしてこちらも武芸で有名な蘭丸殿。
一番若い蘭丸殿でさえ、見た感じは50そこそこの年齢。他の面々におかれては、もはや初老から後期高齢者ぐらいまで歳を取っておるけど、その体から放つ武威に衰えは感じられない。
そんなメンバーがここぞとばかりに武威を全開放し、張飛へと襲い掛かる。
パワー、スピード、そして武術においては張飛も負けず劣らずの英雄じゃが――そしてその身にまとう武威の鎧と、新たに入手した張飛の愛矛を駆使してもなお、織田勢の猛攻に押され気味じゃ。
とはいえやはり道威によって制御された武威の鎧が厄介じゃな。
張飛の攻撃は織田家臣団のメンバーも無難に防御し、または張飛に攻撃すらさせないぐらいの猛攻を四方から仕掛けておる。
でも結局はその武威の鎧によって張飛に致命傷を与えること叶わず。
織田勢の猛攻による砂塵は周囲数十メートル……いや、もはや100メートルや200メートルぐらいに広がっておるか?
それだけの猛攻を与えてもその砂塵の中心におる張飛の武威反応に大きな消耗は感じられないのじゃ。
などと思いながら武威センサーにて戦況を把握し、ところがその戦闘の中心部に信長様の武威が感じられないことに気づく。
なのでモニターの方に視線を戻し信長様の御姿を探してみると、信長様はそんな砂塵立ち上る戦場から少し離れた地点で、独り戦いを見つめられておった。
右手には酒がはいっておるであろう大きめの徳利。そして左手には盃を持ち、目の前の激戦をつまみとばかりにぐいぐいと酒を進めておる。
わしとしては「その酒、決して張飛に奪われないように」とお願いしておきたい気持ちもあるけど、酒を楽しんでいる信長様に対してそんな無粋なことなんか言えるわけがない。
「くくっ。やはりこれは、なかなかに厄介な……」
目の前の砂塵の中で繰り広げられる双方の戦いぶりを観察し、信長様はふとそんなことを口にした。
それを無線を通して聞いていたんだけど、この状況で冷静に酒を楽しむ信長様の度胸には感服せざるを得ない。
んで砂浜に広がる砂塵がさらに広がり、ドローンからの空撮映像が完全に無効化されたため、わしが武威センサーにさらなる注意を向けておると、信長様の四肢から突如として充満した武威がちょっとした動きをわしに伝えてきた。
まずは左手に持った盃を横に投げ捨て、右手に掴んでおった徳利の中身を一気に飲み干す。
「余が行く。道をあけよ」
無線を通して家臣たちに短くそう伝え、腰の鞘から刀を抜いた。
「はっ!」
「はっ!」
「はっ!」
「はっ!」
家臣たちが見事に揃った返事を返し、張飛を囲む四方からの猛攻に小さな空白を作る。
次の瞬間、信長様の体から華殿クラスの武威が一瞬だけ放出され、張飛との距離を一気に詰める。
そのスピードすら華殿に負けず劣らず。そして右肩から刀を振り下ろす袈裟斬り。
破滅的な一撃。
そう言い表すにふさわしい信長様の渾身の一振りが張飛を襲い、先ほど勇殿が与えた傷の跡に重ねるよう、再度大きな刀傷を与えた。
「ぐっ……! まさか……貴様までこのような……げほっ……くっ!」
張飛もにわかには信じられないといった表情と言を放つが、信長様はその一撃を与えるや否や、すぐに後方へと跳躍した。
その頃には蘭丸殿が信長様の着地点へと移動しており、そのお体をしっかりと受け止める。
「ふぅ……大儀である、蘭丸よ」
「いえ。久しぶりにあれが見れて、私めも嬉しゅうございます」
そして信長様はふらふらと足元おぼつかない感じで立ち上がろうとするが、やっぱりふらふらしておるので、その体を蘭丸殿が支えた。
若干2人の顔が異常に近いような気もするけど、それはこの際触れないでおくとして――そう、これこそが信長様の必殺技じゃ。
いや、そんな陳腐な表現では表しきれない圧倒的な一撃。信長様が戦国の世をして魔王と恐れられた所以じゃな。
でもまぁ、今の時代では華殿がおるし、勇殿も先ほど破壊的な攻撃手段を見せておったから、今のわしとしてはそこまで恐怖することはない。
でもかつての時代にこの攻撃を受けて生き残った者など皆無。
その反動で信長様も暫くまともに動けなくはなるが、これはやはり戦国最強の一撃と呼ぶにふさわしい。
でも今回は武威の鎧に守られた張飛の胴体を真っ二つにすることはできなかったようじゃ。
それを信長様も予想しておったのじゃろう。
全武威を込めた一撃の後、さらにわずかに残った武威の残りかすを足に込め、後方へと跳躍した。これは張飛からの反撃を警戒したゆえの行動なのじゃが、やはり張飛はいまだ存命じゃ。
さっきの超常現象でせっかく治った胴体の大傷がまた血を噴き出しておるけど、それでも片膝をつく感じで何とか持ちこたえておる。
「攻撃を続けよ」
まぁ、その後すぐに信長様の短い命令が下され、家臣団の猛攻が再開されるんだけどな。
「余の武威が回復し次第、また放つ。それまでは攻め続けのだ」
張飛と距離をとり、乱れた呼吸を整わせながらも信長様がさらに下知を出す。その言に家臣たちからまたまた揃った返事が返り、さらなる激しい攻撃へと。
「それと三成? 聞こえるか?」
「はっ! 聞こえております! にしても相変わらず見事な一撃でございました!」
「世事はよい。これで張飛は先ほどの“摩訶不思議な現象が起きる前まで”の状態に戻った。違うか?」
「えぇ! お察しの通り、張飛は武威の鎧の修復と体の傷の回復に充てるため多大な武威の消費を必要としております。ゆえに張飛の武威はだいぶ減り、体もそのような状態に!」
「くっくっく。そうか。それはなにより。ではこちらはこのまま暫く持久戦へと……それでよいな?」
「はっ! 御意のままに!」
最後にわしが礼儀正しく返事をすると、信長様は少しの睡眠へと入った。
一方、別の戦場では康高と勇殿がコンビを組んで関羽と戦っておった。
関羽たちはすでにそれぞれが戦闘を繰り広げながら移動し、各々の戦場は500メートルほど離れておる。
加えて吉継はホバークラフトから海岸へ向けて跳躍している時に、関羽を囲む織田勢に対して張飛の元へ行くよう促しておった。そのため、一瞬だけ関羽と康高のみの戦場になっておったが、そこにすぐさま吉継が合流。
しかも吉継は勇殿と意識を交代し、電動ドリルによる破壊的な斬撃を繰り出しながら関羽との接近戦に入った。
「うぉ! って、勇おにいちゃん!? それ何ッ!? 怖ッ!」
お互いが接近したことで康高が初めて勇殿の異変に気付き、加えてその刃からあふれ出る攻撃的な武威の気配も感じ取ったために、一瞬だけ恐れを抱く。
でもそれを発生させているのはあくまで勇殿じゃ。
「ふっふっふ。康君? すごいでしょ、これ! ここまで仕上げるのにめっちゃ苦労したんだよ!」
「すっげぇ! いや、マジですっげぇ! それ完全に殺人兵器じゃん!」
「いや、康君? ここ戦場なんだけど!? 武器なんてみんな持ってんじゃん! 少し落ち着いて!
しかも……『殺人兵器』って。ぷっ! そのツッコミおかしいでしょ!」
「いや、でも俺はほらッ! ちゃんと金属バットだし! わりと人道的な武器で……!」
相手が勇殿なので、康高が抱いた一瞬の恐怖心もすぐさま収まり――ってか緊張感あふれる対張飛戦の戦場とは比較にならないくらいのふざけっぷりじゃ。
対照的にもほどがあろう? というぐらいにゆるーい感じで勇殿が答え、そこからさらに世間話的な会話が進んでいく。
しかもそこにさらなる人物が1人……こっちは関西人の血が騒いだのじゃろう。
「『ちゃんと』の意味がわかりませんわ! 金属バットも立派な凶器ですわ! どっちも殺意むき出しでわいに襲い掛かっておられるでしょうに! でしょうに!」
「2回言った! ねぇ、関羽のおじさん! 今おんなじこと、2回言ったよねぇ! どういうこと!? ねぇ、どういうこと!?
大事なことだから? まさか大事なことだから2回言ったの!? って俺もおんなじ事2回言ってるぅ!」
「やかましい坊ちゃんですわな! えぇーい! ツッコミもその動きも、うざったいですわ!」
さらにはよくわからんトリオ漫才みたいになったので、わしは手元のパソコンを少し操作し『対関羽戦の戦場』だけ無線通信の音量を下げる。
我が弟ながら――そして我が親友ながら――康高と勇殿が無線に伝えるこの醜態具合はちょっと恥ずかしいからな。
だけど隣に座る豊久殿も、これには黙っておれんようじゃ。
「あっはっは。こっちはおもろいっスね! いや、見た目はマジな殺し合いしてるのに! ちょ、三成様? ボリューム下げないでください!
もうちょっと聞きたいっス! おもろいっスから!」
「いや、この映像は別室にも届いておる。むしろ各艦に待機する全軍に……。
流石にこの惨状を味方全軍に聞かれるのは辛い! って、おい! いや、ちょ……手を放せ! 豊久殿!? ちょ、邪魔する……な!」
ここでなぜかわしと豊久殿もノートパソコンの主導権を狙って軽く争ってしまったが、その間にも意外と早く現場のしょーもないやり取りは終わっていた。
キィーン……キィン……キィーン……
勇殿の攻撃が関羽の手にする新たな武器に衝突し、甲高い音が響く。
同時に関羽を中心に勇殿とは反対側の位置をキープする康高も、手に持った金属バットをフルスイングし、関羽の背中に打撃を続けた。
でもやはり康高の攻撃では関羽に有効なダメージを与えられない。
康高自身もそれを瞬時に悟り、関羽への攻撃を頭部へと集中させる。
ごん、ごん! という鈍い打撃音を鳴らしつつ、それを何度も――しかも勇殿が攻撃を繰り出す直前にだけ関羽の頭部にバットを当て、関羽の視界をわずかに揺らす。
関羽が勇殿の攻撃を防御する動きに少しでもミスの可能性を作ろうという、康高なりの作戦のようじゃな。
その結果、やはり関羽は勇殿の猛攻を正確にさばききれず、たまに勇殿の“削り取る斬撃”によって武威の鎧をごっそり削られた。
「ぐっ……これまた厄介な連携ですわな」
もちろん関羽にとってこの攻防のネックになるのは、そんな康高の存在。
しかし自身の背後をキープする康高を狙おうにも、その対象はわし仕込みのスタッドレス武威によってすぐさま距離をとる。関羽が得意とする一振りによる数発の斬撃――いわゆる“同時多発型斬撃”を放っても康高は十分な回避をしつつ、しかしながら不規則な動きですぐに接近し、また関羽の背後へと。
こんな動きだけでも厄介なのに、そもそも目の前には破壊的な攻撃手段を持つ勇殿。
そちらにも十分意識を向けておかなくてはならないため、やはり関羽の苦戦は終わらない。
まぁ、こういう勇殿と康高のコンビネーションは、わしと勇殿が例の倉庫にて三原や頼光殿と訓練しておった時の動き、そしてその時の役割分担と大して変わらん。
とはいえ、そういった戦術的な話もさておき、そもそもこの戦いは康高にとってはマジな初陣じゃ。
そう考えると感慨深いものがあるし、むしろわしもその場で一緒に戦いたかった。
でもわしは現在、両腕を満足に動かせん。
さすればしかたなし。
しかもじゃ。その戦場には空からさらなる増援予定がある。
勇殿と康高が関羽との激しい戦いを繰り広げて数分後、ヘリコプターから2人の人物が飛び降り、戦いに加わった。
虎之助殿と氏直。
こっちはこっちでわしらがおるイージス艦から数百メートルほど離れたところに待機していた航空母艦に海上走行で移動し、そこに搭載されていたヘリコプターに乗り込む。
んでホバークラフトとは比べ物にならないぐらいの速度で戦場に到着した。
「うー。こっちもやはり……わしも一緒に戦いたい……」
わしにそう思わせるだけの関係性を持った大切な仲間たちが一緒に戦っておる。
ゆえにドローン映像を見つめながら思わずそう呟いてしまったわしだけど、そんなわしをのけ者にする感じで戦場の皆は見事な連携を見せ始めた。