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137 最終決戦の捌



 10分ほどたったじゃろうか?

 冥界四天王の猛攻が関羽を襲い続け、1分経つごとに……いや、秒を追うごとに関羽の武威が減少していった。

 中国自動車道の終わりと関門自動車道の……いや、ここら辺の名称の違いはよくわからんのだけど、それら高速道路の山口県と関門橋の境目あたりで行われていた3つの戦闘が徐々に間を広げ、それぞれの戦場における作戦自体も順調に進行。

 とりわけ冥界四天王が暴れまくっておる対関羽戦の戦場では、ドローン映像及び武威センサーの反応が活発に変化しておる。


 変化というか、やはりあれじゃな。

 クロノス殿を中心とする冥界四天王の攻勢が強すぎて、関羽がまともに対処できておらん。

 言わずもがなクロノス殿があの関羽と正面からやり合い、他の3人も連動して関羽を襲い続けている。

 ジャッカル殿が総攻撃という判断をしてからというもの、関羽が身に纏う武威の鎧が著しく形を変え、それを修復または再形成するたびにわしの武威センサーが関羽の劣勢を伝えてくるんじゃ。


「うーむ。すごいな……」


 いつもの訓練では三原や頼光殿の四天王を相手に互角。果ては華殿さえもこの4人を同時に相手にするときは息を切らしてはおったが、そこに訓練では発揮しきれない“殺意ありの全力”というものを加えた冥界四天王がこれほどまでとは……?

 やはりは三河の小さな領土から天下を統べるまでに国を広げ、その分だけ死線を潜り抜けてきた者たちだったということか。



 などと若干の恐怖心も覚えつつモニターを見つめておったら、武威センサーに信長様の強力な武威反応が現れた。


 ちゅどーん。


 慌てて他のモニターに視線を移し、織田勢力と張飛の戦場に意識を向けてみると、そんなミサイルじみた衝撃音とともに砂塵が大きく舞い上がっておる。

 あぁ、信長様の2発目が放たれたのだな、と。

 こっちはわしが信長様に送った生贄があの後どうなったのか確認したくなかったので、あまりモニターを見ないようにしてたんだけど……まぁ、そういうことなのじゃろう。



 それはそうと、その攻撃にて張飛の纏う武威の鎧はまたまた大きく破壊されておる。

 それどころか信長様の一撃を防御しようとした張飛の武器『丈八蛇矛(じょうはつだぼう)』は大きく弾かれ、どっかに飛んで行った。

 しかも張飛はそれでもあの一瞬だけで信長様の攻撃を防ごうとしたらしく、武器をはじかれた後に両腕にて胴体を防御。しかしながらその攻撃により左腕の肘から先を切り落とされたようじゃ。


「はぁ……はぁ……ちっ、この体も意外と……げほっ……やわじゃのう……」

「くっ、これでもまだ抗うと申すか?」

「ふーぅ、ふーぅ……何をたわけたことを! おどれもこの一撃のせいで……はぁはぁ……ふらふらじゃけんのう?」

「でも余には……はぁはぁ……この者たちがおるぞ? さぁ、皆で攻めよ。くっくっく……」


 張飛と信長様が短く会話を済ませ、そんな会話の最中にもまた蘭丸殿が2人の間に入り、張飛に刀の切っ先を向ける。だけど今回の信長様は左腕と愛矛を失った張飛からの反撃はないとみなし、後方に退避することはなかった。

 その代わりに武威がすっからかんになった信長様はそのままの位置で前に倒れ込み……いや、またしてもそれは蘭丸殿が背負う形で支える。

 んで笑いながら意識を失う直前に発した信長様の下知により、他の者は声をそろえて「御意」と。張飛も張飛でふらふらし始めていたけど、そんな敵に織田勢の総攻撃が始まった。



 そんな織田勢の優勢具合も確認し、わしは次のモニターへ。

 趙雲と上杉・武田勢が戦っておる戦場には、実のところこの10数分の間に復活した毛利と長宗我部、そして島津の早期離脱組をまとめて向かわせておいたのじゃ。

 なのでこっちもこっちで万全の布陣による戦いが繰り広げられており、ついでに言うと趙雲は1度冥界四天王によって大きなダメージを負わされておるゆえ、その影響が大きく出始めておる。

 四肢の関節に回るハチさんの毒と、その他の昆虫による外傷。そしてミノス殿の肝臓つぶしの一撃。

 それらの影響が如実に現れ始め、趙雲の動きが鈍くなっておるんじゃ。

 んでそんな趙雲に各勢力の精鋭たちが一気に攻め立てる。もはやこっちも優勢極まりない。



 もうさ、なんかここらへんで全ての戦場が一気にケリをつけられそうなんだけどな。

 だけどそうもいかんのがこの戦いじゃ。

 よくわからん“黒幕からの支援”。あれが再度あったならば、それぞれの戦場はまたしても振り出しに戻ることとなる。

 それがどうしてもわしの頭から離れないため、わしも――そしてわしの隣に座る豊久殿も表情を緩めることができない。


 だけどそれらのモニターに視線を行き来させながらそんなことを考えておったわしの隣で、ふとした瞬間に豊久殿が小さく呟いた。


「せき……とば……?」


 ん? “せきとば”? なんのことじゃ?

 いや、聞いてみようぞ。


「せきとば? どうしたのじゃ、豊久殿?」

「いや、なんか……関羽……の声でしょうかね。小さな声で“せきとば”って聞こえたような……?」


 ちなみに今わしらのいる指令室には、各戦場の叫び声がスピーカーからまとめて出ておる。

 だけどそこにはAIによる音量操作技術を加えることで、敵味方の叫び声や悲鳴などの類は小さめに。逆に現地にて飛び交う指示や、こちらに対する報告のような“文章”は大きな音量ではっきりと聞こえるように設定してあるんじゃ。

 まぁ、わしと――そしてわしの弟子である氏直がつい最近実験がてら設定できるようにしたものなのじゃが、氏直がこの戦に加わった頃にあやつがそれらをしっかりと設定してくれておる。

 それでも必要なときは無線のチャンネル切り替えやグループ化の手動設定が必要となるんじゃが、そんな音響環境において豊久殿が何かのセリフと思われる音を拾ったようじゃ。


「せきとば……?」


 うーん。どっかで聞いたような……


 あっ!


「赤兎馬! あれじゃ! 関羽が三国志の時代に乗っておったといわれる馬の名前!」

「そうっスね! 確かそんな名前だったような! あははッ! さすが三成様! でも、なぜこのタイミングで……?」


 そんなことはわからん。でもそこには必ず意味がある。

 なのでわしは慌ててノートパソコンを操作する。

 吉継が関羽に仕掛けた盗聴器のボリュームを上げ、同時に戦場で関羽を囲む冥界四天王たちのマイクの音量も大きくした。


「ほう……そうですかいなぁ……はぁはぁ……でも、先ほどの……アレは? はぁ……。

 うーん、それは仕方ありまへんなぁ……はぁはぁ……ではやはり“赤兎馬”にて……」


 関羽が小さな声で誰かとしゃべっておる!

 でもその会話の相手は冥界四天王や康高ではない。もちろん少し離れたところで待機する勇殿たちでもない。


 うむ、明らかに何らかの策略じゃ!


「『BLOODY RED』? 『BLOODY RED』? 警戒して! 関羽が何か企んでいる!」


 だけどこの指示が失敗じゃった。

 わしの声に従い、冥界四天王と康高が一瞬だけ猛攻を止めてしまい、その瞬間にも関羽は体を纏う武威を強める。

 次の瞬間には北西の方角へ向かって走り出した。


「あっ、逃げた!」

「ちッ!」

「みんなァ! 追うよ!」

「うん! 勇おにいちゃんたちは!?」

「僕たちも追う! いいよね、光君!?」

「うん! みんな急いで! 決して逃げられないように!」

「光君の武威センサーでも追跡してるよね? でも下手するとそっちからじゃ関羽のおじさんが武威センサーの範囲外になる可能性も? どうする? 光君もこっち来る?」

「うん! すぐにそっち行く! 行くけど……!」

「うーん、光君は……そだな……ヘリコプターとか使って、空中から武威センサー広げる感じで! 降りてこなくてもいいよ!」

「そうだね! 光君、負傷してるし! そこからヘリでこっちに近づいてきて!」

「あの敵がどっかに隠れたら、ヘリからその場所の指示だけでもしてもらえれば! あとはうちらが追撃するから!」



 お互いの声が無線で行き交い、わしも慌てて立ち上がる。

 ノートパソコンを手に持ち……って、ここでわしの両腕の状態を気にしてくれた豊久殿が代わりにノートパソコンを持ってくれた。

 まぁ、わしの両腕の傷もだいぶ回復しておるから、ノートパソコン持つぐらいは全然できるんだけど――それはいいとして、わしと豊久殿は作戦室を出て、足早に甲板へと向かう。


「おぬしも来るのか?」

「えぇ。一応護衛係ということで! でも三成様の敵補足能力……武威センサーって言いましたっけ? 今はどれぐらいの範囲を?」

「うむ。武威センサーは……そうじゃな、半径で15キロぐらいじゃ。でもあやつが本州を東側へと逃げた場合、ここからではすぐに範囲外になってしまう」

「ですよね。関羽が中国山地の方に逃げてしまったら、船で日本海側に迂回している時間もないっス。それじゃ取り逃がす可能性が。

 しかもいずれどこかのタイミングで三成様もヘリから降りないといけなくなる可能性もあるっス。ですので、やっぱり護衛役として自分もついていくっスよ」


 いや、こやつ……重ね重ねになるけど、やっぱりなかなか頭の切れる男じゃな。

 イージス艦という船におるわしの武威センサーと、それによる関羽の追跡。

 それを完璧にこなすため、この一瞬でさまざまな事態を予測し、それをわしに確認してきた。


「では頼む」


 まっ、今はそんな豊久殿を褒めておる時間もないんだけどな。

 わしらは艦内を移動しながら無線にてヘリコプターの離陸準備をしてもらい、甲板に出てすぐ近くの航空母艦へと向かって跳躍と海上走行を開始する。


 その移動中にも、ノートパソコンのスピーカーからは逃走中の関羽の声が聞こえていた。


「張飛さん? 合流しましょうや。わいが赤兎馬を“します”んで、あとで迎えに行きますわ」

「おう、わかったわい。こっちも苦戦中じゃったきぃ、それは助かる。でも、それはつまり……あのおかしな現象はもう無理じゃということけぇ?」

「――のようですわいな。なので“1度逃げろ”との“声”が……」

「それはこっちにも聞こえておったぞ。では趙雲のガキにも伝えてやってくれ!」

「ほいな。では後ほど!」



 まずさ、いろいろとおかしい。おかしいけれど、その中でもとてつもない違和感のある言は聞き逃すことなどできん。

 赤兎馬を“する”?

 お馬さんの名前を動詞に……?

 なんかすんごい違和感のある言い方じゃ。


 でも会話から得られるその他もろもろの件についても分析せねばなるまい。

 よくわからん“黒幕”からの支援。どうやらそれはもう無いらしい。

 そこらへんは理解できたし、その内容もこちら側に都合のいいものだったのでいいじゃろう。


 その他にも、そもそも信長様の攻撃を2度も受けながら、いまだ織田家家臣団と戦い続けている張飛の強さ。しかも片腕を失いながらもスマートフォンで会話すらこなしておる。

 おそらく両足のみで周囲の織田勢と戦っておるんじゃろうけど、そこらへんも改めて驚愕すべきことじゃ。

 んで、このタイミングでわしらはヘリコプターの元へとたどり着き、その中に飛び込んだ。


「我々は戦闘区域の上空、高度1000メートルでホバリングを! 細かい位置は随時伝えますので、そのように!」

「はい! では離陸します!」


 今さらだけど、自衛隊の皆さんもよくサポートしてくれておるよな。

 というか人知を超えたわしらの戦いにさも当然のように理解を示し、どこの誰かもわからんわしらの指示を懸命に実行してくれておるんじゃ。

 いや、ここら辺は総理大臣として、同時に自衛隊の最高指揮官でもある利家殿からの下知もあろう。

 だけどさ――わしらの存在とこの戦いを現実として受け入れるのは、さすがに苦労したんじゃなかろうか。


 まぁ、そこらへんも今はどうでもいいとして。


 明らかに一般人を乗せているとは思えない動き――つまりは“それ用”の急旋回と急浮上を経て、わしらは山口県の空域へと移動する。

 それぞれの戦場との距離がまたちょっと近づいたので、わしの武威センサーに伝わる戦場の状況も一段階詳しくなった。

 そこから察するに、関羽は下関市内の方へと向けて高速で移動。加えてその後を勇殿たちがしっかりと追っておる。


 でもこちらはすでに街全体がもぬけの殻じゃ。

 人質を探すにしても街中に人気は無く、道路のそこら中に乗り捨てられた車があるのみ。

 もちろんコンビニさんや商店の類も、急な避難命令により店のシャッターを閉めることもせずに放置されておるけど、関羽が張飛用の酒類をとりに行く様子もない。


 そもそも酒による酔拳じみた強さと回復を狙うなら、あのような不可解発言はしないはずじゃ。

 やつら、勇殿を前に堂々と「酒をくれ」などと会話をしておったからな。

 ゆえに酒類の補充が目的ではない。

 では何を?


 だけど、その理由はすぐに分かった。

 先ほども言ったように、市街地の道にはそこら中に車が乗り捨てられておる。

 それらの間を関羽はすり抜けるように走り、そして1台の車に目を付けた。


「これでええですやろ。運転しやすそうですし、スピードも出そうですわ。それに……エンジンもかかったまま……」


 車?

 でも車で移動とは?


 そんなもので移動をしたところで――んでそれで張飛や趙雲を拾い上げて逃走を図ろうとも、車の1台や2台、武威使いのわしらには簡単に破壊できる。

 そういうレベルの攻防をしておったのがこの戦場じゃ。

 ゆえにこの時の関羽は苦し紛れに安易な逃走方法を選んだのかと思ったんだけど、それは違った。


「ん?」


 まずはわしの武威センサーに伝わってきた大きな武威の塊。

 いや、これは車そのものを武威で包んでおるようじゃ。

 だけどこの時点では、わしはそれもただのハッタリだと決めつける。


 例えばの話、わしが拳銃に武威を込めて制御したり、同様に勇殿が電動ドリルにそういった効果を付加させるためには、複雑で繊細極まりない武威操作技術が必要となる。

 だけど車においてそれを施す部品の数は数万から数十万。そんな果てしない数の部品によって構成される“車”という代物に武威を均一に流し込んで動きを制御するなど、それはもはや武威を操る人間の脳の性能そのものの限界を超える。

 ゆえにたとえ関羽がかつての時代における道威技術の最高到達点に達していたとしても、よくて武威の鎧を纏ったり、斬撃に付随効果を生むぐらいだったわけで、車の能力を爆上げさせることなどできようもな……


 ……


 ……



 いや、待て! そういうことか!


 関羽たちは自身の周りに武威の鎧を纏わせることができる。

 それを車に施す、ということじゃ!

 つまりはわしの拳銃や勇殿の電動ドリルのように機械の性能そのものを上げるわけではなく、ただ車の周囲に武威の鎧を纏わせるだけ。

 それならばあやつの技術でも十分に可能なはず。


 しかもやつが言っておった不可解な言!

 お馬さんの名前を動詞に……っていう話! でもかつての時代にあやつの愛馬であった“赤兎馬”に似たようなことを施しておったのなら、それはやはり戦場においていつまでも怪我無く走り続けることのできる“名馬”となりうる!


 くっそ!

 それゆえ“赤兎馬をする”などという言い方を!

 いや、言い方などはどうでもよい!

 あやつが車にそのような道術を施し、張飛や趙雲を乗せて移動を始めたならば、それこそ山陽・山陰地方に限らず一気に出雲まで移動することができてしまう!


「みんな! 関羽が車に乗ったけど、それ全力攻撃で破壊して! 絶対に下関市内から出さないで!」

「え? 車?」

「ん? でも今さら車なんて?」

「そりゃ、うちらは簡単に車壊せるけど?」


 追尾中の勇殿、ジャッカル殿、そしてミノス殿から怪訝な雰囲気の返事が返ってきたけど、わしはさらにノートパソコンのマイクに向けて叫ぶ。


「その車、武威の鎧で強化したらヤバい!」


 もちろんこの短い言のみで、各々もことの重大さを理解する。


「あっ……それ、確かにヤバいかも!」


 最後にカロン殿の納得したような声が聞こえ、わしの武威反応にも勇殿たちのさらなる武威の放出が伝わってきた。

 この頃には入り組んだ市街地の都合上、皆は一瞬関羽の姿を見失い――さらには関羽が停車中の車に乗り込んでおったため、それを探すのに手間取っておった。

 だけど人気がなくなったこの街で、1台の車両だけいきなり動き出したらそれこそ目立つことこの上なしじゃ。


「あれだ! あの乗用車!」


 結果、『キュルキュル』という急発進によるタイヤの空転音を響かせながら動き出した車にクロノス殿が気付き、その叫びを聞いた一同は一気に攻撃を仕掛ける。

 だけどUターンをして再度さっきまでの戦場に戻ろうとしておった関羽の車と正面衝突する形で、それぞれの攻撃と体は弾き返された。


「がはッ!」

「ぐッ!」

「うおッ!」

「どひゃ!」


 もちろん車の速度による体当たり程度では、皆に大きなダメージなどない。

 しかしこちら側の攻撃がまったく効かないということもこの瞬間に証明された。


 うーむ。ヤバい。

 これは非常にマズいんじゃ。


「はぁはぁ……これでなんとかいけまっしゃろ……そう、張飛さんと趙雲さんを乗せて……あとは……ここから逃げて……

 どこかで傷と体力と……そして“気”の回復を……はぁはぁ……」


 うん。関羽の独り言が聞こえてきたけど、それが可能となるんじゃ。


 だけど武威に守られたこの車は、自衛隊による空爆を行っても耐えることができるじゃろう。

 その走行を止められるのは、おそらく華殿による攻撃かわしの拳銃、それと勇殿の電動ドリル。

 とはいえ華殿は現地におらんし、わしもまだ両腕の回復が十分ではない。もちろん勇殿は車にひかれながらもおかしな声を出し、明後日の方向に飛んで行っておる。


 そんな勇殿じゃ今から全力で追いかけても、張飛たちのところへと向かう車に追いつくことはできないし……つーか関羽の野郎、追跡されないようにあえて入り組んだ裏道を選んでくねくね移動してやがる!

 これじゃわしが空から勇殿たちに指示を出しても、なかなか追いつくことができん。

 いや、むしろわしが今ここから落下して、直接あの車を追うか? そして拳銃でタイヤのあたりに1発入れれば、なんとか……?


 ……


 ダメじゃな。

 そもそも乗り捨てられた車はそこら中にある。

 車が動けなくなったら、それはそれで他の車に替えればいいだけ。

 だけどわしの武威にも限りがあるし、そもそもわしはすでに昼間激しい戦いを済ませておるゆえ、今のわしの残存武威総量も完全とは言えん。

 そんな状況で何発も拳銃を使ったら、わしは戦うための武威どころか、武威センサーに使う武威すら無くなってしまう。

 これから車で移動をする関羽たちを追跡しなければならないというこの状況において、それは非常にまずいんじゃ


「ぐぬぅ」


 ヘリコプターの機内においてわしが悔しそうに唸るそのはるか下で、関羽は無事に張飛と趙雲を回収し、戦場から離れる。もちろんそれも車による移動じゃ。

 それどころか通行止めになっておる高速道路に侵入し、さらなる速度で東への移動を始めた。


「み、光君? ど、どうする? これじゃ、このまま逃げられちゃう」


 高速道路の手前で勇殿たち、そして張飛と趙雲を取り逃がした織田勢やその他の戦国勢力が悔しそうに立ち尽くす。



 だけどじゃ。



 こういう時に諦めが悪いのも、現世に生まれ変わったわしの生き様じゃな。



「うん。ジャッカル君、大丈夫。でももうちょっと待って。あの車が山間部に入ったら、みんなは臨戦態勢を解除していいよ」

「え? あ? え? 兄ちゃん? 俺たち、もう終わり? 休んでいいの?」

「うん、大丈夫。康高もみんなもお疲れさん。

 それと……織田勢の皆様も、その他の勢力の皆もゆっくり休んでくだされ。敵の武威は十分に削ったゆえ、作戦は完遂ということで。

 んで、ここで一度今後の作戦について大幅な切り替えを行いますので、皆様におかれましてはこれまで本当にお疲れ様でした」



「え? あ、え? 三成殿? 大丈夫なので?」

「その声は蘭丸殿でしょうか? はい、大丈夫です」



「この後はねね様に指揮系統に入ってもらいますゆえ……」



 いるんじゃよなぁ、こっちにもまだ――そう、軍の指揮というか統率というか、そういうのを頼める人材が。

 わしに似て……というかわしがねね様たる寺川殿の影響を受けた側なのかもしれんけど、こういう時に相手が最も嫌がることをいろいろと思いつくタイプの人間として、わしらは似た者同士じゃ。

 んでこういう複雑でねちっこい追撃を必要とする作戦は、サポートとして寺川殿に頼るのが一番なんじゃ。


「ふふっ、佐吉? わたしのこと呼んだかしら?」

「うむ。聞こえておったか。それじゃ寺川殿? すぐに合流しようぞ。ヘリでそっち行くから」

「りょーかーい! あっ、でも私たち今広島に向かってるから、そっちで待ってるわよ!」


 ふっふっふ。あと2~3時間もすれば、鬼ジジィも起きるじゃろう。疲労スッキリ、頭キレキレの状態でな。

 ではそれまでの間、わしと寺川殿で追撃戦の続きを仕切ってやろうではないか!




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