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ケビンの書~奪還・7~

《っと……いかんいかん》


 今は黄昏ている場合じゃないな。

 早くナシャータをリリクスから離さないと。


「はあ~バレてしまっては仕方がないのじゃ」


 見破れられたみたいな事を言っているが、正体を明かしたのはナシャータの自爆じゃねぇか。

 いや、そもそもバレるとかバレないとかそう問題じゃなないだろう、なにせ別人だったんだし。


「……じゃったら、さっさと目的を果たすの――」


 ナシャータが少し身をかがめたぞ。

 おいおい、なにをしでかす気なんだよ。


「――じゃ!」


 ちょっ!

 ナシャータが低空飛行でコレットに突っ込んでいったし!


《あぶない!》


「きゃっ! ……あいたたた」


《――ぷはぁー……あっぶねぇな、まったく……》


 ナシャータが、コレットとぶつかりかけた瞬間に上へと飛び上がったから2人が衝突はする事はなかった。

 が、その勢いでコレットが転んでしまったし! ……何がしたかったのかわからんが、ぶつかってコレットに怪我したらどうすんだよ。


《コレット! 今傍に行――》


「――おい! 大丈夫か?」


 あおおおおおい! グレイ!

 ここは俺がコレットの傍に行くところなのに、邪魔するんじゃないよ!


「……あ、はい。大丈夫で……あれ? あれ?」


「どうした?」


 コレットの様子がおかしい。

 自分の体を探って、辺りを見渡している様だが……何かを探している?


「……無いんです! 皮の鎧が!」


「皮の鎧? ああ、拾った奴か……」


 え? あ、本当だ! コレットの手に持っていない。

 辺りにも……落ちていないし、一体何処に行ったんだ?


「探し物はなら、ここなのじゃ」


《ここって何処だ……あっ!》


「へ? ……あっ!」


 宙を飛んでいるナシャータが寄生の鎧を持っているじゃないか。

 そうか、さっきコレットに突っ込んで行ったのは皮の鎧を取る為だったのか。

 と言っても、いくらなんでもその取り方は駄目だろう! ナシャータがぶつかったらコレットが大怪我だけじゃすまないぞ!


《おい、ナシャータ!》


 って、そうだ俺の声はアーメットのがあるから聞こえな……あれ? ちょっと待てよ……さっきは取り押さえられていたり、状況がカオスでパニックになっていたせいで頭がちゃん回っていなかったが、よく考えるとそれって明らかにおかしいじゃないか。だって、このアーメットを付けていてもナシャータ達とは普通に会話をしていたぞ。

 ナシャータ達がかなり耳が良いとしても、取り押さえた奴らがあの距離で全く聞こえてないのは不自然すぎる。

 もしかして、本当に俺の声が聞こえていななかったのか? だから、みんな俺を無視して――。


「おっ」


 あ、ナシャータが俺の方を向いた。


「ああ、後こいつも返してもらうのじゃ」


 なんか、俺が寄生の鎧の回収ついでにみたいに言われてる感じがするんだが……。


「ん~いちいち降りるのも面倒じゃし……」


 はあ!?

 ちょっと降りるくらいで面倒くさがるなよ!


「よし、ポチ! こいつを回収して撤収するのじゃ!」


 しかもポチ頼りで回収って!

 俺は物じゃねぇぞ!


「は~い!」


 ポチが路地裏から出て来て、こっちに走って来た。

 もしかしてあいつ、あそこでずっとこっちを見ていたのか? だったら騒動の時に助けてほしかったんだが――。


「よいしょ」


《――なっ!?》


 ポチの奴、俺を荷物みたいに肩で担ぎやがった。

 ポチの事を知らなければこれって、大の男が女相手に物の様に肩で担がれている……って見えてるよな嫌だああああ! こんな醜態をよりもよってコレットの前で見せるなんて!


《降ろせ! こんな格好は嫌だ!》


「こら、あばれるな! ポチだっていやなんだから」


《嫌ならおろ……おわっ!》


「――よっ! ほっ! っと!」


 こいつ俺を肩に担ぎながら、いとも簡単に壁を蹴って建物の屋根に登ってしまった……まぁこんなのポチからしたら朝飯前か。


「さて、いえはっと……あっちだな」


 このままの格好で遺跡に連れていかれるのかよ。

 かと言って、こんな屋根の上に降ろされても困るからこれは甘んじるしかないか。


《……はっ!》


 このまま遺跡へ向かうのは非常にまずいじゃなか!

 せっかくナシャータを、ドラゴニュートを遺跡にいないように見せかけたのに、ここで遺跡の方向に行ったらドラゴニュートが戻ったと思われてしまうぞ。

 ここは遺跡とは真逆にポチを向かわせないといけないが、果たしてコレが通用するかな。

 ええい、通用しなかったらしなかったで別の手を考えるだけだ。


《そういえば、ポチ……》


「ん? なんだよ」


《あっちの方に肉を焼いていた店があったぞ、早く行かないと無くなって――》


「――っ! じゃあね~」


 指を指した方向に迷いもなくポチが走り出した。

 いや、俺の思惑通り遺跡の反対側に走ってくれたのは嬉しんだが……リリクスに来た時も同じような手で釣られた事を、こいつは何故学習をしないのか。


《……まぁいいか、後はナシャータもこっちに来てくれればいいが……》


「お~い、お前たち待つのじゃ!」


《お、来た》


 ポチの足の速さでもさすがに飛んでいるナシャータには追い付かれるか。


「どこへ行くのじゃ、家は逆方向じゃぞ?」


 ナシャータは逆方向に来た意味が分かっていないか。


《わざとだよ》


「わざとじゃと? どういう事じゃ」


《今遺跡の方向に戻ると、遺跡にお前がいるかもと思われる可能性がある。だから、わざと遺跡と逆方向に逃げて誤魔化したんだ》


「あ~なるほど」


「……ん!? ちょっとまて! じゃあ、にくのはなしは!?」


《……嘘に決まっているだろ》


「っ! また、ポチをだましたのか!? この~もうゆるさないぞ!」


《へっ? ――ちょっ!》


 ポチの奴が俺を自分の頭上に担ぎ上げたが……まさか!?


「――ぽいっ!」


《――うぎゃああああああああ!》


 やっぱりポチの奴が、俺を屋根から投げ捨てやがったあああああああ!!


 ――ガシャアアアアアン!


 あの野郎、落ちた衝撃で体がバラバラになって……。


《……いないぞ》


 いつものパターンならここで俺がバラバラになると言うオチが待っているんだが。【母】マザーの強化様様だな……って、俺が落とされたここは……。


《……ゴミ捨て場じゃねぇか!》


 あいつ、なんて所に俺を投げ捨てやがったんだ!

 俺はゴミなんかじゃねぇぞ!

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