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14章 二人の真実

ケビンの書~真実・1~

 ◇◆アース歴200年 6月24日・朝◇◆


『……』


 ――カリカリカリ


『…………』


 ――カリカリカリッ


『……よしっ! 出来たぞ!』


 コレットへ送る手紙の完成だ!

 グレイへの手紙がすぐに書き終わったからコレットへの手紙を書いたが……いやーしかし我ながら出来の良い手紙だな、想いの詰まった実に素晴らしい内容だ。

 俺にこんな文才があったとは……これなら冒険者じゃなくて、物書きにでもなった方が良かったのかもしれんぞ。


「……ううん……うるさいのじゃ……まったく、静かに……って、何じゃ!? このわしの背丈ほどある紙の束は!」


『……ん? ナシャータ、起きたのか』


 ナシャータが起きて来たという事は、もう朝か。

 いやはや、時間が経つのはあっという間だな。


「起きたのか、じゃないのじゃ! お前、これを一晩中書いておったのか!?」


 ナシャータが紙の束に指を指しているが、何か勘違いしている様だな。


『それは下書きで書いたやつだ』


 コレットへ渡す手紙の内容はすごく大事だ。

 下書きをして清書をするを何回も繰り返していたら、あの紙の束が出来てしまった。


「ちょっ下書きって、これ全部か?」


『そうだ。で、完成したのが……これだ』


 グレイに1枚、コレットに100枚と。


「完成した奴も十分おかしな量じゃが……ケビン、男へ渡す手紙にここまでするのは、さすがにどうかと思うのじゃが……」


 はあ!? いやいや! なんでグレイへの手紙に、ここまでしないといけないんだよ!

 グレイのはすぐ書き終わったっての!


『ちっげーよ! これはコレットへ書いた手紙だよ!』


「んん? ちょっと待て、なぜ小娘の手紙になるのじゃ? お前、昨晩あの男に渡す手紙を書くと言っておったじゃろ」


『あーそうか、そこを言っていないから勘違いしても当たり前か……グレイの手紙はすぐ書き終わったから、コレットへの手紙を書いていたんだよ』


「そういう事か。じゃとしてもじゃ、これは……」


 ナシャータが俺の持っているコレットへの手紙を細目で見ている。


『……何だよ』


 コレットへの想いをつづるんだ、これくらいの量になるのは仕方ないと思うんだが……俺、おかしい事をしただろうか。


「……いや、もういいのじゃ」


 と、言いつつ言い足りないって顔をしているぞ。


「で? その手紙をどうするつもりじゃ」


 こいつは何を言っているんだ。

 どうするって、やる事は一つしかないじゃないか。


『どうするつもりも何も、渡すに決まっているだろう。何を言っているんだ、お前は』


「……どうやって渡すのじゃ?」


『どうやってって、そりゃギルドに出して2人に渡してもらう様に……あっしまった! ギルドの場所をちゃんと確認していなかった!』


 リリクスはだいぶ変わっていたからな、ギルドの場所も変わっている可能性は十分にありえる。

 しまったな、俺が通っていた時と場所が変わっていなければいいんだが……。


「ちっがうのじゃ! わしが言いたい事はそこじゃないのじゃ! お前、昨日の今日で街に行く気か!?」


『……あっ』


 そうだ、昨日は簡単に入れたが今は騒ぎが起きた後だ。

 リリクスの警備は厳重になっているだろうから、鎧を着て行こうが服を着て行こうが入る前に調べられて簡単にバレてしまうだけじゃないか。

 声が聞こえない事が分かった以上、そんな事になったら俺は即討伐されちまう!


『じゃあ、どうやってこの手紙を渡せばいいんだよ!?』


「それをわしが聞いておるのじゃ! じゃからわしに聞くな!」


 そうでした。

 だとしたら、何か……何かいい方法ないか……。


『……あっそうだ! 地上が駄目なら、空だ! ナシャータが飛んで空からリリクスに入れば――』


「い・や・じゃ! そんな手紙だけでどんだけリスクを負わなければならんのじゃ!」


 確かにナシャータにとってはたかが手紙だが、俺にとっては重要なんだよ!


『そんな事言わずに! 菓子も倍作るから! なっ!?』


「嫌なもんはいやじゃ! 今回ばかりは菓子でも釣られんのじゃ!」


『そこを何とか!!』


「いやじゃ!!」


「……もう~……あさから、うるさいな~……ねむれないよ……ほんとうにさがしいふたりなんだから……」



『うーん……』


 何か手紙を渡す良い方法はないだろうか……。


「お~い……何やら焦げ臭い匂いがしてきておるのじゃが?」


『うーん……』


 地上も駄目、空も駄目となると……。


「おい! 考え事をするなら朝菓子を作り終えてからにするのじゃ! 完全に焦げておる臭いなのじゃ!」


『……ハッ! なら地下はどうだ? 穴を掘ってリリクスまで……ってそこまで掘れるわけがないか……』


「だああああああああ! もういいから、それをわしに寄こすのじゃ!」


『あっおい、まだ焼いて……』


「十分じゃ! それどころか焼きすぎて真っ黒じゃ!」


 本当だ、ありゃ完全に炭になっているな。


『すまん……』


「少しは冷静になるのじゃ、さすがに悩み過ぎじゃぞ」


 そうは言ってもなー今回ばかりは、かなり重要な事だし……。

 特にコレットへの手紙は。


「――パクッ……ううっ苦いのじゃ……」


「ごしゅじんさま、さすがにそれはからだにどくだとおもいますよ?」


「じゃが勿体な……む? うちにたくさんの客人が入って来たのじゃ」


 たくさんの客人?

 それって!


『コレットが遺跡に来たのか!?』


 もはや届けるという事を考えすぎていて、コレットが遺跡に来るかもというのを完全に抜けていた。

 本人が来たのなら――。


「それはわからぬのじゃ……って、ケビン!? どこ行くのじゃ!」


『コレットに直接手紙を渡すんだよ!』


「じゃから、小娘かどうかもわからんと……」



「……どうして、うちに入って来るの決まって小娘達なのじゃ?」


「きょうは5にんいますね」


 遺跡の入り口付近にいたのはコレット、一つ星、ジゴロの爺さん。

 ジゴロの爺さんと言えばあの閃光を放つ箱が問題だが……良かった、今日は持っていないようだ。

 で、グレイの奴は入り口の外で見た事のない冒険者風の男と話しているな。

 新しいパーティーメンバーなんだろうか?


『まぁいい、さっそくこの手紙を2人に……』


「そういえば、ジゴロ所長さん。この壁に書いてある古代文字は解読出来たんですか?」


『へっ?』


 今コレットは何て言った?

 この壁に書いてある【古代文字】って聞こえたような……。


「お恥ずかしながらまだですな……この古代文字は謎だらけですな」


『――っ!?』


 やっぱり、古代文字って言った。


「ほれ、やっぱり間違えられていたのじゃ」


『……』


 本当に俺の字が、古代文字と間違えられていたとは。

 しかも、今の会話を聞く限り内容もまったく伝わっていなかったみたいだし……そんな……そんな……。


『……そんな……馬鹿なああああああああああああ!!』

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