俺は運営がいるであろう、舞台の控室へと殴りこんだ。
運営と思われる人間が、20人ほど集まって、まだお昼だというのにビールを飲んで騒いでいた。
おそらく打ち上げをしているのだろう。
かなり大盛り上がり状態だった。
「おい!」
ドアを勢いよく開けると同時に俺が叫ぶと、騒いでいた奴らはピタリと騒ぎを止めて、俺の方を見る。
「どうかしましたか?」
俺の方に歩いてきたのは、司会を務めていた男だ。
「……ふざけるな」
「え?」
「ふざけるなーーーー!」
俺は叫んだ。
もうこれ以上ないほど、全力で。
俺のあまりの声の大きさで、部屋の中の空気がビリビリと震えた。
「あ、あの……?」
耳を抑え、顔をしかめている司会の男。
そして、数人の男がなんだなんだと、こっちにやってくる。
「おい、兄ちゃん、なんなんだよ、いきなり大きな声出して」
「これを見ろ!」
俺は腕に抱えている抱き枕を相手の前に出す。
「これは、優勝賞品の……?」
「そうだ! モナ子の抱き枕だ!」
「これがなにか?」
部屋にいるほとんどの人間がやってきて、俺が掲げている抱き枕を見ている。
ここまで来て、まだしらばっくれるつもりか。
たしかに、パッと見はわからないかもしれない。
10人中7人ぐらいは騙されるかもしれない。
だが、俺を舐めるなよ。
嫁を見誤ることなんて、絶対にない。
「気づかないとでも思ったのか? 随分と舐められたものだ」
しかし、俺がここまで言っても、運営の奴らはまだ不思議そうに首をひねっている。
わかった。
もう直接突きつけるしかなさそうだ。
「これ、コラだろ! モナ子じゃない!」
しーんと静まり返る。
だが――。
「あはははははははははは!」
一気に、部屋の中が笑いに包まれた。
運営の奴らが、腹を抱えて笑う。
「な、なにがおかしい!?」
「いやいや。そりゃそうですよ」
「なにがだ?」
「これはモナ子ではありません」
「……何を言ってる? 優勝賞品はモナ子の抱き枕のはずだ!」
「そんなことありません」
「しらばっくれるな! 書いてあったぞ!」
「……どこにですか?」
「ポスターにだ!」
俺がそう言うと、運営の奴らはニヤニヤと不快な笑いを浮かべる。
くそ、イチイチイラつかせるのが上手い奴らだ。
ぶん殴ってやろうと拳を握る。
すると、運営の奴らの一人が、ポスターを持ってきて、俺に渡す。
「これですよね?」
「そう! これだ!」
「これのどこに、モナ子の抱き枕って書いてますか?」
「ここだよ! ここ! よく見ろ!」
ビシッと指を指す。
「……よーく見てみてください」
「ん? なんだと?」
俺は自分が指差しているところを見る。
ジッと。
「……ああああああ!」
俺が叫ぶと、運営たちはふふっと笑う。
「気づきましたか」
確かに、ポスターにはこう書いてあった。
『モ十子の抱き枕』と。
「そ、そんな馬鹿な……」
「この抱き枕は『もじゅうこ』です。うちのオリジナルキャラクターですよ。だから、これでいいんです」
「……くっ!」
「さあ、お帰りください」
そう言って、運営は俺を控室からつまみ出したのだった。
1時間後、俺はみんなのところへと戻る。
さすがに連日の遊び疲れと、今日のコンテストの疲れもあるのだろう。
浜辺で遊ぶのではなく、座っておしゃべりをしていた。
「すまん。待たせたな」
「あ、おじさん、おかえり」
「どうなったんですか?」
「ああ。すべて解決したよ」
「運営もバカなことしたわね」
黒武者がフッと笑う。
「ああ。そうだな。まあ、その報いはしっかり受けてもらうさ」
運営の奴らに追い出された後、俺がしたこと。
それは――。
通報しました。
明日には監査が入るだろう。
コンテストの盛り上がりで儲けた売り上げ以上に罰金が取られるか、全国にさらされて評判を落とすか。
まあ、どちらもかもしれないが。
創作を舐めた奴には、しっかりと鉄槌が下ることになる。
「では、旅館に戻るかのう?」
「そうだな。今日は疲れたから、もう寝たい気分だ」
「そうだねー。私も、なんか緊張疲れしちゃっちゃったよー」
「今日くらいは部屋でゆっくりするのもいいかもしれませんね」
俺たちは旅館に戻り、文字通り、ゴロゴロとして過ごしたのだった。
18時。
栞奈と寝転がりながらポーカーをしていたら、禰豆美が勢いよくドアを開けて部屋に飛び込んできた。
「お主たちよ! すぐに準備するのじゃ!」
「準備? なんのだ?」
「なんと、これから花火をやるみたいじゃぞ」
「花火!?」
ガバっと栞奈が起き上がる。
「いいですね」
テレビを見ていた真凛が振り返る。
「夏といえば、花火よね」
スマホを見ていた黒武者が画面を切って顔を上げた。
「よし! じゃあ、花火を見に出かけるか!」
「「「「おー!」」」」
俺たちはいそいそと出かける準備をするのだった。
浜辺には既に、多くの観光客が陣取っていた。
もう、座る隙間がないほどだ。
「うお、人多いな」
「出遅れちゃったかなー?」
「誰かに場所を譲ってもらいましょうか?」
「やめろ」
「譲ってもらうんじゃなくて、奪い取れってことでしょ?」
「違う」
「この辺りを吹き飛ばせばいいんじゃな?」
「お願いだから、止めてください」
4人が不満そうに、人がいっぱいの浜辺を見ている。
まあ、その気持ちもわかる。
花火は見たいけど、人ごみの中じゃ、萎えるよな。
どこか、穴場があればいいんだが……。
そう思った時に、ふと思いついた場所があった。
「みんな、あそこに行くぞ」
「あそこ?」
「……ああ、あそこじゃな?」
禰豆美は気づいたようで、なるほど、と頷いている。
俺はみんなを連れて、あの場所へと向かった。
「うわー、誰もいない!」
「まさしく、穴場ですね」
「だろ?」
ここは茶子と出会った場所だ。
つまりオークくんが呼び出されていた事件現場。
多少は花火が見づらいが、人が多いよりはマシだろう。
そう思っていると、スタートの花火がドーンと上がった。
「あ、始まった!」
全員が空を見上げる。
ドンドン花火が上がっていく。
「……キレ―」
嬉しそうに空を見上げている栞奈。
他のみんなも満足そうな顔をしている。
そんな顔を見れただけで、俺は何となく満足だ。
こうして、俺たちは海での思い出を新たに追加したのだった。