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第73話 優勝賞品の秘密

「えへへへへ! おじさん、やったよー!」


 表彰式が終わり、自分と同じくらいの大きさの包み紙を持った栞奈が駆け寄ってくる。


「よくやったぞ、栞奈!」


 頭を撫でてやると溶けそうなくらいデレデレの笑顔になる。


「まあ、当然よね、栞奈ちゃんが優勝するなんて」


 いつの間にか戻ってきている黒武者。

 余程、スクール水着の栞奈の姿に対してインパクトがあったのか、いまだに鼻血をぽたぽたと垂らしている。


「……どこ行ってたんだ?」

「え? もちろん、特等席よ。栞奈ちゃんがよく見える場所の、ね」


 審査員席。

 確かに、あそこならよく見えるだろうが。


「どうやったんだ?」

「何の話?」


 口笛を吹いて誤魔化す黒武者。

 席の数を考えると、最初から審査員は10人用意していたはず。

 なので、黒武者が強引に追加で入ったわけではなく、おそらく、審査員の一人と入れ替わったんだろう。


 だが、さすがにその場で入れ替わったわけではないだろう。

 コンテストが始まる前に入れ替わったはずだ。


 じゃあ、どこで審査員の情報を手に入れたのか。


「栞奈さん、僕は優勝を信じてましたよ」

「ありがとー、真凛ちゃん」


 栞奈と真凛がキャッキャとはしゃいでいる。


 ……あ。

 そういうことか。


 真凛は審査員の弱みを握り、いや、作り出し、栞奈に票を入れさせようとしていた。

 つまり、真凛は数日を使って、審査員の情報を掴んでいたということになる。


 そして、旅館に帰ったとき、黒武者は真凛に礼を言っていたときがった。

 あれは、審査員の情報をくれて、ありがとうということだったんだろう。


「……おい、黒武者。審査員は無事なんだろうな?」

「さっき、解放したわよ」


 語るに落ちたな。

 やっぱり、そういうことか。


 けど、まあ、今回は突っ込まないでおかないでやろう。

 黒武者のおかげで栞奈が優勝できたんだからな。


 ……とはいえ、なんで誰も黒武者が100点を出したことに突っ込まないんだ?


 普通に栞奈が優勝ってことになったけど、いいのか?


「きょ、今日はちょっと……調子が悪かったのよ……」


 サキュバスが下唇を噛みながら悔しそうな声でそう言いながらこっちにやってきた。

 目が真っ赤に腫れあがっている。


 ……ガチ泣きしたんだな。


「……今度は、絶対に、負けない……わーーん!」


 また泣き出してしまった。

 余程、悔しいんだろう。


 わからないでもない。

 普通の人間に負けたんだからな。

 サキュバスのプライドはズタズタだろう。


「あー、いや、今日のはノーカンでいいだろ。気にするな」


 不正だし。

 そこまで傷付かれると、こっちのメンタルが傷付く。


 するとサキュバスの顔がパーと明るくなる。


「慰めてくれるの!? じゃあ、あっちの岩陰で!」

「それとこれとは話が別だ!」

「……なによ。ケチね。2位なんだから、先っぽくらい入れてくれてもいいじゃない」

「おい、止めろ」

「けど、まあ、負けたことは事実。次までにちゃーんと女子力高めておくわ」


 そう言うと、サキュバスのこめかみに角が浮かび上がる。

 そして、栞奈の顎を指でなぞってから、スッと栞奈の額にキスをした。


「ふえっ!?」


 突然のことに驚く栞奈。


「ふふっ。私、あなたにも惚れちゃったわ。今度、3人で頼みましょ」


 そう言うと同時に、飛んで行ってしまうサキュバス。


「禰豆ちゃん! 後を追って! 止め刺してきて!」


 黒武者が禰豆美の肩をつかんで、ガクガクと揺らしている。


「そ、そう言われても、もう飛んで行ってしまったからのう……」


 揺らされながら、困り顔で禰豆美が言う。


 ふーむ。

 黒武者に思わぬライバル出現と言ったところか。


「ふふふふ。今日のところは大人しく負けを認めてあげるわ!」


 青いワンピース姿の茶子が、両手を腰に当て、胸を張りながらそう言った。


 ……いつの間にいたんだ?

 まったく気配を感じたなかったんだが。


 にしても、負けたやつの態度ではないな。

 てか、勝負すらしてないけどな。

 お前は失格というか辞退しただろ。

 負け以前の話だ。


「さあ、負けた罰ゲームとして、思う存分、私を犯すといいわ!」

「帰れ」

「……なによ、ケチね。先っぽくらい入れてくれもいいじゃない」


 ……なんか、そのセリフ、さっきも聞いた。

 なんなんだよ。

 そんなに俺、ケチか?


「今日のところは引き下がってあげる。でもね、これだけは忘れないで」


 ギラリと眼鏡を光らせる茶子。


「絶対に、あなたに犯されてみせるんだから!」


 そう言って、ビシッと指を指してくる。


 なんなんだよ、その変な決意表明は。

 その願いは一生叶うことはないから、さっさと諦めてほしいものだ。


「それじゃ、またね」


 後ろ手に手を振ってスタスタと歩き去っていく茶子。


 うーん。

 もう会いたくないなぁ。

 スゲー疲れる。


 はあ、とため息をついていると、栞奈が包み紙を渡してきた。


「はい、おじさん! これが欲しかったんでしょ!」


 そうだった。

 優勝賞品の、モナ子の抱き枕。

 世間のどこにも出ていない、ここだけの賞品。


 つまり、これは俺だけのモナ子というわけだ。

 これはもう、嫁と言っていいだろう。


「ありがとう、栞奈!」


 俺は栞奈から包み紙を受け取り、高鳴る鼓動を抑えながらゆっくりと包み紙を剥がしていく。


 そして――。


「ん?」


 なんかおかしい。


 モナ子のイラストをプリントしたという、オーソドックスな抱き枕。

 ただ、このモナ子のポーズが見たことのないものだったから、描きおろしだと思っていた。


 だが、なんか違う。

 なんだ、これ?


 妙に顔と体とのバランスが取れていないというか……。


「あれ? これ、コラじゃない?」


 栞奈が抱き枕を横で見ながらそう言った。


「へ?」


 俺はもう一度、モナ子の顔を見る。

 これは、アニメ化決定の告知のときに、公開された公式絵だ。


 間違いない。


 そして、その顔の下。

 つまり首のところをよーく見ると、変な繋ぎ目がある。


 公式の顔と、どこから持ってきた体を組み合わせたコラ。


 いやいやいやいやいやいや!


「ふざけんなー!」


 怒りで俺は頭が真っ白になる。

 そして、そのまま運営のところへダッシュしたのだった。

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