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第72話 水着コンテスト優勝者決定

「あぎゃーーーー!」


 俺の会心の一撃を頭に食らい、うずくまる茶子。

 だが、すぐに立ち上がり、ギンッと俺を睨む。


「なにするのよ!」

「それはこっちの台詞だ! お前はコンテストをぶち壊しにする気か!?」

「はあ? 意味わかんない。あ、わかった! 私が優勝するのが怖いのね? 伝説の女になるのが怖いのね!?」


 ああ。

 その恰好で出ていけば、そりゃ伝説の女になるだろうな。

 確かに、お前のその後の人生を想像したら、恐怖を覚えるよ。


「とにかく、お前はすぐに辞退するか、人生を見つめ直せ」

「なんでよ!? 私はこれで水着コンテストの優勝をゲットするんだから!」

「水着、着てねーだろーが!」

「…………はっ!?」


 茶子は目を見開く。

 そして……。


「しまったぁーーーーーーーー!」


 膝から崩れ落ち、四つん這いになりながら、号泣をし始める。


 俺は舞台袖から、司会の男に腕で×印を作ってみせた。


「……ど、どうやら、エントリーナンバー35番の方は体調を崩されたようです」


 アドリブで何とか切り抜けてくれた。


 まあ、崩したのは体調じゃなく、精神だけどな。


「ねえ……」


 いつの間にか泣き止んでいる茶子が四つん這いの状態で、つぶやくように声を出した。


「なんだ?」

「今なら後ろから突っ込み放題よ」


 俺の方を見上げて、眼鏡を光らせながらドヤ顔で言う。


「服着ろ」

「なによ!? 女に恥かかせる気!?」

「もう、とっくにかいてるだろ」


 というより、その状態が恥だと思っていない時点で、かなり斜め上方向の精神の持ち主だ。

 たぶん、俺の常識を言ったところで理解不能だろう。

 俺が茶子の常識を理解できないのと同じように。


 うーん。

 世の中、理解し合うのって難しいんだなぁ。


「風邪ひくぞ」


 俺はさっきまで茶子が羽織っていたバスタオルを拾い上げ、茶子の肩にかける。


「……そうね」


 茶子は立ち上がって、再び、バスタオルを羽織った。


「もし、私が熱を出して、動けない状態になったら悪戯する?」

「病院に連れていく」

「……はあ」


 茶子が呆れたようにため息をつく。


 あれ? 俺、なんか変なこと言ったか?

 てか、連れてくよね? 病院。


「ホント、斜め上の反応よね、あんたって」


 すごすごと更衣室の方へ歩いていく茶子。


 俺からしたら、お前の方がよっぽど斜め上だけどな。


「それでは、次に、36番の方、どうぞー」


 舞台の表で司会の男がそう促した。

 俺は一瞬、栞奈か? と思ったが、どうやら違っていたようだ。


 俺の前を人影がスーッと通り過ぎ、舞台へと出ていった。


「私が優勝して、あなたを手に入れてみせるわよ」


 すれ違いざまに、そんなつぶやきが耳に入ってくる。

 一瞬何のことかわからなかったが、すぐに、ある可能性へと思考が辿り着く。


「まさか!」


 俺は慌てて舞台の方へ視線を向けた。


 と、同時に、観客が一気に盛り上がり、今日一番の歓声が鳴り響く。


 色気を引き立たせるように、腰を振りながら歩く。

 人間離れしたプロポーションと、美貌。


 それもそのはず。

 今、舞台に立っているのは――。


 サキュバスだった。


 ドンドンと会場のボルテージが上がっていく。


 もう、なんていうか地鳴りさえ起きている。

 観客を見てみると、男だけじゃなく、女でさえも叫んでいるようだ。


 これがサキュバスの能力か。


 ヤバい……。

 さすがにサキュバス相手だと、分が悪いか?


「さ、さあ、それでは点数を見てみましょう。審査員のみなさん、よろしくお願いします!」


 司会の男に促され、審査員の人たちが点数の札を上げ始める。


「10点、10点、10点、10点、10点、10点、10点、10点、10点、9点。来ました! 今大会の最高得点、99点です!」


 その点数にさらに会場が盛り上がっていく。


 99点。

 一人だけ、かろうじて9点を付けたことで、まだ可能性はある。

 100点を取れば、逆転優勝。


 ……可能性は0に近いと思うが。


「では、最後の37番の方、どうぞ!」

「はい!」


 いつのまにか、スタンバイしていた栞奈が、やや緊張気味の声を出しながら、舞台へと出ていく。


「おお!」


 栞奈の姿を見て、一部の人間が声を上げる。


 俺の授けた策。

 それはスクール水着だ。


 肌の露出やプロポーションではどうしても栞奈では勝てない。

 なので、栞奈の子供っぽさが残っている部分を押すことにしたのだ。


 俺の予想通り、一部の人間には刺さったようだ。

 食い入るように栞奈を見ている観客も少なからずいる。

だが、全体として見ると、どうしてもさっきのサキュバスと比べると見劣りしてしまう。


 そして、栞奈は舞台の真ん中に立つと、決めポーズとばかりにグッと親指を立てる。


 ……もう少し、なんていうか可愛らしいポーズは思いつかなかったのか?


「それでは点数の方を見てみましょう。審査員のみなさん、よろしくお願いします!」


 司会の男に促され、審査員の人たちが点数の札を上げ始める。


「8点、10点、9点、7点、8点、9点、7点、9点、8点、100点。……合計は――175点――! 来ました! 最高得点! 37番、逆転優勝です!」


 ワーッと会場も沸く。

 今までにない、さっきのサキュバスのときよりも大盛り上がりだ。

 万雷の拍手が巻き起こる。


「やったー! やったよーおじさん!」


 栞奈が喜んでピョンピョン飛び跳ねている。


 ……いやいやいや。

 なんだよ、100点って。

 なんで、最後の審査員の持ち点が他の審査員と桁が違うんだよ。


 そう思って見てみると、審査員の席には、鼻血を出しながら100という札を掲げている、サングラスをかけた黒武者の姿があったのだった。

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