「空海くん、こっちこっち」
「昨日は悪かったな、すまん! 本当この通り!」
翌日、妹に食事を渡してから俺はクランを抜け出していた。
目的地は赤無市にあるフルーツパーラーカダス。
気のせいか恐ろしく冒涜的な名前に聞こえる。
俺は今日ここで命が潰えるかもしれん。
果たして俺は生きているのか死んでいるのか定かではないが。
「いいよー、こっちも立て込んでたからね」
「それで、俺への相談って?」
今日は来ていないのか、久藤川さんの姿を探す。
「あ、ひかりちゃんなら今日来ないよ」
「え、どうして?」
むしろ俺への相談ないては久藤川さんでは?
威高さんはその仲介役だったと思うが。
「実はその話、久藤川のお爺様、要は理事長に止められてしまって」
「止められるような相談事だったと?」
とてつもなく嫌な予感がするぞ?
「まぁ、結構『どの口がそんな相談を?』みたいな内容だよね」
「なんか聞くのが怖くなってきたな。とりま、なんか頼んでいい? 何か飲まなきゃやっていけない気がする」
「ふふふ。正解」
そんないい笑顔で相槌を打たれてもな。
注文、そしてそれぞれにドリンクが届く。
店名のおどろおどろしさとは裏腹に、一見して普通のドリンクが届く。
何か入ってないよな? 念入りに凝視した後にストローに口をつける。
「あ、意外と美味しい。色の割に」
「あはは、ここのドリンクって独特な色合いだからねー」
ただのアイスコーヒーを頼んだはずなのに毒々しい紫色をしていたからな。
誰だって疑う。
けれど味は普通にアイスコーヒーなんだよ、驚くことに。
ストローで内容物をかき混ぜながら、肝心の話を促した。
味はコーヒーなのに、なぜか次に口をつけるのに躊躇する。
なんでこの店が流行っているのか、俺には理解ができない。
「それでね、空海くん。改めて相談なんだけど」
「あー、うん。理事長から待ったがかからない案件の方なんだよな?」
「もちろん。要は空海くんに私たちパーティのコーチをしてもらいたいって話なんだけど」
「えっ無理」
どうして同じ学校に居ただけの赤の他人+コラボしたぐらいの顔見知りに大事な妹を放ってコーチングなどしなければいけないのか?
「あはは、即答だね」
ある程度こちらの答えはわかっていたのか、威高さんに動じた様子は見られない。
「まるでそう答えるのがわかってたみたいな顔じゃん」
「まぁねー、あたしもみうちゃんの保護者だし。かわいいみうちゃんを放っておいて他人のコーチングするメリットなんて空海くんにはないしね」
「本当にな。けど、久藤川さんはそう言うのが実現すると思い込んでいる?」
「そういう権力を持った家に生まれてるからだね。お願いが通用してきた。これからも通用すると思ってる」
「でも理事長の命令には逆らえない?」
威高さんは頷いた。
「実はひかりちゃんの実家、九頭竜家と一悶着あったらしくて」
「うーん、それって俺が在学中の話? それとも今現在?」
「今現在かな」
「話が見えてこない。一体なんでまたそんな話に?」
「話は私から振ったの。空海くんは九頭竜プロのクランに在籍してるから、コーチングしてもらうならクランに話を通すのが筋だよ、と」
「そりゃ、まぁ」
「で、結果空海くんを手放したくない&クランになんのメリットがないからって久藤川家のお願いを突っぱねたわけよ」
「残当じゃない?」
瑠璃さんのどこに手落ちが?
「普通ならそうなんだけど、あそこの一派ってまぁ頑固でね。国内でもそれなりに顔が広いらしくて」
「世界の九頭竜に喧嘩を売った?」
無謀だよね、と威高さんは続ける。
紫色のメロンフロートを啜り、ようやくやってきた紫色のパンケーキを頬張った。
色! 本当にひどい色合いだ!
ハロウィンのふざけた色合いを一年中やってるような店なのだろう。
なのに誰一人仮装してないんだから脳がこんがらがるぞ?
「おひとついかが?」
俺の前にフォークが差し出される。
このおどろおどろいろしたパンケーキを食えと?
「味を聞こう」
「チョコミント」
「パンケーキなのに?」
クリームがそう言う味ならともかく、パンケーキそのものがチョコミント?
「そ! 面白いよね?」
言われて一口パクリ。本当にチョコミントだ。
味は。
「なんでこれ、中がドロドロしてんの?」
パンケーキの中、ミントジャムの中に秘められていたのはチョコレート風味の素麺ぽい何か。すごい口の中でぬるぬるするこれは一体?
「サプライズ?」
「そういうの望んでないんだよなぁ」
なんで意図してないサプライズをされて喜ぶと思うのか。
これがわからない。
「味は美味しいんだよ、味は」
「最初はびっくりするんだけど、慣れてくると病みつきになるんだよ」
「まぁ確かに」
気がつけば同じ皿を二人でパクついた。
なんか相談事そっちのけで普通に飯食ってただけだな、今回。
何やってんだか。
「んで」
「うん」
「用事ってそれだけ?」
「そうだね、本当はひかりちゃん側に私はいなきゃいけないんだけど」
「みうの保護者の一人になってるから協力はしない?」
「まぁ、言ってしまえばスパイみたいなものかな?」
「処す?」
「それはやめていただけると……」
「冗談だよ。俺は無駄な殺生はしない主義だ」
「無駄じゃなきゃするんだ?」
「それ聞いちゃう?」
聞く覚悟はおありか?
尋ねたら降参のポーズをして引き下がった。
こう言う駆け引き、彼女は上手いな。
もう一人が猪突猛進だから、いつも苦労してる感じか。
「やめとこうかな」
「んじゃ、俺はこれで。明日の配信は見てくれる感じ?」
「うん、私は保護者だからね。今日は帰ってアーカイブ何度も見返してコメント書き込むよ」
「そりゃ良かった。それと、また機会があればコラボしよう。みうも今回は残念だったって言ってたから」
「あー、それはありがたいね。ひかりちゃんもなんだかんだ空海くんのこと気に入ってたから」
「そりゃ良かった」
「じゃあ、俺こっちだから」
「うん、バイバイ。またね」
なんか恋人みたいなやりとりであるが、別にお付き合いなんかはしてない。
一人の推しを巡って活動している同志でしかないんだが、傍目にはそう受け取ってはもらえないんだろうなー。
だなんて考えながら帰路に着く。
クランに帰れば騒がしい連中とエンカウント。
「先輩! お腹が空きました」
新入りの志谷さんが、何もしてないのに空腹宣言!
いや、彼女はいるだけで理衣さんを起すのに一役買ってるので、それだけで仕事してるようなものなのだが、頗る納得がいかない。
「陸くん、ご飯の準備してー」
ここ最近、普通に起きれるようになった理衣さんが気怠げに呼びかけてくる。
寝起きが悪いのは一生治りそうもないみたいだな。
「お兄たん! 見て見て! サブチャンネルに高評価がつき始めたよ!」
「おー、そりゃ良かったな」
みうは今日も元気いっぱい。
チャンネルの行く末を必死に考えている。
思えば遠くに来たものだ。
たった二人で始めた配信ごっこも、多くのフィルターをつけているとはいえ、本格的に配信を始めて、こんなにも多くの仲間に恵まれた。
始めた時は俺とみう以外、誰も支えてくれるなんて思っちゃいなかったもんだが。
「で、食いたいものは?」
「ギガお子様ランチ!」
「スコーンに紅茶、ジャムでいいわ」
「あたしはねー、あたしはねー!」
結局、全員全く別系統のメニューを注文してくれた。
いっそデリバリーでも頼ろうかと思ったが、それを用意してこそ保護者だろ!
「よーし任せろ、兄ちゃんが全部完璧に再現してやる!」
「お兄たん! この味あのお店と一緒!」
「先輩! もう満腹飯店マスターでは!?」
「ははは、お褒めに預かりありがとよ」
今はこの時間を過ごすだけで十分だと自分に言い聞かせた。
さて、明日は新生『見守る会』の出番だ。
「んで、明日の探索はどうする? いつもの場所は封鎖中だ」
「そうなんだよねー。また、インスマスに行く?」
「それもいいけど、美味しいお店のある地域がいいよ!」
「私はどこでもいいわ、みんなで決めてちょうだい」
一人欠伸を決め込んで、布団に潜る理衣さん。
食ってすぐ寝たら太るぞ?
「お姉たんも一緒に考えようよー」
寝入る理衣さんの布団につかみかかるみう。
「センパーイ? 眠気を吸っちゃいますよー?」
さらに志谷さんが飛びかかる。
寝苦しそうにしながら理衣さんが起き出した。
「もう、わかったわよ。考えればいいんでしょ、考えれば!」
「やったー!」
「イエーイ!」
いつの間にか仲良くなったみうと志谷さんがハイタッチする。
それを鬱陶しそうに見つめながらも、こういうのもいいわねって顔で満更でもなさそうな顔の理衣さんだった。
俺はそんな三人を眺めながら、最近ご無沙汰していた
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「お兄たん、お兄たん!」
「どうしたみう?」
「とうとううちのフォロワーさんも1500人達成したよ!」
「おお、ついにか! 大物配信者の仲間入りか? この前1400人超えたと思ったら、案外早かったな。この前の志谷さんとのコラボ動画で流入してきたのかもしれないぞ?」
「あ、うちで出したアーカイブ以外でも、明日香お姉たんが出したからか」
「そうだな。それ以外で出すやつは割と日曜配信か瑠璃さんのサブチャンネルで増えるぐらいしかなかなかチャンスないしなぁ」
「そうだよね、もっと頑張んなきゃ」
「次からは私も頑張るよ!」
「そうだ、次はタンク役の明日香お姉たんがいるんだった!」
「また武器を変える必要があるかな?」
「うん、でももうタンクの人と一緒にするときの武器は決まってるもんね」
「なら大丈夫かな」
「次の収録ってどこでやるの?」
「クマおじさんのダンジョンはまだ閉鎖中だから、違うところになるかなー?」
「そっかー」
「また遠出することになると思う。赤無を出るのはちょっと怖いか?」
「そんなことないよ! 今はもう一人じゃないもん!」
「ああ、心強い仲間ができたもんな」