《陸、今日はお願いがあってこうやって二人だけの空間にお呼びいたしました》
お前がそんな強行手段を取ってくるなんて珍しいな。
《緊急でしたので》
今までこうやって話しかけてきたことはあったが、こうやって強制的に俺の意識をシャットダウンすることはなかった。
だからそれほど緊急事態なのだろうとわかる。
声も少しばかり不安そうだ。
《深淵が少し騒がしくなっています》
「深淵が? なんでまた」
《私も詳しくは知らないの。ただ、私と同等の神が動き出していると聞きます。私の住む深淵域もざわついてました》
そりゃ大変だ。
表層だけじゃなく、深層までとはな。
神が直接動くなんて何事だ?
スーラみたいな変わり者が他にもいたのか?
《それで陸、少しお使いを頼まれてくれないかしら》
お使いといってもな。
俺は妹の世話で忙しい。
そんなに遠出はできないぞ?
《大したことではないわ。あなたと私の魔力が盗まれている。知っていましたか? ふふふ。私から魔力を奪うなんて相当の神格です。その相手の尻尾を掴んで欲しいのです》
魔力泥棒?
そんな存在……待て、心当たりがある。
しかしそれがスーラと同格?
《同格ではありませんが、相性の問題でしょうね。私は【権能】上、攻撃も守りも大したことはありません。しかし相手を取り込み、分裂し、数を増やすことで個を維持してきました。ですが相手は盗みのプロ。守りの弱さを突いてきたんでしょうね、出し抜かれてしまいました》
スーラほどの神を出し抜くなんてできるのかよ。
豊穣の女神から盗むなんて、まるで野菜泥棒だな。
「心当たりはあるが、果たしてそいつが犯人かどうかまではわからないぞ?」
《なるほど。でしたらこうしましょう。その相手に贈り物をしてください》
贈り物?
《はい。スキル枠に一つ追加しておきます。それでは頼みましたよ、陸》
一方的に話が途切れる。
モンスターの創造枠に一つ差し込むっていってもな。
俺にはそれを把握できない。
「あ、なんとなくできる」
まさかな。そこまで見越して俺に能力を譲渡したのか?
今の俺に見えるステータスはこんな感じだ。
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個体 :空海 陸
年齢 :18
種族 :人類(?)
:深淵ウォーカー
:正気度を克服せしもの
職業 :ユニークテイマー
称号 :スーラからの寵愛
:バースからの興味
<ステータス>
STR【筋力】15 CON【体力】18
POW【精神】18 DEX【敏捷】16
APP【外見】17 SIZ【体格】16
INT【知性】15 EDU【教養】12
SAN【正気】77 MGC【魔力】2000万
<スキル>
テイム【魔力消費1】最大20枠
モンスター合成【魔力消費100】
モンスター創造【魔力消費100】
バースのつまみ食い【魔力消費毎日1000】
スーラの贈り物【魔力消費1000】
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犯人割れたわ。バースって誰だ?
全く身に覚えがない。
それとスキル欄に新たに増えてる贈り物の消費がデケェ!
一体どんなものだよ。
人前で渡せるもので頼むぜ?
スキル枠っていうのが少し気になるけど。
とりあえず作っておくか。
作った結果、なんか丸い物体だった。
球体? 妙に生暖かくて、肉まんに見えなくもない。
これなら大丈夫かな?
しかしこれあれだな。
魔力の規模が多いから助かってるが、こう毎日だとスーラが愚痴をこぼしにくるのがわかるな。
本当はしっかり寝た方が魔力が回復するのはわかっているが、今の俺は寝食をしなくてもいい体になっている。
スーラと混ざった時に人間の必要とする機能の大半を失った形だ。
それでも少し寝てるのは、あんまり起きてる時間が長いと怪しまれるからだ。
睡眠が必要なくなってから、世間体ってのを嫌でも感じたぜ。
と、まぁ俺はスーラからのアドバイスを受けて下手人にプレゼントを贈るべく眠りから覚めた。
本当に寝入ってしまったのは無意識だ。
スーラの【権能】上、都合が良かっただけなのかもしれないが。
「悪い、寝ちまった。何時間経った?」
「一時間と少しね。急に寝入ってしまったからみんなで心配してたのよ」
理衣さんがお姉さん風を吹かして説明してくれる。
「ううん、全然平気だよ。お兄たんもたまには寝た方がいいよ? いつも二時間しか寝てないって聞いて心配だったの」
「え、センパイ二時間しか寝てないの? もっと寝ないと調子乗らないよ?」
「俺はそんなに動き回らないからいいんだよ」
「陸くんはカメラマン兼テイマーだものね」
「そ、そうなんだ」
志谷さんはまだ俺の探索者スタイルを知らないもんな。
ずっとスライムに意識を預けて、5台のカメラを操作している。
無意識の本体は予備のスライムに運ばせてる感じだ。
「私は魔法使いよ。よろしくね? タンクさん? お話は聞いているわ」
魔法使いとは相性悪いけど、果たしてどうなることやら。
むしろ強すぎる魔力を吸ってもらえていい結果に繋がるかもな。
無意識に俺から吸ってくれなきゃ万々歳だ。
「明日香お姉たんも明日の配信参加するの?」
「か、陰ながら頑張るよ!」
「表立って頑張ってくれ。あ、別に稼ぎは優先してないからな。クランの報酬は瑠璃さんから振り込まれるから、飯はそれで賄ってくれ。配信と探索者を同時にって普通は割に合わないことばっかりだしな」
「ほ、ほんと? それすっごい助かるよー!」
「あなた、みうちゃんと同じくらい食べるのかしら?」
「アスカお姉たんは私のグルメ師匠だからね!」
「この子、5kgサイズのお子様ランチもペロリなんですよ」
「それはそれは……見てるだけでお腹いっぱいになりそうね」
「まぁ、周りに合わせなくて理衣さんはそのままでいいですよ」
「へへ、満腹飯店は出前もやってるので、次はお店に近いダンジョンで撮影したいですね!」
「そのダンジョンのランクが合えばな」
「確かその近くのダンジョンは──」
「Dだな。あともう一つあげるだけでいいが、みうの成長を蔑ろにしすぎちゃダメだぞ?」
「あ、そだね」
「ご飯は帰りに食べればいいじゃんか」
「そうなんだけどねー。配信とご飯は別で食べたいっていうか」
この食いしん坊め!
俺は内心で嘯きながら、志谷さんを別室に呼んだ。
名目上は、今後このクランでやっていく上での相談とかそういう形で。
「センパイ、私に用事ってなんですか?」
「実はお前にプレゼントがあるんだ」
「え、クランに誘ってもらえて、さらにプレゼントっすか? 開けてみていいですか?」
目を輝かせて、バスケットボール大の肉まんをガブリと一口で食べ、
「おぼぼぼぼぼぼぼ!」
卒倒したと思ったら痙攣しだした。
え、恐っ
何入ってたんだこれ?
泡まで吐き出して明らかに普通じゃない。
《ついに尻尾を捕まえましたよ! 泥棒はあなただったんですね、バース! この、この! 反省しなさい!》
途切れたと思ったスーラの声が、なぜか志谷さんの中から聞こえてきた。
「センパイ! なんでこんな存在がセンパイのプレゼントの中に!?」
「悪いな、志谷さん。スーラと俺は一心同体なんだ。最近お前が俺から魔力を盗み食いしてるのが彼女にバレてな。どうか反省してほしい!」
「グエーー!」
大捕物の後、彼女は自分の存在を語った。
バースという飽食の神の化身が志谷さんに入り込んでいたらしい。
「悪気はなかったんです、ただちょっと、少しぐらいならいいかなって魔が差して……」
《少しじゃないから怒っているんです! なんですか、毎日1000って、バカなんですか? 陸の自然回復量は少ないんですから、加減なさい、バカ!》
「ぎゃーーーー!」
こうして説教の後、俺から接収する魔力量は1000から250と大幅減少した。
250でもだいぶ多いけどな。モンスター合成と創造を一回づつできるんよ。
まぁこれでも1/4だ。
少しは多めに見といてやるか。
それはさておき、なんでそんな存在が地上で人間のふりをしているかといえば。
「実は私はとある親族から依頼を受けて調査中なんですよね」
「調査?」
「あ、はい。なんでも人間を使った実験をするとかで、都合のいい人間を深淵に連れてくるようにアドバイスしろと」
「つまり志谷さんはその尖兵の一人でしかない?」
「そういうことですねー」
「知ってたかスーラ?」
《知るわけないじゃないですか。そもそも私にはなんの連絡も来てませんよ》
「あ、上位神とは別の派閥です」
「なんかわかんないけど、みうに手を出したら潰すからな?」
「あははは、そんなことするわけないじゃないですかー神子になんて手を出したら私の命がいくつあっても足りませんよー」
なんだか聞きなれない言葉を聞いた。
神子?
みうが?
志谷さんはそれ以降この話題をする気はないようだった。