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第52話 セラエノ図書館①

 さて、今日赴くことになったのは赤無市にあるEランクダンジョンである。

 熊谷さん曰く、赤無市には話が伝わってるらしく直接出向かなくても九頭竜の腕章をつけてけば話は通るようだった。


 最寄りのバス停から30分。

 都市部にある世良江図書館跡に来ていた。

 ここは図書館をメインにしたダンジョンで、出てくるモンスターはゴースト、あるいは本の形をしたポルターガイストだったりする。


 火属性魔法の使い手の序盤の稼ぎ場で、今回は理衣さんが参加するんならここがいいんじゃないかと話し合って多数決で決定した。

 やはり全員が参加する以上、多数決は必要不可欠だろう。


 みうだけだったら俺が決めてやれるんだが、メンバーが増えた今、そのやり方は少し強引だろうしな。


 当人の理衣さんは水と氷結以外の属性は熟練度が低いと嘆いていたが、そこら辺をカバーするのが俺たちだろう。

 なんで自分以外の活躍の機会を奪ってまで目立とうとするのか、これがわからない。あなたが寝てたのは俺たちには関係ないことなんだよなぁ。


 そんなわけで今回の撮影メンバーは以下の通り。


 俺:テイマー【スーラ】親密度6

 みう:ファイター【ァトゥ】親密度1

 志谷さん:タンク【シース】親密度10

 理衣さん:マジックキャスター【トゥルー】親密度5


 親密度は文字通り契約した神格とどれぐらい通じ合ってるかだな。

 専用のスキルをどれくらい使えるか。


 みうはあの状態ですら親密度1なのがちょっとバグってる。

 【よく食べる子】のおかげで病気が改善したことを鑑みれば、案外破格のスキルだと言うのがわかるが代償がな……食いしん坊くらいなら当面は平気だが、志谷さんの例もある。


 それと偏食具合が日に日に過剰になっていく。

 今はグルメファイターとしての興味があるからいいが、それを逸脱し出したら目も当てられない。


 とはいえ肉体改造を受けてる俺ほどでもないだろう。

 そう言う意味では同類。兄ちゃんが1番みうのことをわかってやれるってことだ。


 俺の親密度は多分理衣さんよりは高いだろうってことで平均以上の6とした。


 志谷さんは化身だからMAXの10。

 10が最高かって聞かれたらわからないが、最大値はそこら辺に留めておこうと思った。5段階で評価できるほど、神格の能力は浅くないしな。


 そんな裏話は内密に、俺たちは受付へと向かう。

 事前予約はすでにしてある。

 配信を行う上で、色々と面倒ごとを回避したいと言うのは当然の帰結だろう。


 特にここは魔法使いたちのメッカらしいし。

 遠距離攻撃のメッカということは横殴りのメッカということでもあった。


「クラン見守る会の空海です。今日はよろしくお願いします」


「やぁやぁ、お話は伺ってるよ。九頭竜プロ贔屓のクランだってね?」


「うちの瑠璃がいつも世話になってるようね」


「プロをそんな風に親しげに話すということは、そちらのお嬢さんが?」


「瑠璃さんのお姉さんに当たります。彼女はマジックキャスターなので本日この場への参加が相成りました」


「お噂はかねがね。まさか生きて再び【千海】の理衣様に出会えるなんて恐縮だ」


「随分と昔の話を知っているのね」


「当時センター職員になりたての私の憧れでしたからね。ものすごい魔法の使い手がいると、世間を賑わしていたじゃないですか。特にここは魔法のメッカ。いつご来訪されるか心待ちにしていた職員も多いんですよ」


「そう? ごめんなさいね、期待させてしまって」


 満更でもない、といった顔で理衣さんがドヤる。


「理衣お姉たん、すごかったんだ!」


「そこ、間違えたらダメよみうちゃん。すごかったんじゃなくて今もすごいのよ」


「さすが先輩!」


「どこかの誰かのおかげで魔力がダウンしてしまったけどね」


「えー誰ですか、そんな不届者は?」


「あんたよあんた!」


 やたらと距離感がバグってる志谷さんを引き剥がすように、理衣さんがもがいている。これに対して志谷さんの強力なハグ。まるで捉えた獲物を逃さないように進化したかのような捕獲力を見せていた。

 やっぱりこの人まごうことなきバグ=シャースだよ。本人はそれを明かすつもりはないように振る舞うが。


 受付で依頼の選択をしつつ、武器のレンタルをしていく。

 ゴースト系と聞いて討伐は難しいだろうと採掘と採取も並行していく。

 三人もいれば役割分担もできる。こういうところはパーティの方がありがたいな。


 みうに選ばれたのは、スチールランス、槍だった。


「お、今回は槍で行くのか?」


 長くなる分、重量だってある。けれどみうはそれを片手で扱いながら「なぜか重さを感じないんだよねー」とエストックと同様に扱った。

 そう、エストックもまた重量武器である。


 本人の宣告で軽いとされているが、病み上がりの病人がモテる重さではないのだ。

 武器は本来重量があるものだ。軽いだけの木の棒に殺傷力が皆無なのはそういうところ。重く、硬く、強くしなることで武器に強度と殺傷力が生まれるのだ。


「うん、これなら奥にある本とか取れそうだし」


「突き刺して取るつもりなのか?」


「さすがに先端部分はモンスターにしか使わないよ。私は背が低いから、高い場所にある本はどうしても誰かに頼っちゃう。でもこれがあれば解決だよ!」


 とのことらしい。


「私はこれを選びましたー!」


 そう言いながら棘がついた盾を二枚分紹介する志谷さん。

 ダブルシールドかよ。相変わらず重さを一切感じさせないご様子。

 怪力だってことを隠す気ないのだろうか?

 それとも契約者って軒並み筋肉お化けなのか?


 俺もなんだかんだ三人分の荷物を持ってピンピンしてるから、そうなんだろうとは思っていたが。深くは突っ込むまい。なんだかんだみうも「トゲトゲー、強そう!」などと喜んでいたのでヨシッ!


「私は自分のあるから。瑠璃が選んでくれたこのワンド、一応宝物なの」


 大事そうに抱えるワンド。念のため一緒に見て回ったが、自前のものを大きく上回る品はレンタルでは発見できなかった。

 そりゃそうだろう、あくまでもレンタルできるのはその道のスタート、入門編だ。

 槍なら初心者用。盾もワンドも初心者用。それより強いのだと特注した方が早い。

 理衣さんの武器はまさしく特注品だろう。それを初心者用から探し当てることは難しい。


「では武器も選び終わったんで行きますか」


「新生見守る会、スタートだよ!」


「と、言ってもやることってそうそう変わるもんでもないでしょ?」


「まぁそうなんですけどね。見たこともないモンスターってワクワクしませんか?」


「するー!」


 志谷さんの問いかけに、みうが全力で乗っかった。


「……そうね、新種は色々考察が進むわ」


 それに恥ずかしながらも理衣さんが参加する。

 童心全開のみうと同様にはしゃげないのだ。

 姿形は子供なんだけど、年長者という事実が彼女を大人たらしめる。


「では、どんなモンスターが出るか探索に出かけましょうか」


 俺はカメラのスイッチをオンにし、撮影を開始した。




「おはようございます! みうだよー!」


:きちゃ!( • ̀ω•́ )✧

:みうちゃんかわいいやったー_(:3 」∠)_

:今日はまた変わったタイプの武器を持っているね!( ・᷄ὢ・᷅ )


 カメラの前に戯けた妖精が現れる。すっかりポーズにも慣れて、司会進行を買って出ている。成長を感じながらも、その小さな妖精は画面内を所狭しと駆け回っている。


「理衣よ。今日は世良江の図書館後に来ているわ。何でもいつも使っていたダンジョンでエラーが起こってしまったそうなの。ランクは少し上がるけど、前の撮影では因習枡で大健闘したそうじゃない? 私も足を引っ張らない程度に頑張っていきたいわ」


:理衣お姉たん検査大丈夫だった?( *˙ω˙*)و グッ!

:みうたんと一緒に心配してたんだよね?( • ̀ω•́ )✧

:また元気な姿が見れて嬉しいです(*´ω`*)

:図書館ダンジョンかー( ・᷄ὢ・᷅ )

:このメンツで回れるかな?_(:3 」∠)_

:頼りになる魔法使いがいるから大丈夫でしょ٩(›´ω`‹ )ﻭ


 年長者特有の長々近況報告ご苦労様である。


「そしてもう一人、今日は新たなメンバーがいるんだよね?」


:誰?_(:3 」∠)_

:まさかここに来て新メンバー?(*´ω`*)

:告知して、そういうのは( ・᷄ὢ・᷅ )

:新たな推し、くるー?( • ̀ω•́ )✧


「しゃーす! 普段はグルメレポートで配信している志谷明日香だよ! 本来は探索者なんだけど、コンビ解消しちゃったところで瑠璃さんに拾ってもらったの! なので今日からみうちゃん達とご一緒させていただきます! ハルちゃん見てるー? やっほー!」


:明日香お姉たんだ!(*´ω`*)

:明日香お姉たん、きたー( ・᷄ὢ・᷅ )

:大食いクイーンやん!( *˙ω˙*)و グッ!

:前回の配信見たよ( • ̀ω•́ )✧

:みうちゃんに負けないくらい食べてたね٩(›´ω`‹ )ﻭ

:探索でも頑張ってね!_(:3 」∠)_


「暖かい応援ありがとうございます。みうの兄の陸です。今回も声だけでよろしくお願いします。女の子のパーティに体を映すと何かとやっかみがありますからね」


:お兄たん…… ( • ̀ω•́ )✧

:ここにはお兄たんを嫌う人いないから大丈夫よ_(:3 」∠)_

:新たなメンバーシップが解放されたらわからないけど( *˙ω˙*)و グッ!

:ここの運営が果たしてメンバーを増やすかどうか( ・᷄ὢ・᷅ )

@威高こおり:みうちゃん、前回はコラボありがとうございましたー_φ(・_・

:こおりお姉たん!(*´ω`*)

:こおりお姉たん、コラボお疲れ様ー٩(›´ω`‹ )ﻭ


「こおりお姉たん! 前回はお疲れ様でしたー」


@威高こおり:はーい! またコラボしたいね_φ(・_・


「だねー。次はもっと時間ある時に行きたいねー。お兄たん、次のスケジュールは?」


「お医者さん次第だな」


「そっかー」


:残念そうなみうちゃん( ・᷄ὢ・᷅ )

:こう見えて病弱だからな(*´ω`*)

:武器は槍です( • ̀ω•́ )✧

:よく持てるよね?_(:3 」∠)_


「なんかねー、ダンジョンだと不思議と持てちゃうんだ!」


 みうはコメントで聞かれたことをウキウキしながら武器を取り回す。

 そこには重さを一切感じない、熟練のような槍捌きを見せる妹の姿があった。


:わー、かっこいい!(*´ω`*)

:今から探索楽しみだね!( *˙ω˙*)و グッ!

:これなら安心かな?( • ̀ω•́ )✧

:練習頑張ったね!( ・᷄ὢ・᷅ )

:お兄たん、早く早く_(:3 」∠)_


 急かされてしまったのでさっさと探索を始めることにした。

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