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第55話 セラエノ図書館④

「時間はまだ……ありますね。配信続けますねー」


:あい(*´ω`*)

:まだ依頼なんもやってないからね( *˙ω˙*)و グッ!

:寄り道しすぎや_(:3 」∠)_

:まだ図書館歩いてただけだもんね( ・᷄ὢ・᷅ )

:それもそう( • ̀ω•́ )✧

ハスター:ごめんね?


 ハスターの声はレインコートを着用した俺にしか聞こえないが、なんだかんだと引き込んだことを申し訳なく思ってるようだ。

 どうやら引き込む手順を偶然達してしまった人は多いみたいで、なんとか送り返えそうと考えてはいるようだ。

 気に入られる条件はまだわかってないが、正気を保てたかどうかが鍵じゃないかと俺は踏んでいる。

 普通は見たら発狂するんだよ。

 ぶっちゃけそれをスルーできる人もそうそういないし。


「まだ何にもやってないもんね」


「本当よ」


「集団入眠なんて珍しい体験したくらいだもんね。流石にそれは配信的によろしくないや」


 流石に志谷さんは配信者としての心構えができている。


「だな。モンスターはそこそこに、採取や採掘を終わらしちまおう」


「そうね。モンスターは奪い合いっぽいし」


「あんなふうに不意打ちされたら誰だって怒っちゃうよ」


「まぁな。言ってるそばからだ」


 前方から複数の魔法の雨霰が飛んでくる。


「よっと。二人は私の後ろにー」


 志谷さんが前にでて、それを盾や体を広げて払う。

 この子、自分がそういう体質だって理解してるところあるよな。

 続いて魔法の本が飛んでくる。

 一つや二つではない、15冊はあるだろうか。

 それが一斉に襲いかかってきた。

 どう考えても、俺たちが原因じゃない。

 誰かになすりつけられたか?


「え〜い!」


 志谷さんの後ろからみうが突いた。

 そのための槍!

 背後から突くのに確かにこの長さは必要だ。

 エストックや金棒ではこうはいくまい。


「テイム! みう、複数は俺が足止めした。動きを止めた奴から攻撃していけ!」


「ありがとう、お兄たん!【スラッシュ】」


 槍版のスラッシュは貫通技だった。

 槍の柄に5冊貫通して討伐した。

 ひゅー! やるじゃん。

 それを三回繰り返して脅威は去った。


 あれほど普通の本は突き破ったらだめだと信じていたのに、相手がモンスターなら実際はこんなものさ。


「私の出番がなかったわ」


「理衣さんはまだ魔力温存しててくれ。マジックキャスターは何時如何なる時でも魔力の温存をすべし、だろ?」


「だからと言って何もしないというのも違うのよ?」


:理衣お姉たん、次は活躍できるよ( ・᷄ὢ・᷅ )

:大丈夫、雑魚に理衣おねえたんの大魔法は勿体無いって(*´ω`*)


「そうね。露払いはみうちゃんたちのお仕事よね。大物は任せて」


「あい!」


「次、くるよ!」


「助けてください!」


:何やらトレインの気配(*´ω`*)

:調子乗って釣りすぎたかな?( *˙ω˙*)و グッ!

:さっき群れで突っ込んできたのってもしかしなくても?( ・᷄ὢ・᷅ )

:殴ったら横殴りしたとか言いそう( • ̀ω•́ )✧

:それなー_(:3 」∠)_


「横殴り、しちゃいけないやつだよね?」


「まぁ。なのでスルーでいいでしょ」


「ランクもEに上げたのなら、新人というわけでもないしね」


「お願い! 怪我をした子がいて!」


「俺はまだやれる! 他人に借りは作らん!」


「ちょっとアッくん! そんな傷で動いちゃやばいって!」


「ウルセェ!」


 何やら修羅場だな。

 今日は一体どうなってんだ?

 放送事故多すぎでしょ。

 生配信中に勘弁してほしいもんだぜ。

 やっぱ収録は撮影に限るな。

 編集でどうとでもなるし。


「どうする? 陸くん」


「怪我を治すのが優先でしょう。モンスターの方はどうしよっか」


 こっちで倒したら何かとトラブルの種になりそうだ。

 特に向こうは相手モンスターに並々ならぬ感情をぶつけている。

 横取りしたら粘着されそうだ。


「俺たちが倒す!」


 なすりつけパーティのリーダー各の男は、怪我を負いながらも討伐の意思を見せた。


「ならば任せた。俺たちはお前の怪我を治すに留める。獲物は奪ったりしないから安心しろ。こっちは助けを求められたから助けてやるだけだ。治療費の心配もする必要はない。ただ、今俺たちは配信中でな。お前らの肖像権に関係なく撮影は続行する。治療してやってるんだ、それくらいは多目にみてほしいな? タダほど安いもんはないって話だ」


「チッ、配信者かよ」


 大剣を杖代わりに、男が苦虫を噛み潰したような顔をした。

 志谷さんの相方然り、一般の探索者は配信者を毛嫌いしてる奴が多いというのは本当だな。

 それは実力に見合わずに配信している場合が多く、自分たちが稼げない嫉妬を配信者に向けているだけだ。

 稼げている人ほど、余裕を持つからな。


 さっきのパーティなんかも、配信者に嫉妬してる場合ではないだろうに。もっとチームワークを磨くとかさ。

 他人に当たってるうちはいつまで経っても三流だぞ?

 Fランクからやり直せばいいんじゃないか?


:なんやこいつ( ・᷄ὢ・᷅ )

:文句言いつつ治療だけは受けるって何様のつもりや٩(›´ω`‹ )ﻭ

:典型的な俺様( • ̀ω•́ )✧

:ここまで感謝の言葉なし_(:3 」∠)_

:見捨ててもいいのでは?٩(›´ω`‹ )ﻭ

@クマおじさん:金をケチりたいんだろうなぁ

:そりゃEはカツカツよ(*´ω`*)


「ヨシ、治療は終わった。あんたも不運だったな。俺たちの配信下で不様晒しちまって」


「まったくだよ。そんじゃぁいっちょその無様を挽回しに行きますか。いくぞ、美春、夏帆! 俺に続け!」


「ちょっとアッくん! お礼くらい言いなよ!」


「必要ないって言われたからな! その代わり俺たちは無様を晒した、これでトントンだ。そうだろ、そっちの兄さん?」


「そういうことだ。俺たちのことは気にしなくていい。大物を倒しに行くんだろ? 士気が高いうちに成功するといいな」


「抜かせ。後ちょっとで仕留められる。横殴りされてたまるかよ」


 それだけ言って、そのパーティは奥に駆け込んでいった。

 魔法のメッカで大剣を振り回す男。

 他の女子はマジックキャスターで、遠方から攻撃。

 美味しいところだけあの男が持っていくタイプのパーティなんだろうか?

 まぁ配信映えはしなさそうだ。なんといっても主役が身勝手だ。みうの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいが、みうが嫌がるからやめておこう。


「なんだか暑い人たちだったね」


 みうが率直な感想を述べる。


「暑苦しいともいうわね」


「それにしてもセンパイ、タダで治療してあげてよかったんですか?」


 志谷さんの懸念も尤もだ。

 一度タダでやると次も次も、と付け上がるパターンは多いからな。


「九頭竜の看板を背負っているとな? ああいう人助けもポイントになるんだよ」


「あー」


 なまじ配信者をしていると、そこら辺の対応の仕方も変わってくるのだ。


:お兄たん、計算だった( ・᷄ὢ・᷅ )

:そりゃ看板背負ってたらね( • ̀ω•́ )✧

@クマおじさん:生配信だったら適切な対応だな

:収録だったら外道発言して後で編集してそう(*´ω`*)


「それはそう」


:認めた!( • ̀ω•́ )✧

:やっぱり性悪お兄たんだった( ・᷄ὢ・᷅ )


「お兄たん本当? そんなことしてないよね?」


「もちろん冗談だぞー? 俺は優しいお兄たんだからな」


 もちろんみうの前に限る。

 他のやつにはスパルタだよ。

 当たり前だよなぁ?


「さて、採掘場に向かおうか」


「はーい」


「おー!」


「ええ」


 俺たちは採掘場へと至る。

 図書館なのにそんな場所があるのか?

 そうお思いだろう。

 しかしそこはダンジョン。


 事前にテイムしておいた、という体で生み出したスライムを探知機にして探せばすぐに見つかった。

 うん、普通に本棚である。ここに鉱石が?

 まったくの謎である。

 しかし依頼が出ていることから、確実にあるんだ。

 どこにあるかまでは記されちゃいなかったが。


「ここが採掘場でいいの?」


「普通の本棚だね」


「ここ、魔力の反応があるわ」


 理衣さんが何かに気づいた。

 本棚のはみ出ていた本を押し込むと、本棚が横にスライドする。

 その場所には地下へ降りる階段が現れたのだ。


 どうやらそこへ採掘場があるらしい。

 こういうところはダンジョンだな。


:ギミック付きダンジョンね、把握_(:3 」∠)_

:さてお宝は眠ってるかなー?(*´ω`*)

:お目当ての鉱石拾えるといいね( ・᷄ὢ・᷅ )


 階段を降りたら、そこは図書館と打って変わって普通のダンジョンだった。


「暗ーい」


「今あかりを持たせたスライムを配置するから待ってろ」


 暗いからこそ本領発揮。

 周囲から見えないことをいいことに足元でスライムを量産。

 それらに懐中電灯を持たせて壁に張り付かせ、等間隔でダンジョン内を照らせた。

 これでカメラ感度はバッチリだ。


「陸くんのテイムって本当に痒い所に手が届くわよね」


「むしろ撮影するために全力で使ってるからな」


 回復アイテムのレインコートを手に入れたので大盤振る舞いである。これの入手がなかったら相当ケチっていたと思う。


「おー、なんとか見えるよ!」


:お兄たん有能!( *˙ω˙*)و グッ!

:やっぱお兄たんほどのカメラマンそういないよ( • ̀ω•́ )✧


「そうなんですかー?」


:そうそう_(:3 」∠)_

:生配信にトラブルはつきものとはいえ( ・᷄ὢ・᷅ )

:ここまでトラブル回復力の高いカメラマンは皆無(*´ω`*)


「えへへ、やっぱりお兄たんしか勝たん」


「それ、言いたいだけだろ?」


「わかっちゃった?」


 わかるさ。

 満更でもない気分になりながら、俺たちは目的の採掘品を手に入れた。

 図書館なのになんで採掘品が出てくるんだなどと突っ込んではいけない。

 鉄と銀をゲットして、ホクホク気分で次の採取場所に向かう。


 また理衣さんに頼むとしよう。

 正直見た目図書館だと、俺は何もできん。

 みうを撮影するのに手一杯になってしまうからな。

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