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第54話 セラエノ図書館③

「そっかー、ハスターちゃんはずっとここで暮らしてたんだね」


:うん


「こんな場所で一人でなんて、寂しくない?」


:寂しいって感情がわからないの

:あ、でも

:たまにやってくる子とお話ししたりして

:飽きるまで話し合ったりしたなぁ


 今着ているレインコートも、迷い込んだ少女の持ち物だったらしい。

 というか、ここって一度迷い込んだら帰れない系なのか?

 率直な疑問を尋ねる。


:帰れなくはないよ?

:ただ、私が引き止めちゃう

:でもご飯も出すし、面白い遊びもいっぱい教えちゃう


 神性基準の遊びか。ちょっと怖いな。


「だって、お兄たん!」


「どんな遊びがあるんだ? それって俺たちでも遊べるやつだったらいいんだが」


:簡単な的当てゲームだよ!


 ハスターは足をぐん、と伸ばし床を貫いて遠い場所に的を出した。

 普通なら異常ならざる光景にアイディアロールをしてしまうものだが、うちのメンツときたらどいつもこいつも鈍いおかげで普通にゲームを楽しんでしまっている。


「器用ね」


「すごい! どうやってやるの? あたしにもできるかな?」


「流石にみうちゃんにはできないんじゃない?」


「頑張ればできるもん!」


:コツぐらいは教えてあげられるけど、あとは素質次第かな?


 まぁ、元々触手が生えてるやつ以外はできない芸当だろうからな。

 張り合う方がどうかしてるよ。


 早速的当てゲームに挑戦。

 みうは槍を【スラッシュ】の要領で投げたが、エストックや棍棒と違って遠当てする技術がないため、槍は明後日の方向へ飛んでいってしまった。

 回収は俺がスライムを出動させて持って来させる感じである。


「外れちゃったー!」


「みうちゃんには遠当ては少し早かったかしら?」


 得意がる理衣さん。

 戦士と魔法使いでどっちが遠当ての適性があるかなんて比べるまでもないだろう。

 当然のように百発百中。ワンドで帽子の端を持ち上げて、ちょっとしたガンマン気取りだ。


「理衣お姉たんかっくいー!」


「こんなものよ!」


:それじゃあ次の的を出すよ

:今度は動く方

:難しいよ?


「どんなものでもかかってきなさい」


 理衣さんが余裕の表情。

 みうは今度こそ当てると意気込んだ。


 そして俺の横では、志谷さんが昼食タイムである。

 ここではなぜか腹が減るんだと。

 俺は魔力を無駄食いさせないためにも飯を出して彼女のご機嫌取りだ。


「二人とも、元気ですねぇ」


「志谷さんは参加しないの?」


「ノーコンなんで。ハルちゃんにもそのことで何度叱られたか」


「コントロールよかったらタンクなんてやってませんか」


「そう言うことです。そして、こうやって応援するだけでも楽しいので」


 俺もその仲間じゃないのか? と視線を寄せられた。

 一緒にされるのも迷惑な話だが、俺の場合はズルになるので参加できないのだ。


 ここにいるのはみうの活躍を映すため。

 俺がでしゃばってどうするって話だ。


「お兄たん、難しいよー」


「これは一筋縄ではいかないわね」


:これをクリアしないと次の遊びに参加できないよー?


 クリア型課題ってわけか。


「なら兄ちゃんも参加するか。本来ならみうの活躍の機会を奪うのは御法度なんだが、どうもこの空間では撮影そのものがうまくいってないようなもんだし、アーカイブ化も難しいだろう」


「そうなの?」


「そういえば、コメントもいつの間にかハスターちゃんだけになってしまっているわね」


「そういえばそうだね。不思議!」


:ごめんなさい、私のお話が流れちゃうと思って追い出しちゃった


 とんだ我儘さんであったか。


「別にみうたちはハスターちゃんのお話聞き逃さないよ? リスナーさんたちを返してもらって大丈夫だし」


 多分正気度的な問題で無理じゃないかと思う。


:それもごめんなさい、追い出し方はわかるんだけど、戻し方はわからないんだ


「そっかー」


:私の課題をクリアしたら帰れるようになるから、それまでは我慢して?

:久しぶりに私を怖がらずに遊べる相手を見つけたから


「そうなの? ハスターちゃんこんなに可愛いのに」


:えへへ、ありがと

:みうちゃんもかわいいよ


 なんだ、お前もみうを可愛がってくれるか。

 じゃあ、仲間だな!

 ようこそ! 俺たちの配信へ!


:なんだかわからないけど、歓迎されたのは初めてかも

:よろしくね、人間さん


 生憎とここに純度100%の人間はいないと思うがよろしくな!


:え?


「どうしたの? ハスターちゃん」


:なんでもないよ

:ちょっと怖がらない理由に納得しただけ


「変なハスターちゃん」


 とはいえ、あまり本性は出しすぎない程度によろしくな?

 神性とは繋がりはあるが、実物は見てないんだ


ハスター:おっけー


 ノリの軽さが現実味を帯びてないが、まぁ良し。

 俺の心の声に反応しすぎるのも難点だが、みうは特になんの反応も示してない。


ハスター:チャンネルをあなたに合わせただけ

ハスター:どうやら物知りさんのようだから、こっちは内緒話用ね

ハスター:また色々内緒で教えて

ハスター:次は最後まで遊んでもらえるように工夫するから


 と、言うことはここにきたほとんどは帰れずに発狂した?


ハスター:遠からず近からずかな?


 よくわからんが、変な能力は付け加えないでくれよ?

 妹は体が弱い設定なんだ。

 これ以上みうに負担がかかるなら、俺はお前を許さない。


ハスター:人間さんにゆるしてもらおうとは思ってないけど

ハスター:どう許さないかの興味はあるわ


 これは下手に出ているだけじゃなく、本当に人類がなんでこんなことで怒ってるかわからないって反応だ。

 神格、神性の思考は人類を逸脱しすぎてるからな。


「お兄たん、ハスターちゃんといつまでも見つめあってないであの的なんとかして!」


「おっと、内緒話しているのがバレたか」


「内緒話?」


「撮影におけるルールを少しお話ししてた。ハスターさんは口がないから頭の中でのやり取りになる。その場合、目をじっと見てのやり取りになるんだ」


「そっか。撮影ルールなら仕方ないかな? それで、的当てのヒントはもらえた?」


「そんなズルは兄ちゃんしないぞ?」


「正攻法であれを打ち破れるの?」


 冗談でしょう? と理衣さん。

 的は高速移動で左右や上下運動してこちらの攻撃を交わしてくるのだ。

 二問目からこの難度である。

 設定ミスってるだろとしか言いようがない。

 しかし、俺にかかればこの通りである。


「ああ、簡単だ。みう、槍を借りるぞ?」


「うん、いいよ」


「良し」


 俺は槍にスライムをくっつけ、的に先に付着させたスライムに向かって投げた。


「モンスター合成!」


 合成する都合上、お互いに惹かれ合い、結果槍が的を粉砕する!


「あ!」


「当たったわね」


:すごーい

:あれってどうやるの?


 理論上俺にしかできない。

 俺は豊穣の神スーラと契約してるからな。


ハスター:その名前が出てきちゃうんだ

ハスター:じゃあ他の子達も?


 みうは食欲の神様。

 理衣さんは睡眠の神様。

 志谷さんは飽食の神バースの尖兵だったかな?


ハスター:なるほど、わかった

ハスター:その三柱が相手なら

ハスター:次からは本気出すね?


 だから本気出すなって言ってんの!

 今の問題でも難しい時点でそこまでの関与はないって言ってんだろ


ハスター:そうだったね、ごめん


「また内緒話ー?」


「おっと、今の内容より難しいのを出すと言うから必死に食い止めてたら白熱してしまってな」


「それは引き止めてくれてありがとうだね。あたしたちはちょっと強めのモンスターさんと戦う方が得意かなー?」


 と、言うことらしい。


ハスター:ロードビヤーキー?


 それは強すぎるので他にないか?

 ではこうしよう。俺のモンスター合成と合わせて新種のモンスターを生み出すと言うのは。


ハスター:そんなことできるの? 曲がりなりにも私の眷属だよ?


 俺がどこの神様と契約を結んでいると思ってる?

 そいつらは一度討伐して魔力次第で生み出せる。

 ちょいとコストがかかりすぎるので、そっちが提供してくれるんならありがたく使わせてもらう感じだ。


ハスター:支配権をそっちに譲るってことか

ハスター:ならいいよ


 交渉は成立した。

 出現場所を決めあって、次はちょっと強いモンスターとの戦闘という話を持ち出す。みうたちはようやく動画趣旨と合うお題が出たかと臨戦体制に入った。


 だがそいつらはEランクダンジョンのモンスターとは比べ物にならないほどの強さを誇った。

 そいつら、というようにそれは複数現れたのだ。


 合成モンスター『スカイスライムアント』である。

 緑色のスライムが頭、胴体、尻尾の役割を持ってくっついただけのダンゴムシだが伸ばした触手を足に見立ててちょこちょこ動ける。

 その上で謎の力で空を飛び、強酸のブレスを吐いた。


「これは強敵だね!」


「私の出番が来たかな?」


「魔法の真髄が遠当てだけじゃないことを見せてあげる!」


 みう、志谷さん、理衣さんがモンスターに立ち向かった。

 正直、もっと苦戦すると思っていたが、素体がスライムボディなのもあって、一匹あたりへの戦闘時間は5分も持たなかった。


 なんと言っても志谷さんのガードが強すぎる。

 普段は小さく縮こまっている彼女であるが、棘付きの盾を大きく構えることでガード範囲(捕食範囲?)を拡大させたのである。

 なんなら盾に捕食機能を持たせたのか、投げつけた先でも『スカイスライムアント』は食い殺された。

 そんなの味方に投げないでくれよ?

 ちょっとカメラ映りが悪くなりそうだ。


 おおかた10連戦ののち、ハスターは俺たちを元の場所に帰してくれた。


「あれ? あたしたち……」


「どうやら同時に眠っていたみたいね」


:急に寝ちゃうから心配しちゃったよー( ・᷄ὢ・᷅ )

:ダンジョンの中で寝落ちは危ないから気をつけよう( • ̀ω•́ )✧

:10分も寝てないけどね ٩(›´ω`‹ )ﻭ


 まさかの夢オチENDであったか。

 いや、途中までリスナーがついてきてくれてたのは確認している。

 なら夢の中へ強制的に誘い込んだ相手がいるってことだ。

 その存在と、さっきまで遊んでたんだろうしな。


:そういえば、そのレインコートはどうしたの?( *˙ω˙*)و グッ!


 なんのことだと思ってみうたちの様子を見たら、夢から目覚めた全員が黄色いレインコートを着用していた。俺も巻き込まれているが、撮影に映る予定はないので問題なし!


ハスター:これを着用中、私とお話しできるようにしたの


 クーリングオフ、できますか?


ハスター:クーリングオフってなぁに?


 だめだ、話にならない。

 しかし自分から脱ぐことも可能なのようなので、ヨシ!


 ちょっと曰く付きのレインコートだったから呪物の類かと思ったが、会話機能以外は特にないので相手してやることにしてやった。


 気のせいか、魔力が回復しているような気がする。

 これもレインコートの効果なんだろうか?


ハスター:これは夢の世界と行き来するときに使うものよ

ハスター:着用中はあっち側から魔力を流せるの

ハスター:あなたの魔力が回復するのは、どうやら夢の世界限定みたいね


 なんてこった。知りたくなかった事実!


 ある意味で夢の世界に侵入中、俺は眠るという体験ができてるのだから、全くの無駄ではなかったということになる。

 その日からこの黄色いレインコートは俺専用のパジャマになることが決定した。

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