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第64話 スキル獲得【受け流し】

「秋乃ちゃんはあたしが守るからね!」


「みうちゃんだけじゃないわよ? 私だって守るもの。ええ、傷ひとつつけさせないから!」


「もちろんだよ! お姉さんたちに任せなさい!」


 普段はワンマンプレーが目立つ存在が、こうやってわかりやすい自分よりか弱い存在が参入することで引き立つ姿を見るのはいつだって成長を感じさせるものだ。

 以前まではみうがその中心だったのに、本当にこの一ヶ月での成長が目覚ましい。


 出会いに次ぐ出会い。

 見せたくない、味合わせたくない体験をしても挫けず前を向き、向き合い続けた結果が今の成長だ。

 くっ涙が溢れてきやがるぜ!

 みうも立派になって、兄ちゃんは誇りに思うぞ?


:お兄たん? みうちゃんたち先に行っちゃうよ?( • ̀ω•́ )✧

:だめだ、悦に浸ってやがる_(:3 」∠)_

:仕方ないよ、みうちゃんの成長を見たら( *˙ω˙*)و グッ!

:わかりみが深い(*´ω`*)

:前まではみうちゃんがその立ち位置にいたからな٩(›´ω`‹ )ﻭ

:立派になって…… ( ・᷄ὢ・᷅ )

:やっぱり孤立してると成長は促せないものだね( • ̀ω•́ )✧

:比べすぎるのも問題だけど、グループを組むことでの成長もあるんやなって( *˙ω˙*)و グッ!


 っと、涙脆い姿を見せてしまったな。

 俺は不安がっている秋乃ちゃんを安心させるように小さめなスライムをスライムモニターに接続してスクリーンモードにした。

 遠く離れても、みうたちの活躍を5台のカメラが追いかけてくれる。

 そんな仕組みである。


 リスナーたちにも見せてるんだから、その場にいる秋乃ちゃんにもサービスをするのは当然だ。

 動けない、喋れないってのはそれほどのハンデだからな。


 ちょっと安堵した秋乃ちゃんを眺めて、俺はゆっくりと車椅子を押し込む。

 本来ならガタガタする足場も、まるでなんの障害もないかのようななだらかな道。

 合間にスライムを埋め込んで実現させたスロープである。

 今回のカメラにはいつもの5台の他に、秋乃ちゃん視点も含めた6台のカメラを随行させた。


 その理由は、敦弘へのサービスだ。

 妹がどんな風景を見て、感動し、感謝しているかを視覚的に伝えるためのものだ。

 この過保護っぷりこそがうちのクランの最大の目玉。


 みうだけじゃない、クランメンバーが一丸となって協力し合い、目的を達成することこそが主旨なのだ。

 ちょっと体が不自由で、しゃべれないくらいなんだ。

 そんなもので迫害するなんてうちではあり得ない。

 みんな違った障がいを持っているからこその総合理解がここにある。


 追いついた頃には、みうたちは俺が一切手を加えてない本場のモンスターたちとやり合っていた。

 今までの油断し切っていた表情とは異なる、真剣に守る者の戦い。

 それぞれが得意分野で秋乃ちゃんを守ろうと立ち回る。


 エストックは本来なら両手持ちの刃渡りの長い『長剣』に位置するものだ。

 なんでか片手で扱えてしまえている時点で膂力がすごいのだが、本人はまるでそれを気にしていない。

 そんな剣を、志谷さんの盾捌きを見て覚えて【受け流し】するまでの成長を見せている。


 一人の時だったらこれほどの成長は望めなかっただろう。

 自分よりもすごい、その道のエキスパートを入れることによって、欲するエネルギーが生まれる。


 その時に新たなスキルを獲得するのだ。

 今回もスキルとして上手く消化できたのだろう。

 望んだものが望んだもの通りに形になる感覚。

 探索者をやっていればそれはいつだって傍にあるものだ。


 志谷さんがエキスパートかと言われても怪しいが、それでも形になったのなら儲け物である。


:みうちゃん、どこでそんな技術覚えたの?(*´ω`*)

:すごい!( • ̀ω•́ )✧

:成長したなぁ( *˙ω˙*)و グッ!

:後方腕組みおじさん「ワシが育てた」(*´ω`*)

:育てたのはお兄たんなんだよなぁ( ・᷄ὢ・᷅ )

:ひどい、私たちの応援もあるのに!(*´ω`*)

@瑠璃:姉さんがあれほどまでに他人の心配を?

:瑠璃おねえたん…… (*´ω`*)

:どれだけ自己中だったかって話か?_(:3 」∠)_

:どしたん、話聞こか?( • ̀ω•́ )✧


「俺だけじゃここまでの成長は見込めませんでしたよ。みう自身の問題もありますし、皆さんがこうやって応援してくれたからでもあります。今後とも応援よろしくお願いします」


:お兄たんがデレた( ・᷄ὢ・᷅ )

:おにデレ(*´ω`*)


 デレてねーよ。

 まっすぐな感謝も受け取れないのか、ここのリスナーたちは!


 そうやって、一戦目は軽々クリア。

 いつもと違う心構えもあってか、そこまで手こずることもなく圧勝した。


「お兄たん、あたしたちの勇姿見てくれた?」


「バッチリだ。リスナーさんたちも褒めてくれてたぞ?」


「へへー。どう? これであたしは秋乃ちゃんを守れるって信じてくれた?」


 秋乃ちゃんはこくこくと何度も頷いた。

 カメラでもその様子をバッチリ撮影しておく。


@敦弘お兄たん:秋乃、元気そうでよかった

:お、新参か?( • ̀ω•́ )✧

:秋乃ちゃんの知り合い?(*´ω`*)


「秋乃ちゃんのお兄さんの敦弘さんですよ。今回は急用で撮影に参加できなかったので、こうしてコメントで参加してもらってます」


 これがなすりつけパーティの自分勝手なリーダーだと割れたらリスナーから猛反発を喰らうだろうから、今回はこういった説明でいいだろう。

 どうせ今後とも暇にはならないだろうし、少しでもコメントしやすくなってくれたら幸いだ。


:お、そうか( • ̀ω•́ )✧

:よろしくー٩(›´ω`‹ )ﻭ

@敦弘お兄たん:秋乃、今日は行けなくてごめんな? 

 兄ちゃん、お前の勇姿をバッチリ見てるからな

 頑張るんだぞ?

:おい、この状態でがんばらせるな( ・᷄ὢ・᷅ )

:きっと頑張るの段階が違うと思う_(:3 」∠)_

:それな(*´ω`*)

@敦弘お兄たん:言葉が足りなくてすまない

 うちの妹は引っ込み思案でな

 何かをするのにも頑張る必要があるんだ

 せっかく作ってくれたチャンスをものにするかどうかまでも頑張りに入るんだ

 ただでさえ一緒にいるだけで満足しちまうからさ

 ここから一歩踏み出せるかどうかも含めての応援なんだよ

:それは…… ( ・᷄ὢ・᷅ )

:体も動かせない、喋れもしないんじゃそうなるか(*´ω`*)

:そう考えるとよく今回の撮影に参加できたよな_(:3 」∠)_

:みうちゃんたちが頼れる存在になったって……コト?( *˙ω˙*)و グッ!


 どうやら隙間時間を縫って敦弘がコメントに参加してくれた。

 秋乃ちゃんの瞳がみるみると潤っていく。

 案の定、こうやってグループの輪に入れただけで満足してしまっていたようだ。

 ここから一歩踏み出すにはどうしたらいいか、必死に考えているように見えた。


「みんな、モンスターくるよ!」


 周囲を警戒していた志谷さんが呼びかける。

 今回は完全に俺はダンジョンに掛け合っていない。

 普通のモンスターたちがみうを攻略しようと進撃を開始した。


「秋乃ちゃんはここで見てて。すぐに倒してきちゃうからね」


 みうはそう呼びかけて、モンスターに先制攻撃を仕掛けた。

 【スラッシュ】と【受け流し】を巧みに操り、華麗に仕留めていく姿は秋乃ちゃんにさぞ鮮烈に映っただろう。


 みうだけじゃない、理衣さんも志谷さんも。

 みうの攻撃後の隙を埋めるようにカバーに入っている。

 連携がそこにあった。

 お互いに単独、コンビだった時には見せないような連携である。


 それこそ当時みうがタブレットに齧り付いて見ていた九頭竜プロのように。

 攻撃に合わせて秋乃ちゃんの体が揺れる。

 昂りを、感情を、体を揺らすことで応援しているのだ。

 どこか鼻息が荒くなるような音も含めて、頑張れ! と応援しているようにも思えた。


 ようやくパーティが一丸となった。

 戦闘に参加している三人だけではなく、秋乃ちゃんもその気になってくれた。

 これが大事なのだ。


 ダンジョン病の成長に欠かせないのが、この欲する望み。

 そしてそれは、ついに秋乃ちゃんの中で足りない何かを埋めた。

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