目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第22話 8時じゃないけど全員集合!

 久しぶりの休日である。


 かつてここまで休みがありがたいと思った日はあっただろうか? いやない。


 俺はここ数日の激務が嘘だったかのように、布団の中でまったりとした時間を過ごしていた。


 本来であればこのまま布団さんとしっぽりイチャイチャ❤ しながら夢の世界へ出航ボンボヤージュする所なのだが……俺の指先は自然と枕もとに置いてあったスマホへと伸びていた。


 そのままゴロンッと横になりながら、特に意味もなく『佐久間亮士』という名前を検索エンジンに入力してしまう。


 すると我が心の愛読書バイブルである『月刊☆イケメンぱらだいす』の公式サイトで彼の詳細な情報がズラリッ! と並んでいた。




 ――佐久間亮士。


 県立星美高校在籍の2年生。


 中学の頃から上級生・下級生問わず、生徒達からの信頼が厚く、高校に入学してから3カ月足らずで生徒会長に就任。


 空手部に所属しており、インターハイ優勝経験アリと文武両道。容姿端麗。眉目秀麗びもくしゅうれい。偉才秀才。


 とくに空手に至っては100年に1人の逸材として、残りの4人の天才と合わせて『五拳帝ごけんてい』と呼ばれ、空手界の歴史を塗り替える人物として、注目を集めている。


 性格は明るく社交的で、誰に対しても分け隔てなく優しい人気者。




「……どこかで聞いたことがある言葉だなぁ」




 俺の脳裏に1人の腹黒女会長の姿がよぎった。


 が、すぐさま脳のすみっこに追いやり、佐久間についての文章を読みふけっていく。




「えーと……『親は星美病院の院長で、本人も将来は家を継ぐべく勉学にいそしんでいる。また空手部副部長でもあり、現在でも既に多くの大学からスカウトの声がかかるほど。バレンタインでは、軽トラック3台分のチョコが送られてきたという逸話もある。さらには見識を広めるべく読者モデルもやっており、彼が載った雑誌は必ずと言っていいほど売り切れる』……ねぇ。なるほど、なるほど」




 俺はスマホを放り投げ、「んん~っ!」と布団の中で大きく背伸びをした。


 とりあえず1つ学んだよ。


 この胸に湧き起こるラードのような粘つき、それでいてドライアイスよりも冷え切り、マグマよりも煮えたぎるこの感情。


 なるほど、これが殺意か。


 見なきゃよかった☆


 いやマジで。




「なんだよ、あの男? 異世界転移者か何かなのか?」




 もう玉座で女の子をはべらかしながら、下卑た笑みを浮かべる『なろう』主人公にしか見えないよ。


 明らかに俺とは人間として、いや男としてステージが違い過ぎる。


 少女マンガでも中々いないぞ、こんな男?


 まさに女の理想を体現したかのような完璧な人間だ。


 どれくらい完璧かと言えば、『まるで将棋だな』とかほざきながら真剣に囲碁を打っているくらい完璧な人間だ。


 ……頭がおかしいのかな?


 しかし、そんな完璧人間と古羊の間に一体何があったのか?


 う~ん?




「あ~っ、考えても埒があかねぇ」




 殺意の波動に目覚めかけた俺は、頭をブンブン振るや否や、布団に潜って静かに横になった。


 ダメだダメだ!


 せっかくのお休みの日に余計なことを考えるのはナンセンスだっ!


 休む時はとことん休む、それが大神スタイル☆


 俺はベッドの上に手足を放り、ついでにプライドも放って、目を閉じた。


 ここ数日ずっと慌ただしく働いていたおかげか、目を閉じればすぐに睡魔が。




 ――ピーンポーン。




「……んぁ? 誰だよ、こんな朝早くに?」




 微睡まどろんでいた意識を無理やり覚醒させるような呼び鈴の音に、思わず顔をしかめてしまう。


 おいおい、一体誰だぁ?


 俺の眠りを妨げようとする不届き者は?


 世が世なら打ち首獄門だよ?




「誰か居ねぇの? ……って、そうか。今、俺しか居ねぇのか」




 ママンは普通に長期出張中だし、パパンはお友達と旅行中、我が偉大なる姉上に至っては『あたしより強いヤツ会いに行ってくる』って言って大学病院内の入院患者さんにボランティアとしょうしてゲームの楽しさや対戦の熱さを教えに……いや違うな。


 正確には【ベテランゲーマーの方々に勝負を挑みに行った】という方が正しいな、うん。


 俺も1度付き添いで行ったことがあるのだが、何故か我が姉が足繁あししげく通っている大学病院内の入院患者さんたちは、全員漏れなくメチャクチャ格闘ゲームが強いのだ。


 その腕前は、もはや全国を通り越して世界レベル。


 もうね、みんな洒落になんないくらい強いのなんの。


 大学病院って言うより、暗黒武術会の会場って言われた方がしっくりくるレベルで、みんな強いのね。


 病室なんて、もはや天下一武道会の控室みたいな、異様な緊張で包まれていたからね?


 ――って、なんの話をしてたんだっけ俺?


 あぁ、そうだ。


 今現在、我が家には俺しか居ないから、対応できる人間は誰も居ないってことだった。




「まぁ、ほっときゃ帰るだろ」




 さてそれじゃ、もう1度布団さんとイチャイチャゴロゴロ♪ するべく目蓋を閉じて。


 ――ピーンポーン。


 ――ピンポン、ピンポーン。


 ――ピーンポポポポポポポポポポポポポポポポーン。




「うるせぇぇぇぇぇぇぇ――ッッ!?!?」




 高橋名人もビックリの呼び鈴16連射に、堪らず布団から跳ね起きる。


 何だこの質の悪いイタズラは!? クイズ王でももっと優しくボタンを押すぞ!?


 まるで「壊れろ!」と言わんばかりの連打である。


 コイツは我が家の呼び鈴に、なにか恨みでもあるのだろうか?




「もう我慢出来ねぇっ!」




 俺は一言文句を言ってやろうと、大股で玄関まで行き、勢いよく扉を開けた。




「うるせぇっ!? 今何時だと思ってんだ!?」

「……朝の9時よ」

「あれ、もうそんな時間だった? って、はいっ!? は、ははは、羽賀先輩っ!? と、古羊姉妹。それに廉太郎先輩も!?」




 玄関を開けると、そこには我らが生徒会役員が、呼んでもないのに全員集合していた。




「お、おはよう、ししょーっ!」

「おはようございます、大神くん」

「おはようシロちゃんっ! 今日も気持ちがイイ朝だね!」

「あっ、これはご丁寧に、おはようございます――じゃなくて!? なんで全員ウチに居るんですか!?」




 順によこたん、古羊、廉太郎先輩と三者三様の挨拶を交わし、目を剥く俺。


 えっ、なんでみんな我が家に全員集合してるの?


 8時じゃないんだよ?


 今は9時なんだよ? 


 1人混乱している俺を無視して、羽賀先輩が不機嫌な顔を隠すことなく、




「……来ちゃった」

「来ちゃいましたかぁ~……」




 かつてここまで嬉しくない「来ちゃった♪」が存在しただろうか? 


 おかしい、姉貴の部屋から借りて読んだ少女マンガでは、こういうときヒロインは必ず男にトゥンク❤ するはずなのに、羽賀先輩の瞳からは俺への憎しみしか感じ取れない。


 何この人?


 我が家に何しに来たの?


 嫌がらせ?




「もう、ネコちゃん? ダメじゃないか! 罰ゲームなんだから、もっと可愛く『来ちゃった♪』って言わないとぉ~。あっ、なんなら猫耳も貸そうか? 今ちょうど持ってるから――うっ!?」

「……すみません会長、ちょっとこの生ごみを処分してきますね?」




 羽賀先輩の右フックにより、一瞬で意識を刈り取られた廉太郎先輩が、ズルズルと引きずられて我が家の中へと消えていく。……って、ちょっと待て!?


 なんでこの人たちは、普通に我が家に入ってきてんの?


 というか、その動かなくなった廉太郎先輩をどこに連れて行くの?


 あの世?




「ちょっと!? なに勝手に我が家に上がってるんですか先輩っ! というか罰ゲームってなに!? 俺と話すことがですか!?」

「ち、違うよししょーっ!? ば、罰ゲームっていうのは、誰がししょーの家の呼び鈴を押すかってことで、そこに狛井センパイの悪ノリが重なっただけなの!」

「な、なんだそうか」




 ほっ、と安堵の吐息をこぼす。


 よかったぁ、危うく死んじゃうところだったわぁ。


 ……いやっ、良くないねぇ。


 何も良くないねぇ。


 だって何の疑問も解決してないんだもん♪




「おい古羊よ、これは一体どういうつもりだ? 俺に恨みがあるのは知っているが、別にアレのことを言いふらすつもりは俺にはないぞ!」

「別に恨みなんかありませんよ。それとアレの話しはしないでくださいね? 殺すぞ?」




 先輩たちも居るせいか、いつもの猫を被ったエンジェルスマイルの状態で俺に語りかける古羊。




「そもそも今回の件については、わたしは無関係です」

「無関係、だと?」

「えっとね? 実は前から、ししょーにナイショで、ししょーの歓迎会をやろうって企画してたの!」




 姉の代わりに妹が照れた様子で口を開いた。


 お、俺の歓迎会?


 俺の歓迎会だと!?(大事なことなので2回言ったよ♪)


 こ、こんなことまでしてくれるなんて、コイツ、いい子すぎるだろ!?


 結婚しよ?




「実はね? ししょーの家でサプライズケーキを作ろうと思って、材料も買って来ちゃったんだけど……。ダメだった、かな……?」

「い、いや! いやいやいやっ! 全然まったく、これっぽっちもダメじゃねえよ!」

「ほ、ほんとに?」

「おうっ! むしろ女の子の手作りケーキが食べれてラッキー☆ ってくらいで……あっ! とりあえず上がれよっ!」




 よこたんは、ほにゃ♪ とした笑みを浮かべると、「お邪魔します」と言って我が家に上がった。


 そのまま「それじゃ、台所借りるね?」と言って居間の方へと消えていく。


 その後ろを古羊がしずしずとついて行き、




「洋子と廉太郎先輩が、どうしてもやりたいって言うから、仕方なくね」

「暗に『自分はやりたくない』アピールとかしなくていいから、知ってるから」




 相変わらず、一言多い女である。


 かくして俺の運命をまたもや激変させる長ぁ~い1日は、こうして騒がしく幕を上げたのであった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?