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第24話 そして『終わり』が始まった

「それじゃシロちゃん、次は学校でまた会おうねぇ~っ!」

「……お邪魔しました」

「うっす! 今日はありがとうございましたっ!」




 森実生徒会主導による『シロウ・オオカミ歓迎パーティーッ♪』という名のお宅訪問も終えた我が家の玄関にて。


 俺は敬愛すべき廉太郎変態――違う、廉太郎先輩と、羽賀先輩に頭を下げながら帰路につく2人を盛大にお見送りしていた。


 時刻は午後7時少し前。


 休日も残すところあと数時間。


 妙な寂しさを心の中で感じながら、去って行く2人の背中を眺めていると、入れ替わるようにキッチンから古羊がやってきた。




「おう、片付けご苦労さん。古羊は?」

「メイちゃんはお化粧を直しに行ったから、もうちょっと時間がかかるかな」

「あぁ、レコーディング中ね。了解」




 れこーでぃんぐ? と舌足らずな感じで小首を傾げる古羊に、俺は心の中でドヤ顔を浮かべていた。


 ふふっ、俺だって日々成長しているのだよ古羊くん。


 普通にここで『なんだトイレか』と言ったらまた『もうししょーっ!? デリカシーっ!』と怒られるのは分かっている。


 そこでオブラートかつウィットに富んだ俺の頭脳は素早く代替案として【おトイレ→音入れ→レコーディング】という藤井聡太9段も真っ青な神の1手を繰り出したというワケだ。


 まったく、自分の才能が怖くなるね!


 こんな複雑な論理的思考を瞬時に展開してしまう思考の瞬発力……もはや新人類ニュータイプの域と言っても過言ではないだろう。




「今日はありがとうね、ししょー」

「うん? なにが?」




 1人心の中でほくそ笑んでいると、突然古羊が優しい瞳になって俺を見上げてきていた。




「ししょーとお話してからメイちゃん、ほんのちょっとだけ元気が出たみたい」

「それは別に俺のおかげってワケじゃねぇよ。アイツが勝手に元気になっただけだ。俺は関係ねぇよ」

「それでも、だよ」




 何が嬉しいのか架空のシッポをピコピコさせながら上機嫌に微笑むマイ☆エンジェル。




「ほんと、ししょーは不思議な人だよねぇ。あの猫を被ったメイちゃんを怒らせることが出来るだなんて」

「ねぇ、ソレ遠回しにデリカシーゼロって言ってる?」




 おっとぉ?


 いきなり喧嘩を売ってきたぞ、この女?


 上等だ、白黒つけてやろうじゃねぇか。ベッドの上でなっ!


 我、夜戦に突入す! と心の中で叫びながら、彼女をシロウ・ポッターの秘密の部屋へと招待しようとするのだが、「アハハッ!」と爆乳わんの弾けんばかりの笑顔に遮られ断念してしまう。




「ししょーは凄いよね。人の作った心の壁をアッサリ飛び越えて行っちゃうんだから」

「心の壁? なに? ATフィールドの話? 俺はエヴァ●ゲリオンだったの?」

「違うよぉ、ししょーは散歩するみたいに簡単に人の心の中に入ってくるねって話しだよぉ。……まぁデリカシーが無いからこそ出来る芸当なのかもしれないけどね」

「ねぇよこたん? もしかして、よこたんは俺のことが嫌いなの?」

「さぁ? どうだろうねぇ?」




 珍しく小悪魔チックにニヤリッ! と微笑む我が1番弟子。


 むぅぅ、何とも釈然しゃくぜんとしない気分だ。


 峰不二子ばりのイイ女ムーヴをかましてくるラブリー☆マイエンジェルに向かって顔をしかめていると、廊下の奥からレコーディングを終えた古羊が姿を現した。




「あら、楽しそうね2人とも? なんの話をしているの?」

「聞いてよママっ! よこたんが俺をイジメるんだ!?」

「誰がママだ小僧。シバくぞポンコツ?」

「あっ、おかえりメイちゃん。それじゃ、ボクたちもそろそろおいとましちゃおっか?」




 そうね、とサラリと俺を罵倒していた古羊が小さく頷く。


 どうでもいいけど、ポンコツって豚骨と響きが似てて美味しそうだなぁと思いました、まるっ!




「それじゃ大神くん、今日はお邪魔したわね」

「また明後日、学校で会おうね!」

「おいおい、夜道にレディー2人って危なくないか? 送っていくけど?」




 こんな物騒な世の中だ、いつ何が起こるか分かったものじゃない。


 現にこの間も襲われかけたし。


 というワケで2人の身の安全を考え、紳士全開のお言葉を口にするのだが、何故か返ってきたのは批難と侮蔑ぶべつの視線だった。


 えっ、なにその目?


 完全に変態を見る目なんですけど?


 古羊はまるで自分の身体を抱きしめるように半歩俺から距離をとると、ドM大歓喜のゴミを見るような目でこうおっしゃった。




「ソッチの方が身の危険を感じるから結構よ。ねぇ洋子?」

「あ、あはは……ノーコメントで」

「よこたんはともかく誰がテメェの嘘で塗り固められたAカップおっぱいに興味があるかよ、俺は名探偵じゃねぇんだ」

「どきなさい洋子っ!? じゃなきゃあのバカの頭をかち割ることが出来ないっ!」

「落ち着いてメイちゃん!? ピンヒールはマズイよ! ピンヒールはマズイよ!?」




 玄関に置いてあった姉ちゃんのパンプスを握り締め、俺の頭に叩き込もうとしてくる古羊。


 慌てて古羊が俺の身体を守るように前に出て来てくれなかったら、間違いなくあのパンプスが俺の脳天に突き刺さり超エキサイティングしていたことだろう。




「ほらほら、帰ろうメイちゃん!? バイバイししょーっ! また学校でねっ!」

「アンタ、次会ったときは覚えてなさいよ!?」




 という捨て台詞を残して、古羊に無理やり背中を押された古羊が荒ぶったまま我が家からフェードアウトしていく。


 虚乳生徒会長がログアウトしました(笑)




「……最後まで騒がしいヤツだったなぁ」




 急に静かになった玄関に俺の言霊だけがコロコロと床に転がる。


 もう最初の頃に会った古羊が懐かしいぜ。


 ……明後日、学校に行きたくねぇなぁ。




「さてっと。とりあえずシャワーでも浴びてゆっくりする――」




 ――ガッシャァァァァァァァァァァァァンッッ!!




「うぉっ!? ビックリしたぁ!?」




 突然リビングの方から何かが壊れる音が響き、思わず身体を硬直させてしまう。


 な、なんだ今の音は?


 俺は恐る恐るリビングのドアを開け、中を確認すると……。




「な、なんじゃこりゃぁ――っ!?!?」




 思わず太陽に吠える俺の視界の先、そこには。


 粉々になった窓ガラスが部屋の中に散乱している光景が映し出されていた。




「おいおいおい、ふざけんな!? ローンがあと何年残ってると思ってんだ!?」




 俺は慌てて割れた窓ガラスに駆け寄って――


 ――ゾクッ。


 チリチリとうなじの辺りがバーナーであぶられたように熱くなる。


 もう何度経験したか分からない、何か危ないコトが起こる兆候。


 瞬間、俺の意識が割れた窓ガラスの一部へと引っ張られた。


 割れた窓ガラスに映る俺は、なんだかどこか滑稽で、見ていてちょっと腹が立った。


 そしてそんな俺を映すガラスの破片に、もう1人、別の誰かが映っていた。


 ……俺の背後に『誰か』が居た。




「ッ!?」




 刹那、弾かれたように背後に振り返る。


 その瞬間。


 ――黒い服に身を包んだ大柄の男が、俺の顔面めがけて鉄パイプを振り抜こうとしていた。

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