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稽古 6

 続いてもう1組の組手が始まったが、最初の組手に劣らず、迫力十分な内容だった。

 だが、両者の技は雑にならない。

 当てることをルールとした空手では、喧嘩のような試合になることも少なくない。だがここで行なわれている組手では、思いっきり当てていながら空手道の技としてコントロールされている。

 残心もきちんとあるし、肘が開くといったこともない。その部分だけを見ていると、学生時代の空手を思い出すが、技の威力、迫力から言えばその比ではない。もし防具がなければ、と思うと背筋がゾッとするほどのものなのだ。

「実際に当てる、というのはこれだけ深く踏み込むのか」

 高山は2つの組手を見てそう思った。

「今まで『当てている』と思っていたのは、ちょっと触れている、といった程度だったんだ」

 改めて学生時代の空手との違いを実感していた。

 同時に、こんな激しい稽古をして身体は大丈夫か心配になった。先ほど組手を終了した2人を見ると、怪我らしい怪我はなかった。高山は龍田に尋ねた。

「怪我はありませんか?」

「ありがとう。全然問題ないよ。『当てる』ということを前提にやっているから、良い意味で緊張して、無意識のうちに怪我しないような身体の動きになるんだよ」

 高山はここではじめて当てる空手の意味が分かった。そして学生時代、当てる空手と粋がって後輩に話していた自分を恥じるのだった。



 一通り組手が終わり、稽古は終了した。

 道場の清掃の後、一般の稽古生たちは帰っていった。道場内には伊達をはじめ、内弟子たちが残っていた。

「高山君。今日は君の歓迎会を内弟子たちと行なうことになっているので出席しなさい」

 これまでと一変し、最初に会った時の表情で伊達が言った。

「はい」

 伊達の誘いに高山は嬉しそうに答えた。

 道場に近い居酒屋の店内。

 稽古を終えた藤堂、高山、その他4名の計6名がテーブルを囲んでいた。

「お疲れ様。さて、今日からみんなの仲間が一人増える。高山誠君だ。よろしく頼む」

 伊達の挨拶から会が始まった。先ほど、みんなの稽古を見学し、まだ興奮が冷めない高山は立ち上がって、少しうわずった声で自己紹介を行なった。

「今、先生からご紹介いただいた高山誠です。今日から内弟子の一人として、一緒に稽古させていただきます。よろしくお願いします」

 深々と一礼した。

「高山さんって、何やってたんですか?」

 稽古の時に高山とちょっと話した龍田が質問した。高山は伊達の本を読んだ時のことから空手に関する考え、あるいはここに来るまでの紆余曲折を話した。他の内弟子も大なり小なり似たような経緯でここにいるため、その流れはしっかり理解してもらうことができた。

「俺と似ている」

「僕も何度も断られましたよ」

 口々に同じような体験をしたことが出てきた。

「入門できるのなら、もっと早く言って欲しかったですよ、先生」

 龍田が言った。

「お前は素行に問題があるんじゃないかと先生は心配されたんだよ。最初からOKになるわけないよ」

 御岳が苦笑しながら言った。

「そりゃそうですよね」

 今度は龍田が苦笑いをした。他のメンバーも、同調するかのように爆笑した。

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