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誘い 26

 試割3番手は高山だ。今回の試割では、あえて龍田を最後にし、派手な技で締め括ってもらい、黒田たちに見せつけようと考えている。本来の狙いが龍田なので、その龍田に華を持たせようというのだ。

 高山は今回の組手では回し蹴りを多用した。黒田たちの印象を考慮し、試割も回し蹴りにした。堀田は手の技だったし、今度はまた足技にしたほうがバリエーション的には良いのではという考えも入っている。加えて、上段回し蹴りというのはよく見かけるし、見ている黒田たちにとっても分かりやすいだろうという意識もあった。さらに、その回し蹴りの威力を視覚的にも実感してもらうことも狙いの一つだった。

 その場合、堀田の時と同様、1つだけを割るのでは芸がない。アピールの目的があるのであれば、演出も必要だ。

 そこで、堀田の場合とは異なるが、2つのブロックを間髪入れずに割ることにした。ただ、置き位置は異なる。高山はブロックが左右の斜め前の顔面の位置になるように持ってもらうことにした。堀田の時のように、一方を木の枝に置いた棒にブロックの穴を通し、他方を龍田が持つ。もう一つのブロックは、松池と堀田が持つ棒に通すことにした。今度は上段の位置にセットするため、先ほどより持ち上げる棒の位置も高い。

 高山は吊り下げられたブロックの間に立っている。蹴りのフォロースルーの分も考慮しなければならないが、間髪入れずに反対側のブロックも割らなければならないため、自身の立ち位置とブロックの設定が難しい。1~2回、間合いを計るため、軽く当ててみる。その上で位置やブロックの面の微調整をした。足が触れる面の角度が悪ければ、割れずに足を痛める可能性がある。もしものことを考えると、そのようなリスクは排除しなければならない。ここは慎重に間合いを測った。

 回し蹴りは本来、指を反らせ、その根元(上足底)を当てる。試合などでは背足を用いるケースも多いが、試割では背足ではなく上足底でなくては割りにくい。ここでは本来の使い方である上足底を用いることになった。軽く当てて見せたのは、この足の使い方を強調するためでもあった。

 黒田のような素人でも、喧嘩のために格闘技の真似事をやっていたり、格闘家をきどったりすることがある。そういうところでは背足で行なう回し蹴りが多いため、あえて武術としての回し蹴りを見せようとしたのだ。

 高山の気合いが入った。ほとんどモーションなしで、足がブロックに吸い込まれるような感じで伸びていった。そして蹴った足を地面に下ろすや否や、反対側の足でも同様の軌跡を通り、ブロックに当たった。次の瞬間、ブロックはいずれもきれいに割れていた。斜め前方に2つという置き方の場合、腰の切り返しを素早くし、中心軸をきちんと保ったまま行わないとうまく割れない。高山の腰の強さと柔らかさがこの試割を成功させたのだ。

 これまで3つの技でブロック割が行なわれたが、いずれもきちんとした技だったために砕けるというより、きれいに2つになった。黒田たちにその意味が分かるかどうかは別として、武技としては大変完成度が高いものなった。その点では黒田たちの存在はまったく関係なく、稽古として大変上質な結果だった。

 高山が行った試割の場合も、これまでと同様、黒田たちに対するアピール効果は十分で、もう声を発せず、ただ目を丸くして見ているだけだった。

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