幼少期に埋め込めこまれた酒吞童子の闇の力が、迅の祖父の土御門 嘉将が白狐兎に唱えた術に寄り、沸々とよみがえって来た。迅はみるみるうちに人間の体から鬼の体へ縦に半分変貌してしまっている。白狐兎は何十にも重ねた仮面があったにも関わらず、狐の耳が頭から生えてきて、徐々に人間の姿から獣である狐の姿へと変わった。
「ま、まさか。2人がこんな姿になろうとは思ってもみなかった!!」
嘉将は妖力を使いながら大量の汗を流していた。継続して、術を唱え続けている。暴走すると狐はどう悪さするかわからなかったためだ。迅は半分の体が鬼になったことに信じられず、じっと赤い鬼の手をじっと見つめ。体をぺたぺたと触る。どこか懐かしい印象を受けた。
「俺、鬼だったのか……?」
「違う!! それは小さい頃、お前が酒吞童子に呪いをかけられたんだ。その呪いを解くには直接酒吞童子に会って、本体を倒すしか元に戻る方法はない!! まだその力が残っていたとは、やはりわしの術では止めきれなかったか」
「え?! じいちゃん。知ってたの?」
「知ってたが、今はそれどころじゃない。騒いでるこいつをとめるので必死なんだ」
「ぐわぁわああああああーーーーー」
息苦しそうにしている白狐兎は、両手を広げて何かから怯えていた。体はすべて狐の姿になっている。
「じいちゃん! 白狐兎は優しいやつだ。妖怪なんかじゃない!!」
苦しそうにする白狐兎の姿を見ていられない迅は、嘉将の術を振り切って、守ろうとしていた。
「やめろ、巧みな話術で相手を騙すのが得意なのは狐の魂胆だ。騙されるんじゃない」
「そうかもしれないけど、こいつは違う。普通じゃないんだ。陰陽師の技が使えるし、今、警察の仕事を手伝ってもらってるんだよ。だから、お願いだ。白狐兎だけ見逃して!」
「……迅、お前ってやつは!」
「分かってくれたのか。じいちゃん!!」
そう迅が言うとすぐに嘉将は白狐兎に向かって、額に札を付け、術を唱えようとしたが、躊躇した。暴れる体が宙を舞った。
「あ……。予想外の動きだな」
「信じた俺がまずかったかな」
嘉将と迅は身長よりも高くジャンプする白狐兎の行動に不安を覚えた。姿恰好は全身狐だった。すると、無意識に迅の鬼の手になった左手をかざして、白狐兎にむけると、炎がわきおこった。願ってもない自分の行動に驚愕した迅は、自分の手を止めようとするが。力が強かった。ギリギリで白狐兎は炎を避けていた。
「俺の手、何をする気なんだ!? 白狐兎には数えきれないくらい助けてもらってるんだろ!? その恩を忘れる気か?!」
そんな言葉を投げかけても、自分の手は言うことを聞かない。体半分は鬼の力。迅は、思い通りにならない想いにイラ立ちを覚えた。
「ちくしょーーーーー」
声をあげると当時に炎が周りを取り囲み、嘉将は水の術ですぐに消した。それを何度も消すが、終わりが見えないやり取りになる。キリがなかった。
迅の体力が消耗するまでいつまでも続いていた。
炎を出すたびに身軽に白狐兎は避けていた。さすがの身体能力の持ち主だった。それに続けて嘉将も術を唱え続ける。数時間ループした。
やっと終わったかと思った時には、3人とも息が上がり、地面に仰向けに倒れていた。見上げた空は曇り空で真っ暗だった。