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第73話 審判の間 参

 審判の間で迅と白狐兎、風狐は、必死に逃げ惑った。

 後ろからたくさんの赤鬼、青鬼たちと赤い柱と同じくらいの大きさの閻魔様と大嶽丸が地響きを立てて追いかけてくる。

 これで捕まったら、きっと殺されるんだろう。3人は、あらぬ想像をかきたてる。火あぶりの刑なのか、生き埋めなのか、はたまた内臓を吸い取る妖怪に体を差し出さないといけないのだろうか。ここで、止まったら、どうなるかわからない。


「どこまで逃げばいいんだよ、これ!!」

「とにかく進め!! 前に行け。立ち止まるなよ」

「足痛い! すごく痛い!! 無理無理」


 風狐の履いていた草履はぼろぼろになって、石ころを踏んだだけで激痛だ。迅は、手を思いっきり何度も振り上げて猛スピードで走り続けた。白狐兎は術を使って、足が浮く技で簡単に進むことができた。体が宙に浮かんで、痛みを発しない走り方だった。


「あ、お前、ずるい。俺にもその術かけろよ!」

「……わかったよ。風狐もな」


 札を2枚取り出して、指2本を使って、術を念じた。白狐兎の技で迅と風狐は摩擦なくローラースケートをするように地面の上を走ることができた。


「これなら、痛くないな! ……ちょ、待てよ。悠長にしてられないぞ。もうすぐ行き止まり! どこに行けばいいんだよ」

「いやいや、これは八方塞がりってやつなんじゃないの?」

「嘘でしょ。まだ死にたくないよ!! 助けてよ」


 せっかく技で足の痛みがなくなったと思ったら、大きな灰色の岩壁が立ちはばかる。行き止まりだ。後ろからは、憤怒の表情でこちらに地面を轟かせる閻魔様と大嶽丸と赤鬼、青鬼たちが大勢で押し寄せてくる。がやがやと騒がしく、何かを叫んでいるが聞こえない。


「捕まえろ!! 絶対逃がすんじゃない!!」


 閻魔様は鬼たちに指示を出すと、ひょいと次から次とジャンプして行く手をとめようとする。迅たちは上から飛んでくる鬼たちに体をおさえられた。まさに鬼ごっこといわんばかりに一瞬にしてそれぞれに捕まってしまう。


「ちくしょーーー。べたべた触るんじゃねぇ!」

「やめて! 変態!!」

「俺をおさえるのは100万年早い!」


 体を羽交い絞めにされて、これで終わりかと思われた。迅が捕まる地面には、大きな魔法陣が描かれた。迅にとっての火事場の馬鹿力があふれ出てきた。魔法陣から次から次へと十二天将と言われる各方角を司る青龍せいりゅう朱雀すざく白虎びゃっこ玄武げんぶ勾陳こうちん六合りくごう騰蛇とうだ天后てんこう貴人きじん大陰たいいん大裳たいじょう・天空の12人の神様が現れた。その眩い光の中からの神々しい姿にみな、圧巻されてしまい行動を制限されてしまう。


「……すげぇー」


 白狐兎は、鬼たちに体を捕まっていたが、十二天将の姿を見て、腰を抜かし、大きな口を開けていた。風狐はパンチキックをして、鬼を追い払い、拍手喝采で驚きながら、近くに迫ってきた豊満な胸の大陰に見惚れてしまう。術を使いすぎた迅は、額に大量の汗を流して、膝をついていた。ただ十二天将を出すだけで相当の体力を消耗する。切り替えて、胸の目の前でパンと手をたたき、札を指でつかんだ。足元の魔法陣が青白く光った。


急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう!』


 あらゆる方向から十二天将が閻魔様と大嶽丸やたくさん鬼たちを眩い光で包み込み、身動きが取れなくなっている。そうしてる間に迅と白狐兎と風狐は誰もいない赤い柱が続く通路を急いで走った。どこからともなく飛んできた式神のカラスの2羽が飛んでくる。


「迅、何とかなったな。判断が遅すぎだが」

「……烏兎翔?! 久々に見た。お前、どこにいたんだよ。こっちの世界に来ないと思ってたわ」

「お前じゃない。烏兎翔だ。ずっと迅の見える位置にいた」

「うわ、ストーカーだ」

「…………」

「俺の式神カラスも来てたらしい」


白狐兎も目を見開いて驚いていた。巨大な観音開きの赤い門を通り抜けると、大きな丸く虹色の異次元空間が開いていた。地獄と下界の中間地点の審判の間。この空間は、下界に通じている。


「あの中に入れば元の世界に戻れるぞ!! 急げ、閉じる前に行くぞ」

「丑の刻に閉まるとじいちゃんが言っていたんだ。急がないとやばい」

「風狐はいるか?!」


 白狐兎は後ろを振り返った。予期せぬ事態が起きていた。風狐は、再び大嶽丸の手に捕まっていた。短剣を頬にあてられている。


「そのまま逃げるつもりか?!」

「風狐!」

「白狐兎! 助けて」

「逃げたら、この娘の命はないぞ」

「……ちくしょう!!」


 まだ何も行動してないうちから短剣が風狐の頬に傷がついた。その姿を見て、白狐兎の目が大きく開き、赤く光り始めた。体が徐々に大きくなる。


「やーーーめーーーーろーーー!!」


 体から強い風が吹き荒れる。霊力が倍増した。空はどんより曇ってきて、雷が鳴り始めていた。

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