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第37話 高校生コンビニ店長・シンヤ

 気まぐれでロードワークで隣町まで行ったとき。


 アマノストアっていうコンビニを見つけて。

 もしやと思ったので入ってみたら


 シンヤさんがいた。


 ドキドキした。

 期待通りだったから。


「こんにちは」


 シンヤさんは商品棚を確認していたんだけど。

 私の声に反応してくれた。


「あ、キミは確か……」


「閻魔花蓮です。天野先輩のお兄さん」


 名乗る。


「閻魔さんだったね。そうだった」


 ……思い出してくれた!


 嬉しさで飛び上がりそうになる。


「天野先輩のお兄さんは何をされているんですか?」


 シンヤさんが見ているのが、お酒の棚だったんだよね。


 シンヤさんは


「この前、国産ウイスキーの作り手の物語がドラマになって、大ヒットしたよね」


「ええと……マッ3でしたっけ?」


「そうそう」


 それで国産ウイスキーが売れやすくならないかなと思ったから、ヤマザキのフルボトルを商品に入れてみたんだよ。

 ミニボトルはそこそこ売れるから、フルボトルも売れるかもしれないと思ってね。

 むしろ、ミニボトルは当然だけどトータルで見たら割高だから、大人気になるかもしれない……


 そう、教えてくれた。

 なるほど……


 商売のチャンスって、そういうものなんだ。


「それで、たくさん売れたんですか?」


 するとシンヤさんは苦笑しながら


「結果はあまり劇的には売れてないんだよね」


 ……ダメだったのか。


 私も少し残念な気持ちになる。


 けどシンヤさんは


「諦めるのはまだ早いよ。商品の陳列が悪いのかもしれないし。仕入に労力を支払っているわけだしね」


 無論、ここで撤退するのが良いのかもしれないけどね。


 そこも含めて勉強なんだよ。


 そんなシンヤさんの言葉を聞き私は


 大人だ……


 そう思ったんだ。

 この人、将来に向けてしっかり努力している人なんだ。

 すごい……!


 なので私は


「他に何かアイディアあるんでしょうか?」


 そんな風に訊いたんだ。

 純粋に興味があったから。


 けど


 いきなり、ドンッって後ろから突き飛ばされた。


 私は普段、阿比須真拳の不動の構えの稽古……脚1本でも倒れないようになるための稽古を重ねていたので、倒れることは無かったけど。

 突然だったから驚いた。


 振り返る。


 そこにいたのはおばさんで。

 見た目おばあさんに近い年齢の女の人。


 だけど見た目の維持に頑張ってるのかな?


 髪の毛の手入れや、化粧も頑張ってるのは伝わってくる。

 トシの割には特に太って無くて。

 意識が高いのかな、と思った。


「店長、ちょっとよろしいでしょうか? 今週の仕事で報告したいことが」


「ああ、何かな?」


 そのおばさん、私を全く気にしないでシンヤさんと仕事の話をはじめる。

 あまりにも自然なので、私は自分が突き飛ばされたのが勘違いなんじゃ無いかという錯覚すら持ってしまう。


 だけど……


「ありがとうございましたー」


 そう、私が退店するとき。


 そのおばさんが私に針のような、毒の混じった視線を向けて来たんだ。

 私はそのおばさんの目の理由が理解できなくて。


 ……ちょっとだけ、怖かったよ。

 理由が理解できない悪意って、ちょっと嫌だ。

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