まあ、シンヤさんのコンビニで色々あったけど。
数日で私は忘れた。
嫌なことをいつまでも気に病まないのは私の長所だと思う。
その日。
昼前から。
私は国生さんと買い物に出ていた。
「来週からの山籠もり楽しみだね」
そう、涼し気な白いワンピースと同色の日よけ帽子の国生さん。
私はそれに対し、白いシャツと灰色のハーフパンツ。
男の子っぽい格好。
「うん」
一応、他のメンバーに確認したんだ。
すみません。来週から2週間ほど飛騨の山に籠って良いですか?
そしたら
「別に大丈夫だから行ってきたら?」
「大丈夫ですよ僕たちだけで。全く問題ないです」
咲さんと萬田君。
「良いわ。行って来なさい。こちらは4人でも全く問題ないから」
「ウチらだけでも十分や。山籠もりで思う存分鍛えてき」
天野先輩と飛馬先輩。
ありがたいよ。
そして国生さんもその山籠もりに付き合ってくれることになった。
「何を買うの?」
「カセットコンロの燃料を買いたいのと、わかもとを買いたいのと……あとプロテイン」
阿比須町の唯一の大型商業施設アマノドーで買い物だ。
ここなら大体のものは揃うから。
アマノドーの近くには、買い物帰りの客を狙ってるのか。
お洒落なカフェがいくつかある。
……買い物が終わったら、国生さんと一緒に入れるかなぁ。
一応、山籠もりの費用は親に出して貰ってて。
お釣りはお小遣いにしていいって言われているんだよね。
山籠もりは親も賛成してるというか、家のためにしてることでもあるんだ。
だから、お金は出して貰えている。
持たせてもらったお金は……1万円。
お釣りどのくらい出るかなぁ?
まー、お釣りで足りなければお小遣いがあるけど。
ほとんど使ってないから貯まってるし。
そして強くなってきた日差しに耐えながら。
アマノドーの近くまで来たとき。
ワーキャー言う、人々の悲鳴が聞こえて来た。
何か出た!?
六道プリンセスとしての責務で、悪の気配を感じた私たちはその現場に駆け付ける。
そこには……
「今夏さんと古秋さんは何を言ってるんですか? 還暦間近の老婆のくせに、店長に求婚するなんて」
……そこにはシンヤさんと3人のおばさんがいて。
太ったおばさんが他の2人と揉めていた。
そのおばさんたちは……
ひとりがあのとき、私を突き飛ばしたおばさんだった。
だから多分、3人とも、シンヤさんのコンビニで働いている人なんじゃ無いだろうか?
で、揉めている内容だけど……
どうも、誰がシンヤさんと結婚するかで揉めているみたいだった。
……は?
目がテンになる私たち。
だけど、揉めてる当人たちはヒートアップしていって
「はぁ? このブタ女、何を言ってるの? あなただって40代のくせして!」
「邪悪な奴はこの場から消えて!」
「ぎゃあぎゃあ喚くなババア! 私は実質20代なんだよ! だから店長と結婚できるの!」
そして……
つかみ合いの喧嘩をはじめたんだ……
で、それだけでは飽き足らず
「ひっこめブタ!」
あのおばさんがナイフを持ち出してきた。
……喧嘩は素手が基本なのに、ナイフって。
私は呆れてしまった。
そんなんじゃ勝ちを呼べないよ。
そしてあのおばさんが、太ったおばさんのお腹をナイフで切り裂いた。
血が噴き出す。
「ぎゃあああ!」
悲鳴。
だが、それは厚い脂肪層のせいか致命傷には至らなくて。
「や、やりやがったなクソババア……」
太ったおばさんも千枚通しを持ち出した。
「キモいアバズレブス2匹を駆除してやる……」
残りのおばさんは金槌。
睨み合う3名のおばさん。
固まっているシンヤさん。
そこに……
空間が歪んで、人影が現れたんだ。