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第50話 卑劣な妖魔神

「妖魔神帝フレアー様! お力を!」


 手を広げ、高らかに叫ぶアビ。

 いつもならば、白いエネルギーが発生し、怪物である妖魔獣を出現させるための言葉。


 だけど、このときは違ってて


『分かった。其方そなたの忠義、妾は高く評価するぞ』


 ……どこからともなく、尊大に感じるけど、その言葉の対象に対する想いも感じる声がして。


 同時にアビの輪郭が崩れ。

 緑色のエネルギー体になり。


 それが全て、藤上さんに吸い込まれていく……!


「おおおおおおおおお……!」


 同時に藤上さんも輪郭が崩れ、別の何かに変化していく。

 それは……


 身長5メートルに達しようとする、黒い長ズボンを穿いた上半身裸の巨人。

 筋骨隆々で、緑色の髪。

 顔がその筋肉と体格に似合わず優男。


 アビの顔……


 そして


 その胸に、藤上さんを埋めていた。

 肩から上の部分で、まるで装飾品のように。


 藤上さんに見える部分は、目を血走らせながら叫んでいた。


「ケモノに人権を認めているこの国が憎い!」


「ケモノは殺せ! 嬲り殺しにしろ!」


「ケモノの子供は残らず堕胎しろ!」


 ……こんなことを。


「ヒャアーハッハッハハ!!」


 アビは愉しそうに哄笑した。


「足りない戦闘力は僕自身が融合することで補う! 完璧な作戦だろ!」


 ……なんだって?

 硬直するほどの衝撃。

 それで自分の圧倒的優位性を確信したのか。


 アビはとても厭らしい、下種の極みの笑みを浮かべたんだ。

 そして言い放つ。


特殊技能プリンセススキルや、阿比須真拳とやらを振るってみろよ! やれるもんならなぁ!」




 アビが最初の攻撃を繰り出してくる前に


 私たちは、六道プリンセスに変身することがギリギリで間に合った。


 死に際の集中力を駆使し、私たちはそれを回避する。

 だけど……


 私たちは、こいつを攻撃することが出来ない。

 浄化できないから。


 どうしよう……

 そう思ったけど


 今の私たちは、こいつの攻撃を受け止めて、被害を可能な限り食い止める。

 それしかできないんだ……!


 私は国生さんを庇いながら、アビの攻撃を受け続ける。

 私の鉄身五身はまだまだ未完成だから、ダメージを殺しきれない。


 でも、私がやらなきゃ……


 国生さんは防御の技を持ってない。

 攻撃力だけだ。


 だから攻撃1択の殲滅行為なら問題ないけど……

 この状況、厳し過ぎる……


「閻魔さん……」


 すまなさそうな国生さんの言葉。


 そんな声で言わないで。

 しょうがないことなんだし。


 私は心でそう、国生さんに返した。


「ああ、さいっこうにキモチイイ……!」


 そしてアビは。

 私を殴りつけ、蹴りつけながら興奮していた。


 憎い私たちを一方的に攻撃できるからか。

 ニヤニヤ笑って、腕を振り上げて、足を振り上げて攻撃してくる。


「卑怯者!」


 国生さんが強い調子で糾弾する。

 だけど


「ハハ、それは僕に対する賞賛の言葉かな?」


 そんな言葉に、アビはさらに満足げな笑みを強める。


「この国は狂ってる! 何で悪を滅ぼさないッ!」


「歪みは私が正してやるッ!」


 さらにそこに。

 藤上さんの部分が吐き出す怨嗟の鳴き声。


 世の中の理不尽……

 藤上さんの責任じゃないことで、善良な藤上さんが何故ここまで追い詰められないといけないんだ……?


 私は


「……藤上さん。藤上さんの怒りはもっともだと思う」


 伝わらないことを覚悟しつつ、発する。

 藤上さんの主張に対する答えを。


「……でも、人間は完璧な法律を作ることができないから、一定数藤上さんみたいな辛い人が出るのは仕方ないんだ……仕方ないんだよ……!」


「仕方ないで済むかッ! あんな醜いケモノは重ねて4つだろッ!」


 伝わらない。

 でも、それは無理もないこと。


 あまりにも酷過ぎるから。

 何でクズの母親の悪事のせいで、藤上さんがここまで苦しめられないといけないんだ……?


 そしてそんな様子を。

 アビは爆笑した。


「何も言い返せてないでやんの! 面白過ぎ!」


 クソッ……どうすれば良いの……?


 この戦いの先が見えず、追い詰められていく私たち。

 そのときだった。


 デンワダヨー


 着信音。


 ……突如国生さんの六道ホンに、電話が掛かって来たのは……。

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