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第49話 倒せない妖魔獣

「藤上さん……?」


 私は戸惑っていた。

 藤上さんの怒りは分かる。

 やってしまったことも。


 だけどさ……


 なんというか、話が通じない雰囲気があった。


 そこら辺を嗅ぎ取ったのか


「藤上さん、落ち着いて」


 国生さんがそう声を掛ける。


 けれども


「殺したいー! 何故あの女を子供の段階で殺さなかった!? 殺したいいいいいいい!!」


 叫ぶ。


 駄目だ。

 会話が成立しない。

 絶対に何かおかしい……!


 そこに


 空間が歪み。


「やあ、やってるね」


 アイツが……

 緑色の髪の優男……アビが現れたんだ。


 ニヤニヤと嗤いながら。





「アビ!」


 私の言葉に


「やぁ、六道シックスプリンセスども」


 口元に嫌な笑みを浮かべつつ。

 憎悪の籠った目で私たちを見る。


「……あなたがここに来たということは」


「そうだよ……」


 国生さんの言葉に、アビは狂笑を浮かべ


「そこの娘はすでに妖魔獣さ! さあ、いつも通りに袋叩きにして浄化してみろよ!」


 そんなことを言ったんだ。

 なんだって……!


 藤上さんが妖魔獣……?


 妖魔獣って人間の他責思考に取り憑いて誕生するんだよね?

 何で藤上さんが……?


 そう、思ったけど。


 そこでハタと気づいてしまう。


 ……藤上さんが母親ケモノを責める気持ちだって、他責じゃん!


 全く持って正当な、真っ当な他責だけど!


 私たちの表情で、私たちが気づいたことに気づいたのか


「……分かったようだねぇ。さぁどうする……? いつも通り」


 お前が1000%悪い!

 そう言い切って、発狂りかいさせるかい?


 ……そんなことを。

 アビは心底心地よさそうに言ってきたんだ。


 そんな……


 そんなことをしたら、藤上さんは全ての背負わないで良い罪を全部しょい込んでしまうじゃん!


 駄目だよ! そんなの!


「できるわけない……!」


 私がそう、ポツリと呟く。

 だけど


「……なるほど。詰んでるね。だけど……」


 国生さんは違ってて。

 全ての話を聞き終えて、疑問点を口にしたんだよ……


 そんなに手出ししにくい状況になるのに、何故今まで人間のクズばかり妖魔獣にしたの? って。


 すると


「……妖魔獣の強さは、その殺意を呼び込んだ他責思考の正当性の無さと比例するんだよね」


 だから、他責に正当性がある殺意の場合は妖魔獣にしても素体は強くはならない。

 この妖魔獣になったコは、人間時代と比較して大して強さに変動は無いんだ。


 そう、言ってきた。


 ってことは……


「普通に逮捕したら終わりじゃない。そんなの妖魔獣として役に立たない……」


 私たちが出張る意味がない。

 何でそんなものを作ったのか……?


 こんな状況だけど。

 私は焦りつつ困惑した。


 敵の狙いが読めなかったから。

 まさか、私たちに嫌がらせをするためだけ……?


 そう思ったから


「嫌がらせのつもり!?」


 そう非難の言葉を叩きつけた。


 だけど……


 アビは首を左右に振ったんだ。


「そんなわけないじゃないかぁ!」


 ……私たちに見下した視線を向けながら。

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