「藤上さんはどうなったんですか!?」
「藤上書記は今、豚箱におるみたいや。豚箱どこにあるか知ってるか?」
「大丈夫です! 豚箱の場所はお母さんの仕事場の隣ですから!」
他の町はどうか知らないけど。
阿比須町地方裁判所に併設されているのが『阿比須町豚箱』
親の仕事場だから知り過ぎているくらい知っている。
豚箱に叩き込んだ犯罪者を、直接地方裁判所に出荷する。
それに都合がいいようにこの町は出来ている。
……この町は人間のクズ発生率が高いからね。
しょうがないんだ。
私の言葉に飛馬先輩は「分かった」と一言発して
「……行っといで。こっちはウチらでやっとくから」
そう言ってくれた。
「ありがとうございます!」
私は頭を下げて駆け出した。
そこに
「閻魔さん! 私も!」
国生さんも一緒に来てくれた。
……私たちが地方裁判所付近に辿り着くと。
裁判所から、裁判の傍聴席からの聴衆の大合唱が聞こえてくる。
何の裁判をしてるんだろうか?
エラく盛り上がってる。
……死刑判決かな?
まぁ、どうでもいいや。
藤上さんに用事があるんだから。私たち。
「閻魔さん、早く!」
「うん!」
阿比須町地方裁判所は、大理石で出来た超立派な建物だったけど。
阿比須町豚箱はボロボロのコンクリの建物で。
窓には残らず鉄格子が嵌っていた。
……ここか。
流石犯罪者が投げ込まれる場所だけあって、不潔で不快。そして厳重。
ここしか豚箱を私は知らないけど、他の町もこうなんだろうか?
「国生さん、行くよ」
「うん!」
私たちは頷き合って、豚箱に入ろうとした。
そのときに
「待てい」
「ここは関係者以外立ち入り禁止だ」
……どこからともなく、上半身裸の2メートル超ムキムキマッチョマン2名が現れて。
私たちの行く手を阻んだんだ。
「私たちはクラスメイトの女の子に会いに来たんです! 通してください!」
「お願いします!」
正面からお願いする私たち。
阿比須町豚箱の門番を名乗ったこの双子の職員さんは
「通すことはできぬ。しかし……」
「……犯罪者の名前は?」
私たちの様子に、便宜は図ってくれるみたいで
「
そう伝えると
「少し待っていろ」
そう言い残し。
双子職員の片割れが、豚箱の中に引っ込んでいった。
……藤上さん。
ドキドキしながら待つ。
するとしばらくして……
職員さんに連れられて。
藤上さんが現れた。
……藤上さんは
両手を使えない様に固定する拘束具の役目を果たす特殊な囚人服。
そんな服に着替えさせられてて。
そして猿轡を噛まされていた。
ああ、猿轡って言うより、正確に言うとポール・ギャグかもしれない。
ボール状の猿轡。
涎を垂らしながら、ウーウー唸ってた。
……酷い。
私は、この拘束は酷過ぎる、せめてポール・ギャグくらい外してあげてくださいって職員さんに言おうとした。
けれども
「連れて来たぞ。ほれ、話すがいい」
職員さんがポケットから鍵を取り出して、藤上さんのポール・ギャグを外してくれた。
私は
「藤上さん!」
どうして決断する前に話してくれなかったの!?
そう言おうとした。
けれども
「あのケダモノが憎い! 何が真の愛だ! 不倫女に生きる資格は無い!」
口が自由になった途端。
藤上さんから出た言葉はそれで
私は言葉が掛けられなかった。
藤上さんは
「あんなゴミから産まれたくなかった! 何故堕胎してくれなかった!?」
……私たちなんて目の前にいないみたいに
ただ、自分の母親への怨嗟の声を上げ続けていた……!