私はアビを倒した後、眠りに落ちて。
そのまま次の日学校を休んだから。
後から聞いた話なんだけど。
「……悪い夢から覚めたような気がする」
藤上さんは目覚めたとき、そう呟いたらしい。
他責心を砕かないで、妖魔獣を倒したのはこれがはじめてで。
どうなるんだろうと思っていたけど。
藤上さんは現実の辛い状況が解決したメンタルになっていたみたい。
良かった……!
私はお母さんから、藤上さんのような悲惨な家族の事例について聞いたことがあった。
血の繋がりなんて関係ない、って言うけれど。
裏切りによって、自分の子供でない子供を知らずに育てられさせられた。
これは、男の人からそれまで積み重ねた愛情を一瞬で奪うんだって。
それまでどれだけ可愛がっていても関係ない。
多くの場合、愛情が消えてしまうそうだ。
そんなの酷い!
子供のせいじゃないのに!
……そんなの、通用しないんだよ。
責任は無くても、呪われる理由があるから。
私はお母さんに「呪いを理解できる人間になりなさい」と言われていた。
だから、ものすごく心配していたけど。
あの動画を見せたら、藤上さんのお父さんとお兄さんも変わってくれたんだ。
藤上さんのお父さんと、お兄さんは。
呪いを乗り越えてくれた。
すごいと思う。
他人を呪う正当な理由があるのに、やめてくれたんだから。
本当に、良かったね。
次の日、私は学校を休んで。
その翌日に登校したけど。
昼休みになったとき。
その日は藤上さんはお弁当を持って来た。
……おや?
そう思った。
春香ちゃんに「藤上さんの母親だった生き物は離婚して、とうに藤上家には存在しないよ」って聞いてたのに。
そうすると……
あのお弁当……お父さんが作ってくれたのか、それとも自分で作ったのか……
個人的には、自分で作ったんじゃないかな、と思う。
多分あのときは、お弁当を作るお金を遠慮していたんじゃないかと思うんだよね。
「今日はダイエットしないんだ」
嬉しかったから、思わず藤上さんの席に行ってそう言ってしまった。
「成長期だからね」
藤上さんはそう言って笑った。
良かった。
そして
「私ね、大学に行っても良いって言って貰えたんだ」
藤上さんの声は喜びに満ちていた。
そっか……
高校を卒業したら石鹸の国に就職しなくても良くなったんだ。
良かったね……!
「大学に行ったらどうするの?」
私は訊ねる。
何のために大学に行くのか。
それが大事なんだよね。お母さんも言ってたし。
藤上さんは
「私、経営を学びたい。だから商科大学に行くんだ!」
おお……
すごい。そこまで将来について考えているなんて。
私は藤上さんに羨望の目を向けた。
藤上さんは語った。
自分の夢を、燃える瞳で。
「私ね……日本一の石鹸の国のオーナーになる!」
……良かったね!!