「藤上さんの他責心が消え去っても、あなたのその姿が変わらない……それはつまり、その状態になったら、もう自分ではどうにもできないってことだよね?」
国生さんを庇いながら。
ずっと殴られ続けて、ひたすらに「阿比須真拳奥義・
もう、耐えなくて良いんだ。
ありがとう。先輩たち。
これで存分に、こいつを浄化できるよ。
アビは……あからさまに怯えていた。
その表情からひとつの仮説を立てて、それを検証するために言葉を発した。
それは……今、倒されたら自分自身もただでは済まない。
おそらく……死亡する。
その予想。
それを確かめるために断定口調で予想を叩きつけ、じっとその目の動きを確認する。
すると……
その目に、動揺があった。
まずい、気づかれてしまった。
そういう意思。
……この件について、こいつが私を騙す理由……それはゼロ。
騙してどうすんの?
このまま戦いを続けて、彼らが敗北し。
それでも実は決定打にはならない。
いつも通り、自分たちは物理攻撃無効だから無事。
そんなことを私たちにアピールしても。
そんなの、私たちをただイラつかせるだけだし。
彼らには特に利益なんて無い。
どうせやろうとやるまいと、普通に次も私たちは来たら彼らを倒すだけ。
それで、次の戦いが有利になんてならないし。
そんなことをするくらいなら、次の「正当な他責心」を持ってる人間を探しに行くべきだ。
そっちの方がよほど建設的でしょ。
それをしないんだから……そういうことなんだよ。
「……僕は妖魔神帝フレアー様に仕えし三人衆が一角……アビ!」
だけど……
アビは逃げなかった。
少しだけ、こんな卑劣な手を使って来る奴だから、自分を守る盾が存在しなくなれば尻尾を巻いて逃げ出すハズ。
最期の瞬間まで、見苦しく、私から逃げ回って命乞いをし、そして泣き喚いて果てる……
そんな風に考えていた。
だけどこいつは、震える自分の身体を押さえつけ、私に向き合い、名乗ったんだ。
……これは……戦士の儀礼!
「……逃げないんだ? 負けたら本当に死ぬ状況なのに……?」
私はアビの前に立ち……阿比須真拳の基本の構え……
膝を曲げ、加えて防御を度外視し、拳を自由自在に繰り出せるように引いた姿……強襲の構えを取る。
鉄身五身の防御能力に絶対の自信を持ち、敵に素早く必殺の突きと蹴りを叩き込むことのみを考えた究極の攻めの構えだ。
「逃げるかッ! 逃げるわけ無いだろッ!」
だがそんな私に、アビは吼える。
吼えて、続けた。
「僕らは宇宙の上位種族! 宇宙でただひとつの、他者の魂を糧にできる究極の霊長類だ!」
アビの目には怯えと……その怯えに勝とうとする克己の光があった。
「強欲で身の程知らずの人類め! お前たちは数が億を超えるのに、たった4人しか存在しない我々に、その魂を献上しようとしないッ!」
……お前たちの魂は自分たちには餌の価値しかないんだ。だから大人しく差し出すべきだ。
家畜たちがその肉を食用として人類に差し出すが如く……!
そう、言いたいのか。
だったら……
「私たちの魂は、お前たちの餌じゃない! 地球から出ていけ支配者気取りの害虫め!」
「黙れ下等生物がぁぁぁぁっ!」
そして同時に私たちは地を蹴り。
相手に向かって突進する。
ここで……
昔、お父さんに言われたことを思い出す。
花蓮……覚えておきなさい。
拳より一本拳の方が貫通力が高まる。
そして貫手は……それ以上なんだ。
そう言って、お父さんは私の目の前で羆の首を貫手で貫き、その命を殺ってくれた。
子供心にその様子に憧れた私は、そこから毎日指を鍛え、中学に上がる頃にはコンクリートの塊に貫手を突き刺せる程度にまでは進めたけど……
正直、自信ない。
自信無いけど、戦士の矜持を見せたこいつには、私も最高の戦士の態度で挑まなきゃダメだ!
迫るアビ。
アビの拳が唸りをあげて繰り出される。そこで私は
私は……右手を貫手の形にし、気合を込めて突き出した!
「阿比須真拳奥義!
本来は相手の体内に貫手を突き刺して、命に別状無い形で内臓をつかみ取り、戦意を喪失させる非殺傷の技……!
私の右手はアビの大胸筋を突き破り、その心臓を掌握した!
グホッ……!
心臓を掴まれて、アビの動きが一瞬止まる。
だかすぐに、アビはその戦士の意地でそのまま再起動し、私の頭部目掛けて拳を叩き込もうとする――
「死ねヘルプリンセスゥゥゥッ!」
……だけど。
私は言ったッ!
戦士として最高の態度で応えるとッ!
だから……
「プリンセス無間地獄ッ!」
この技を使ってしまうよッ!
私もただでは済まないけどねッ!
スキルシャウトと同時に、本来は非殺傷のはずのこの技が、必殺技に変化する!
突き刺した私の右手に、光すら吸い込む超重力の暗黒の穴……ブラックホールが出現したんだ。
アビは体内にいきなり、ブラックホールを埋め込まれる形になる……
「おゴッ……!」
最期に。
アビは何て言いたかったのだろうか?
フレアー様?
それとも悔しいって気持ち?
分からない……
その次の瞬間には、黒い暗黒球が右手の中にあり。
それ以外は何も存在しない状態になっていたから。
私は右手を握り込む。
ブラックホールの残滓はそれで消えた。
同時に
ガクッ、と身体に力が入らなくなり。
立てなくなって、崩れ落ちてしまう私。
そこに
「ヘルプリンセス!」
国生さん……ビーストプリンセスが駆け寄って来て、抱きとめてくれた。
ありがとう……国生さん。
私の勝利を信じて、一切手を出さないでいてくれて……
お礼を言いたかったけど、口がなかなか動かない。
それに……だいぶ眠い。
多分明日は学校を休んじゃう……それぐらいの疲労なんだ。
「……ゴメン。ちょっと寝る……ありがとう……春香ちゃん……」
疲労のせいで自制心が緩くなり。
つい、前から言いたかった名前呼びをしてしまった。
それに対する思いを意識する前に、私の意識は闇に落ちる。
「……後は任せて。全部やっとくから……花蓮ちゃん……」
私は微睡の中、そんな春香ちゃんの言葉を聞いた気がした。