優子はテレビが大好きで。
お手伝いや学校の宿題を終えると、いつもテレビを見ていた。
ただ、見てる番組がね……
あまり小学生らしくない。
2人のJC美少女が、淫獣ニコに力を授けられ、打撃格闘最強の力と投げ技の鬼の力を持つ2人の魔法少女に変身する「ふたりはプリアシュラ」とか。
ある日UFOから
そういう小学生らしい番組を見てない。
ニュースばっかり見てる。
「昨日深夜、都内で2名の格闘士が電話ボックス内で果し合いをして、電話ボックスを破壊する事件がありました」
「昨日昼間、格闘士がサファリパークでライオンにサブミッションを掛けて狩り殺す事件が発生しました」
そんな感じのニュースばっかり。
またか、って感じ。
ホントマナー悪いよね。
私がそんなことを思いながら、タンクトップに短パンという格好で、冷蔵庫から炭酸抜きコーラを出して、20キロのロードワーク終了後のシャワーからの炭酸抜きコーラのコンボを行っていると
「ねえお姉ちゃん」
テレビを食い入るように見つめていた白いワンピースの小さな背中から、いきなり呼ばれた。
「えっと」
とりあえずコーラを飲み干して
「何?」
返事。
すると……
「どうして日本は戦争に負けたの?」
振り返った優子は、私にそんな定番の質問を投げかけて来た。
そうだよね……小学校で平和教育がはじまると、その疑問に行きつくよね……
だから私は年長者として教えてあげたよ。
「それはね、昔の日本の軍部の偉い人が戦略のかじ取りを間違えて、敵対勢力に同時に戦争を仕掛けたから……」
そう。
戦線を無理に広げ、勝つ戦争の基本である「集中と突破」の真逆「拡散と戦力の逐次投入」をやったから。
私はそのことを、優子にも分かるように教えてあげようと思ったんだ。
だけど……
「格闘士使えば良かったじゃん!」
……純粋すぎるその言葉。
「格闘士、今も世界中の紛争地域で、単身素手で現地の戦闘員を殴り殺してるんでしょ!? 何故戦争中に格闘士は立ち上がらなかったの!?」
厳しい顔。
……優子は怒っていた。理解できないから、なのかな?
続けて
「絶滅危惧がされている危険な猛獣も、世界中で素手で殺しまくってるって聞いたよ!?」
……うん……そうだね。
「平和な時代に紛争地域に傭兵で出向いて、武装兵士を素手で殺して愉しむことや、ライオンやベンガルドラや白熊を打撃格闘やサブミッションで殺しに行くことは出来るのに、なんで祖国日本が危ないときに戦わなかったの!?」
それに対して私は……
本当は、答えを知っていた。
(アメリカの女格闘士ビスケット・ニクダルマに勝ち目が無いと自己評価する格闘士が多くて、ほとんどの格闘士が参戦を拒否したからなんだよね)
無論、そうじゃない格闘士も居た。
居たけど、その人はその人で、他に守りたいものがあったんだ。
例えばウチのひいお爺ちゃんは
「俺は家族を守りたい」
って言って、出陣を拒否。
そして「軍部の戦争の仕方が悪かったツケを、何故俺が払わないといけないんだ?」と言ったらしい。
……その気持ちは分からないでも無いけど。
本土決戦みたいな状況に追い込まれたの、明らかに軍部のせいだもの。
軍部の采配ミスのツケを、なんでひいお爺ちゃんが自分の家族の安全を投げ出して払わないといけないんだよ。
そんな感じで。
ビスケット・ニクダルマと、個人の主義主張。
この2重のチェックをすり抜けた格闘士。
それがほとんどいなかったんだよね。
だから、苦しい戦局をひっくり返すことができなかった。
そういう、辛い理由なんだよ。
でも……
(こんな理由……話しても「そんなの絶対間違ってるよ!」って言うよね。このくらいの子は純粋だから)
そう思った私は、こう優子に話した。
「格闘士は自分の強さを高めることに人生を掛けている人種だからだと思う。国とか他人の幸せとか、どうでもいいんだ。もちろん、そんな人ばかりじゃないし、国に協力しなかった人にも言い分あるんだろうけど」
……上手く言えたんだろうか?
優子は、黙っていた。
私の言葉に納得してくれたかどうかは、よく分からなかった。