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第59話 庶民の娯楽だよ!

「……ということがあったんだよ」


 そう、日曜日に春香ちゃんと一緒に遊びに出たとき。

 ミスドに一緒に入って、この間の話をした。


 優子に戦争の話をしたっていう話を。


 春香ちゃんは黙って聞いてくれて


「まぁ、小学校2年生には難しい話だよね」


 テーブル席に2人で腰掛け。

 オールドファッションを齧りながら、春香ちゃんはそうコメントしてくれた。


「少し大きくなると……格闘士がいたお陰で、危惧されていた本土決戦とか、当時すでに開発されていた核兵器が使用されることが見送られたって言う理屈が分かるようになると思うんだけど」


 言って紅茶を一口。


 そうなんだよねぇ……


 日本軍はアメリカ軍にミッドウェー海戦以後、負け続けてとうとう本土にまで攻め込まれそうになったんだけど。

 いざ日本本土を攻めようかという段階になったとき。


 ……日本本土に攻め込むと、今まで戦争に参戦しなかった格闘士たちが嬉々として襲って来る。

 銃器で武装した米軍兵士など、格闘士にとっては楽しく狩る対象でしかない。


 これがあったから、躊躇したらしい。


 今の状況を見ると、納得せざるを得ないよね。

 世界中の戦場を「ゆうえんち」と呼んで、遊びに行ってるんだもの。


 ……制空権はあるんだから、爆撃機で爆弾を落とせばいいじゃん?


 そんなことを言うキミ。

 分かって無いね。


 土地の制圧は最後は歩兵なんだよ。


 歩兵での制圧の段階で、爆弾や焼夷弾でも死ななかった格闘士が嬉々として襲って来る。

 そういうことを想像しなきゃいけないんだよ。戦争の采配をとる人は。


 そういうわけで、日本は戦争に負けたけど。

 国家の滅亡だけは免れた。


 世界一格闘士が存在する国だったお陰で。


 ……ホント、世の中って複雑だよね。


 そして私も、紅茶を飲んでいたら。


「花蓮ちゃん、そろそろ時間だと思う」


 春香ちゃんの言葉。


 ……ああ、そっか。


 私は残りの紅茶を一気に飲み干す。


 そして


「行こうか」


 席を立った。

 春香ちゃんも頷き、私に続いてくれた。




 テンションが少し上がるとき。


 それは


 家の近くで処刑が行われるとき。


 ……家のポストにチラシが入っていたんだよね。

 家の近くの阿比須町運動場で、死刑囚3名の処刑が執り行われるって。


 日付は2日後の日曜日。

 つまり今日。


 日曜日 処刑を見たくなる季節 (花蓮)


 ……思わず一句読んでしまうほど興奮した。

 他の地域は知らないけど、阿比須町では処刑は庶民の娯楽だから、屋台が立つんだよね。


 楽しみだなぁ。

 わたあめやたこ焼きを食べながら、悪党が命を失う様を見物できるなんて。

 サイコーじゃん。


 春香ちゃんを誘ったら「もちろんいくよ!」って快諾。


 昨日は楽しみ過ぎて良く寝られなかったんだよね。


 ただ


「帰りに死刑囚の持ち物を3つ貰ってきて」


 ……家を出る前にお母さんにそんなことを言われた。

 死刑囚の持ち物はお守りになるから、競争が厳しいんだよね。

 それだけが心配だよ……


 万病に効くと言われている人血饅頭なら数あるんだけどさ。

 血液はいっぱいあるからねぇ。

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