爆速で過ぎ去った夏。
彼女ができる前はさっさと終わってくれと言わんばかりに長く感じた地獄だったが、彼女ができてからは毎日が楽しい。
最初の頃はエルフ化を疎ましく思ったもんだが、いく先々で木村を喚んだのが幸いして人避けは成功。
二人の時間を過ごせた。
今ではお互いの呼び方も変わってる。
笹島さんではなく美玲と呼び捨てで、向こうはあっくんとより親しい感じになった。
問題はこのまま学校に行った時お互いの関係がバレてしまうのではという懸念だが。
……今思い返してみても、当時から割と俺に好意的だった美玲が、とうとう実を結んだかと喜ばれるに違いない。
そう美玲の口から言われてハッとする。
というか、美玲は割と男子から好印象を受けてるので大変なのは俺の方だと言われて今からビビってる。
まぁ因縁ふっかけられたら転移で逃げるし、諦めが悪かったら異世界送りにしてやればいい。
今までそうやってきたし、これからもそうする。
心の中でそう誓えば割となんとかなるもんだ。
ちなみにカレカノの関係になってキスまではしたが、そこから先はまだである。
と言うか、お互いに養われてる身で責任も持てないことはしない様にしようと決めてる。
せめてバイトくらいはして自活できる様にはしときたい。
異世界で稼ぐ?
生活拠点を異世界に置くんならともかく、地球ほど治安がいいわけじゃないからな、あそこ。
なんなら妊婦を一人置いて冒険とか無責任にも程がある。
とーちゃんやかーちゃんなら守ってくれるけど、問題は美玲の方の家族だよ。
エルフ化にはあまり良い感情を持ってないらしく、割と疎まれてるみたいだった。
うちによく来るのは家に居場所がなくてと言う後ろめたさもあったらしい。
いっそウチの子になるか? と言われても向こうが親権を手放すつもりもないので無理っぽい。
それこそ金で解決できる問題でもないしな。
俺が心の拠り所になってるから、最悪な場合は異世界に身を置くことも考えとく。
特に世間体を気にしてるのでエルフ化させようもんならヒステリーで美玲にあたりかねない危うさも含んでいる。
スキルの有無ではないのだ。
「お母さんもそうだけど、お父さんもお姉ちゃんも社会に不満を持ってないから。なんなら勝ち組なんだよね、あの人達。あたしはそんな家族より少し劣るから、もう少し何かあればなと思ってるよ。でもようやく手に入れても受け入れられなかった。頭が硬いんだ、うちの家族」
「美玲は俺が守るよ」
「あっくん……うん」
だなんて一幕もあり、より依存中。
それはさておき日常を送る上でどうしても気になるのは学校の事だ。
長期休暇中は日常を忘れてハメを忘れて遊び倒したが、そこでクラスメイトとばったりくらいのハプニングはあると思ってた。
それが全くないのだ。
木村に聞いてもあいつは普段通り。
そして夏休みが明けて学校に行くと、幾ばくかのクラスメイトを除いてほとんどが欠席していた。
「みんな揃って遅刻か?」
「真面目な岡戸っちや城島さんも? そんなことありえる?」
ないな。じゃあどうして?
「磯貝〜、お前らバカップルは平気だったんか?」
そこで木村が登場し、俺と美玲をまとめて呼ぶ。
バカップル言うなし。
そりゃあ? ペアルックなんかにうつつを抜かしたりしてたけど。
そう言われるのは心外だ。
俺たちは真剣にお付き合いしてるんだ。
それはさておき訳知り顔の木村を問い詰める。
「木村は何か知ってるのか?」
「ああ、俺もお前に喚ばれなきゃあっちで無双してたからな。ステータス見てみろ。きっと面白いもんが見れるぜ?」
結局教えてくれないのはこいつらしい。
確かに俺はスキルのクールタイムがなくなってからあまりステータスを覗くことはなくなっていた。それが災いしたのだろう、クラスメイトに起こった身の危険を察知することができずにいた。
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アキラ・イソガイ
<スキル>
転移LV50
即時転移
入れ替え
強制召喚
召喚陣解析 new!
召喚阻害 new!
<転移先>
1_地球
2_惑星クラセリア(スキル獲得)
3_惑星エムベス(ダンジョン)
4_惑星アトランザ(割り振りステータス獲得)new!
<固有能力>
ルーム作製【30】
設定追加枠【3】
長寿
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「なんか増えてるな。割り振りステータス? お前、とうとうゲーム世界に呼ばれちまったか」
「そうなんだよー。ま、職業適性が村人だったから追放されたんだがな? それでもスキルの放送局は健在だからTotuber業は続けてたわけ。今じゃエルフ系Vtuberとして結構売れてきてるんだぜ?」
「バーチャル詐欺じゃねーか」
「結局そう謳ってた方が信憑性は高まるんだよ」
「まぁ、普通は信じないもんな。めっちゃカメラ向けられるし」
「俺はお前達のいちゃつく時間を稼いでやったんだぜ? 尊敬されこそすれ貶される謂れはないんだが?」
「その節はどうもありがとうございました!」
「うむ、良きに計らえ」
俺と木村のやりとりに、ようやく美玲がことの重大さを理解した。
「え、じゃあクラスのみんなは他の世界に召喚されたってわけ?」
「俺たちが無事だったのは俺が新しく獲得した『召喚阻害』のおかげらしい。近くにいた美玲にまでその効果が及んでいたのは俺が一番大切に思ってるからだろうな」
「あっくん、ここ教室なんだけど……」
「ヒューヒューお熱いこった。つって、桂木も来ねーな? ホームルーム始まる時間だぞ?」
もしかしてエルフ化した人物全員異世界に拉致された?
俺は自分の過ちを棚上に上げつつ、大声で夏休み中、異世界に拉致された地球人を強制的に日本に喚び返した。
「お前ら! 夏休みは終わったぞ! 帰ってこーーーい!!!」
教室に溢れかえる人・人・人!
まあ殆どがエルフなので人の枠に当てはめていいのか謎だが。
悲喜交々の感情をあらわにしている。
「散った散った。俺らはこれから授業あっから。要望はここで聞く」
クラスメイト以外のそれぞれにとーちゃんの名刺を配って返した。
今やネットでなんとでもなる時代。とーちゃんのスキルは翻訳すらしてくれるので日本人でなくても対応してくれるのだ。
「磯貝君、ありがとう! 本当に助かったわ!」
そうやって詰め寄ってきたのはエルフ化した赤城さん。
言わずと知れたクラスのマドンナである。
多分美玲と付き合う前なら鼻の下を伸ばしていたが、今ではそんなことしない。
つーかできない。美玲の視線がさっきから痛いもん。
「そのこと含めて話は後で聞くから席について。はい、ハンカチ。恨みつらみも後で聞くし、週末には戻れるように配慮もするからホームルーム始めてください先生」
「言いたいことはたくさんあるが、お前の言い分もわかる。またあの場所に帰れるんなら俺からはとやかく言わん」
めちゃくちゃ不満そうな先生の声を聞きながら、俺の日常は戻ってきた。