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第43話 アトランザ旅行⑤

「ようこそ、我が錬金工房へ。磯貝君、笹島さん。歓迎するよ」

「あ、あたしもう磯貝だから」


大仰に手を振る下野に、うちの奥さんは否定するように挙手した。


「おっと失礼、まさか在学中に結婚してるとは。やるねぇ磯貝君」

「そういうお前こそ、よく姫路さんを落とせたなぁ?」

「そういうんじゃないよ、お互いのスキルを尊重し合った結果かな? 既存のものを複製するのって危ないしね?」

「俺たちには身近に反面教師がいたもんなぁ」


教師でありながら俺たち生徒にありとあらゆる悪法を身をもって教えてくれた桂木先生。

今はどこで何しているのやら?

案外上手く生き残りそうなんだよな、あの人。

対人めちゃくちゃ強いし。


「あはは、桂木先生めちゃくちゃだったもんね」

「そうそう。んで、本題に入るけど足りない物資ってなんだ?」

「おおよそ全部だね。うちの上層部ってオブラートに包んでもクソでね? 今回戦に負けたのは僕達が途中で逃げ出したからだって理由で増税して、払えないならって冬を越えるために貯めてた資材を根こそぎ奪ってったんだ」

「最悪じゃん、もうこんな国出ちゃえよ」

「そうもいかないんだよ。ここで店出すのにそれなりにお金出してるし、販売ルートの確立もようやくここまで漕ぎ着けたんだ。手放すには惜しいよ」


下野の言い分もわかる。

小さな店とはいえ、自分の城。

俺は転々としてるからまだそこらへんの実感が湧かない。

でも下野は一国一城の主なんだよなぁ。

頑張ってるじゃん。

クラスメイトとして応援してやりたくなる。


「と、要求ばっかりしてちゃ申し訳ないから。僕の発明品も見てってよ。学校の後輩の子達を雇って錬金術師の真似事もしててね?」

「そういや錬金工房とか言ってたもんな?」

「あっくん、エールに目がないの。お安くしてくれたら助かるな〜?」

「あー、そこはかなに任せてるから。僕は作るだけだね」

「かな?」

「あ、うん。姫路さんの名前」

「名前で呼び合ってるんだ?」

「磯貝君だってそうじゃん?」

「まぁな」


そこから恋人談義に入り、どこまで恋人としたのか語り合う。

どうやら下野も最後までしているようだ。

しかしどうも子供が授からないらしい。

うちも同じなんだよなぁ。

エルフになったから出生率が下がったのか、常に新しい状況下での経験を重ねていると会話に熱が入る。


「ちょっとお二方〜? お弟子さん達が困惑してるのでその辺でお話やめてくれます〜?」

「おっと、ごめん」

「悪い悪い、やっぱり自分に問題があるのかなって悩んじゃうじゃん? そういう意味では磯貝君て話しやすくて。つい」

「聞いてるこっちが恥ずかしいんですけど〜?」


そして会話を通じていやーんな美玲を想像してしまったのか、お弟子さんが若干前屈みだ。

本当に悪いことをしたと思ってる。

でも美玲に手を出したら惑星ストリーム送りだからな?

俺は容赦のない男なのだ。


「ほら、男ども! バカやってないでお客様のご案内なさい」

「っと、女性陣がお怒りだ」

「磯貝君もすっかり尻に敷かれてるじゃん?」

「お前だってそうじゃん」

「まぁね!」


雑談、猥談を重ねた男子の友情は何よりも堅く結ばれる。

お互いの性癖を晒し合うってことはそれなりに認め合わねばできないことだからな。

しかし姫路さんにそっちの趣味があったなんてなぁ。

本当に人は見た目で判断しちゃいけないな。


「磯貝君〜?」


おっとやばい姫路さんに妄想内容を見破られた。

恐るべきは女性の直感か。


「磯貝君顔に出るから、誰にでもわかるよ」


下野に突っ込まれた。

俺、そこまで顔に出るかなぁ?


そんなこんなで茶番を挟みつつ、工房の中を案内してもらう。

出るわ出るわ、まぁまぁ異世界じゃおおよそお目にかかれない物品が。どう考えても採算が取れないだろうテレビジョンとか。


魔石を燃料としてるが、消費が激しいらしい。

そこで開発したのが千年樹の実と魔石を合成したアイテムで……なんとお値段が金貨9000枚との事。

馬鹿かな?


帝国貴族でも迂闊に手を出さない上、まず放送局とかないだろう。

そこはどうするのかと聞けば、木村にオファーを出す予定だとか。

本当に人生のためにならない暇潰しにしかなんねーぞ、あいつの番組?

それを見るために金貨9000枚をドブに捨てる狂人が果たしていてくれるだろうか? 

そもそも、魔力を大量に詰める業者もいないだろ。

まぁうちの美玲なら頼まれずともやってくれそうだが、頼られっぱなしなのは嫌だし。


そんなこんなで下野の発明は基本金にならない趣味の品ばかり。

唯一ヒットしたのは改造エールくらいで、姫路さんは下野にもっと人様の役に立つ発明をしてもらいたいらしかった。

そこで雇い入れた学園の後輩君。

例の木村の配信について行った子達らしく、MP消費型の『アイテムクラフト』『錬金術』、それと鋼の如く固める『金剛』と呼ばれるスキル持ちだった。


そこから察せられるのは、下野は後輩の力でなんとか飯を食ってるんじゃないかという事実である。下野の功績実質エールのみじゃん。

こりゃ姫路さんも呆れるわけだよ。


後輩は金剛の三石、アイテムクラフトの笠木、錬金術の門倉と名乗った。一つ上の先輩を女将さん、親方と慕う後輩君達。

大丈夫、性癖拗れてない?


そこで見せてもらった商品が、まあよくある元の世界の模造品みたいなやつで……オセロやジェンガ、ルービックキューブのような頭を使う系のパーティゲームだ。


「これってこっちで売れんの?」

「物珍しくて買ってくれる人はいますよ。値段が高いと見向きもされないけど」

「だよなぁ」


下野の商品、クオリティはピカイチだけど、後輩君の商品はどうも模造品の域を出ない。

いっそ作り上げた商品を複製して薄利多売した方が早いんじゃないか? そう伝えると……


「あれ、一個複製するのにわざわざ解析かけなきゃいけないのよ。既存品なら売れる見込みもあるから頑張れるけど、売れる見込みもないものを解析する必要ってある?」


笑顔の裏に悪鬼羅刹が見える。

まぁ姫路さんの言わんとすることはわからんでもない。

この工房が帝国でもそれなりに高い位置に居られるのは、下野の改造エールが世界シェア第三位だから。

一般エールに次いで世界中に配られてるのが大きく影響するらしい。


だからってそれだけで食ってるとは言いがたく。

海外に持っていくには変質しやすさから帝国から程近い俺たちの拠点ぐらいにしか配られてないようだ。

それでもシェア三位取れてるのはすげーよ。


と言うか、そっちの販売補助も俺にして欲しいみたいな言い方だった。

品質変わるのか〜。だったら俺か桂木先生しか無理だな。


なお、後者はどれだけ吹っ掛けられるかわからないので論外らしい。

って、俺ならいいのかよ!

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