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第64話 自由時間③

コルトの言い分も確かなので、設定を変更することにした。

このパーティ編成中の間くらいは俺基準ではなく、パーティ基準でやってしまおうというわけだ。


実際のところ、武器持ちのモンスターは遠距離などからの攻撃がやばい。特にリサやオリヴィアなんかの魔法職は防御が薄く弓で撃たれたら致命傷。

如何に前衛としての能力が高くたってガガーラン一人じゃ数の暴力に勝てないし、威力によっては即死の可能性もあるのでコルトのアイテムに頼り切るのもダメ。


今回このパーティがコボルドとの戦闘を想定してなかったのはそういうことだ。

というか、この流れどこかで聞いたことあるんだが?


モンスターの生息地ってそうそう変わらないんだよ。

また強力なモンスターが生態系壊してやってきてるとか?

まさかね。


取り敢えず武装解除も加味しつつ、パーティメンバーに危害が加わりそうな時は、モンスターの肉体がパーティメンバーの攻撃の最大火力が出る位置に移動してもらった。


これでガガーランの空振りの可能性はなくなり、リサの撃ち漏らしもなくなる。

駆除したモンスターの死体も残るし、転移解体のポーターとしての仕事もできる。

良いことづくめだ。


「なんていうかアークさんて想像以上にめちゃくちゃですよね」

「やめろよ。褒めたって何も出ないぞ?」

「これ、絶対褒めてないぞ」

「褒めてはないわね」

「私も若干引いてるもの」

「そうやって距離感取るの悪いことだと思いまーす!」

「いや、実際すごいしすごく助かってるんですけど、これに慣れちゃったら僕達成長しないかなって」


うなずくパーティメンバー達。


「俺がいる間だけでも楽したら良いんじゃない? ポーター雇うなんてそうそうないでしょ?」

「そりゃ今回の遠征はようやく実力に追いついたモンスターの討伐だ。でもあんたに頼ると実力を勘違いしちまいそうで怖いんだ」

「一理ある。けど、俺はずっと此処のパーティに居るわけじゃないぞ? 今回はたまたまお前達とマッチングしただけだ。今回の遠征で俺の仕事を気に入ってくれたら方々に噂を流してくれ。それで俺は違うパーティでお仕事ができる。Win-Winだろ?」


それはそれでもったいないという顔をするんじゃないよ。

味を占めたら病みつきになる。

過去の経験から多くを学んだ俺は、この仕事をやる以上は一つところにいない方がいいと知ってるからな。


「今回限りの付き合いと思えば気が楽だが、やっぱりこの能力を誰かに知られるのは惜しいよな」

「そうやって俺の仕事を奪うんなら設定緩くして危険な目に合わせても良いんだが? 俺の善意の受け取り方次第だよ。甘い蜜を吸って気をよくするのはわかるが、それに俺を巻き込まないでくれ」

「言ってることはごもっともね。リーダー、今回十分甘えてジャンジャン稼ぐわよ? それでこの人を見つけ次第確保する。それで良いわよね?」

「それしかねーわな」

「ご予約ありがとうございます。さぁ、どんどん捌こうか!」


コルトが「この人を基準にポーターを見てたら他のポーターの仕事なくなるんじゃ?」という顔をしてくるが、そこは気にしちゃダメなところだぞ!


そして毎日はこの世界に居ないから安心しろ。

どうせこの業務は検証兼息抜きだからな!


未だに俺のスキル欄にスキルが入ってくることはないので、ステータス系の移動は不可、と。

スリ対策も効力を発揮してない。

殺して直接奪った方が効率的と頭のネジが何本か外れてる連中が多いのか、それとも別の要因か?

設定の段階で無理が生じると効果はない様だ。


今のところ作動するのは敵意や殺意。

そして武器などの脅威、人間、モンスターそのものくらいだ。

都市や大陸、惑星が行けたから物理的の移動はできるが、ステータスなどの精神系、自分が楽になる金銭系の転移は無理らしい。


まああとは手動でなんとかせんと、本当のだけ人間になると忠告してくれてるのかもな。美玲さんもそういうところあるし。そう思っとくか。


そして5時間、狩りまくった。


「ヒャッホー入れ食いじゃー」

「狙わなくても当たるとか最高ね! もうバンバン撃っちゃうわよ!」

「ちょっとリサ、クセになったらどうするの? あなたただでさえ命中率悪いのに!」

「そういうオリヴィアだって祈るだけでパーティメンバー全員に補助魔法がかかるから動き回らなくたって良いなんて思ってるんじゃないの?」


リサの質問に黙りこくったオリヴィア。

このパーティメンバーは絶賛楽をしているのだ。

ただ一人、楽をしてないのがコルトくらいで。


「これ、マナポーションの消費激しいので逆にお金減るんじゃ!?」


との事。言わんとすることは分かる。

そこをやりくりして乗り越えるからこその達成感が得られるわけだ。

どこかで楽をすると、どこかに皺寄せがいく。

今回は消耗品の方に重点が向いた。

そんなところか。


「転移サービスなら3回まで受けつけるぞ。道具屋さんに直行するなら此処に魔法陣置いとくから行っていいぞ」


手元から取り出したカードを地面に置くと、魔法陣がその場でぼうっと淡く光る。

これそのものにはなんの効果もないが、此処を起点にして俺が任意で転移させる感じだ。

カウンター転移に反応させてるので乗ったかどうかも見えている。

こっちで操作する時は相手がどう考えてるとか見えないから助かるんだよな。よもや敵意以外にも使い道があったとは。

至れり尽くせりである。


「この陣は道具屋にも置かれるので?」

「このパーティメンバーでしか発動しない様にしてるし、そういうものだと道具屋の親父さんにも通達済みだ。俺がよく顔を出してる店だからな」


憂いは晴れたのか、コルトは意気揚々と無駄に買い込んだ消耗品を売却し、マナポーションの仕入れ代に回して帰ってきた。


「食料と無駄な消耗品全部売ってマナポーション買い込んできたよ」

「思い切ったな!」

「そうよ、マジックスクロールまで売るだなんて?」

「食事はどうなさるつもり?」

「そこはアークさんの方が詳しいと思います」

「まぁ街に帰って食うのが一番だよな? 魔法陣は此処においとくし、パーティメンバーしか作動しない様にした。ギルドに一旦帰って納品して懐あっためるのも自由で良いぞ」

「本当に出鱈目だわ。私も転移魔法覚えようかしら?」


転移魔法って覚えられるもんなの?

買うとしたって一般人に買える値段かなぁ?

まぁMP消費型だとしたって日に何回も使えるもんじゃないだろうけど。


「やめときなさい。あれって天文学的な値段よ。そもそも数もないし平民に買える額ではないわ」

「そうよねー。なんで私のスキルは転移じゃないのかしら?」

「そんなに転移が羨ましいか?」


リサが頷く。

確かに転移って羨ましがられるし実際楽だけど、逆にその羨ましい奴が群がってくるデメリットもあるんだよな。

転移できるだけで俺自身はそんなに強くないから暴力で言うことを聞かせようとする連中が後をたたない。

下手すりゃ迂闊に友達も作れなくなる。

そんなリスクもあると聞いたらリサは秒で心変わりした様だ。


凄いスキルだからってメリットばかり見てたら足を掬われるのさ。

デメリットは身に覚えのない家族と愛人、友達が増えるくらいだと言ったら全員が苦笑いした。

少しは俺の苦労もわかってくれたらしい。


久しぶりに大勢のメンツと食う飯はうまかった。

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