目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第66話 こんにちは赤ちゃん

あれから特に何事もなく、どちらかと言えば爆速で“カウンター転移”のレベルが上がったことを除けば平穏無事に『ガーランド』の雇用期間を終えた。


多分俺がこの世界にいる限り、広範囲で対象に影響を与え続ける能力なのだろうな、“カウンター転移”って。

そのレベルの上がりっぷりを考えれば、モンスターパレードは収束したと考えていいだろう。

なんでレベル5から30まで上がったのか考えるまでもない。

なにもしてないのにレベル5まで上がった理由も頷けた。


遠征ということもあり、長期間の拘束だったがほぼ毎日酒場で飲んでるし、宿屋でゆっくり寝てるので討伐の速度も鰻登りだ。

そのおかげで予想を上回る納品額が懐に入り、俺も雇用額の他に報酬をたんまり手に入れた。


「アークさんがと分かれるのは非常に残念ですが」

「本当にな。なんならこのままうちに来ればいいのに」

「やめておく。他の奴らの嫉妬が怖いからな。お前らも急に成果を稼ぎすぎると注目されるから気をつけてな?」


他の奴らにも同様に好調だが、討伐したモンスターの全てを持ち帰れる者はそうそういない。

そこで一組だけ荒稼ぎしたパーティが居た。

その噂は瞬く間にギルドどころか国中を周り、嫉妬の嵐が渦巻くだろう。

だから俺は逃げるのだ。

愛しのハニーの元にな?


あんなにも毎日は嫌だと言いつつも、7日もしてないとそれなりに溜まるものだ。

ナニとは言わんが、急に人肌恋しくなるんだよ。

『ガーランド』と別れを告げ、俺は奥さんのまつ我が家へと帰る。


しかしそこで出迎えてくれたのは……


「おとーしゃん、おかえりなさい」

「あーくん、上手にできたわねー。ほら、お父さんもびっくりしてる」


何処から連れてきたのか5歳くらいの女の子を娘と称してあやしてる姿だ。


「え、何? その子誰?」

「あたしとあっくんの愛の結晶だよ!」


そう伝えられたところで何を信用しろというのか。

ちなみに異世界エスペルエムで経過開いた日数はこちら時間に換算しておよそ1時間にも満たない。

そんな束の間で……というかバイト先からどうやって帰ってきたの?

わからないことばかりだ。


話を掻い摘んでまとめると、こうだ。

下野の奴がアトランザでエルフと交流を図り、そこで知識を得た。

それがエルフ同士で子は成せないこと。


エルフはマナの木、世界樹とも呼ばれる木の守り手。

数を増やすには元になった木に祈る事で成長させて、木の実を元に俺から摂取した遺伝子情報を組み込んで生み出したホムンクルスが彼女なのだそうだ。


そういえば俺たちって木ノ実食ってエルフ化したもんな。

じゃあ数を増やすのならそこら辺の人物に木ノ実食わせるだけで良かった?

行為に及ばなくてもいいのは楽でいいが、それはそれとして残念でならない。

なまじ17年間人間で暮らしてきているからな、お腹を痛めて子を産む体験ができなくなってショックを受けてるのかと思いきや、違うアプローチから子供を育てることができると知って喜んでいる。


ちなみに俺の種と美玲さんのマナで育んで育てたから俺たちの子らしい。避妊の意味もなかったとは恐れ入るぜ。

しかしあれだな、自分の子だとわかると途端に可愛く見えてくる。

最初見せられた時は心が現実についてこれなかったが、頭で知覚すればそれはそれでという気持ちになる。


「目元とかあっくんにそっくりでしょ?」

「あーうー」

「全体的な顔立ちは美玲さん似だよね。これはきっと美人になるぞー?」

「でもホムンクルスなので肉体的成長はしないのよねー。成長させた姿でまた作り直す必要があるの」

「え、ずっとこのままなの?」

「本来エルフって100歳まで子供扱いされるらしいわ。そういう意味では私たちもハイハイしてる年頃なのだそうよ?」

「いまいち実感わかねぇな。ほらほら、お父さんでちゅよー?」


バブバブしてる我が子をあやすと、なんか急に父親としての責任感が湧いてきた。


「やっぱりあっくんは既成事実を作った方が早かったね。ママさんの言う通りだったわ?」

「え、俺そんなに信用なかった?」

「ううん、昔から宝物は大事にしまって取っておく子だって」


そうだっけ? 自分のことながらわからん。


「取っておくのはいいけど、しまいっぱなしだと言っていたの」

「あー……思い当たる節はある。いっぱい遊び倒すと壊れちゃったりするじゃん? 俺はあれが嫌でさー、どうにかして保存状態を維持したかったんだよ」

「でもお人形とかもたまに出して虫干ししないと悪くなっちゃうんだよ?」

「俺は綺麗にしまってそれでおしまいだったからなー」

「だからママさんもあたしにそうならない様に言ってくれたんだと思うな。家に閉じ込める様になったら警戒しなさいって」

「うぇ、俺そんなに信用なかったのか?」

「一番長く見てきてる人だからね。きっとあっくんが無意識のことも把握してると思うわ」

「つくづく頭が上がらんな」

「あたしもー、教わることばかりだよ。それでも、これからは親子三人で頑張ろ?」


親子三人と言いつつ、この子は成長しないんだよな。

その分俺らの成長もクソ遅い。

そういう意味ではエルフの体感時間を知るのにいいのかもな。


あとサラッとホムンクルスを製造しちゃう下野がヤバい。

人間の神秘に土足で入り込んだ上に神様に喧嘩を売る行為だ。

宗教的に戦争になりそうなものである。


まぁ、全員が全員反対しないとは思うが、全く成長しない自分の姿についてこれる生命体という意味ではエルフ向きなんだよなぁ。


「ところで美玲さん、どうやってうちに帰ってきたの?」

「それは僕から説明しよう」


突如現れた扉を開けて出てきたのは、諸悪の根源下野だった。

姫路さんもお揃いで、似たような子供を抱っこしている。

わかっていたけど、これはうちと向こうでの共同制作だったか。

俺なら断らないと踏んでか、はたまた巻き込む気満々なのかその笑みは愉悦が浮かんでいた。


こいつ、アトランザに渡ってからどんどん愉快な性格になっていくな。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?