「磯貝君、魔法そんなに気に入った?」
「悪いか?」
「別に悪くないけど。そんなにバンバン使うと午後までもたないよ?」
早朝からアースシャッフルをたくさん使っている理由は、マナに余裕があるのと早く上位魔法を覚えたいが故だった。
土魔法って覚えようによっては最強だったりするので、他の世界で困った時に使いたいのだ。
今まで職業でハズレばっかり引いてたもんだから、ようやくまともなのが来て喜んでいる。
MPだけ無駄にあっても全く使わなかったからなー。
「ワンワン!」
畑の土を掘っていると、呼んでないのにコボルドが警戒する様に吠え出した。
もしかして、毒物を検知した?
俺は魔法の手を止めて、土を左右に綺麗にどかす。
そこには濁った色の水晶玉が設置されていた。
いや、違うな。
設置ではない。
この大地が無理矢理上に乗っかることで押し潰されたのだ。
まるで古代遺跡の様に。
嫌な予感がするので、取り敢えずクラセリアの王宮に転移させた。
「セーフ」
「なんか今犬みたいな声聞こえたけど、何事?」
「コボルドが土の中から変なもの見つけてさ。取り敢えずそれは転移させたんだけど」
「何処に?」
「クラセリアのレグゼル王宮に」
「あの王族がクソだからと言って、流石にそれは殺人幇助だよ?」
「いや、毒物くらい魔法で解除できんでしょ。それよりも俺の魔法スキルだよ」
「どれだけあの人達がどうでもいいのかその発言でわかるよね?」
「救いようのないクズと言うだけで別に殺したいわけじゃないぞ」
「殺しかねないもの転移させすぎじゃないのって言ってるのさ」
「試練、試練」
特に王族に興味もないとばかりに話を切り、エレメントツリーを開く。
向こうだって試練を課してくるんだから、自分たちも受けてみろってんだ。
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❗️ エレメントツリーが成長した
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アーク:エルフ♂
タイプ:サポート
マ ナ:46,000/106,000
属 性:土
妖 精:コボルド/能力:毒検知(消費マナ10)
:該当なし
:該当なし
精 霊:該当なし
:該当なし
┏寵愛━???
┃ ┏放射━種まき━???
耐久━╋開墾━採掘━???
┃ ┗アースシャッフル(消費マナ5)
┣忍耐 ┣メタルソナー(消費マナ10)
┃ ┗???
┣???
┗???
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うーん? なんだこれ。
上位魔法って感じはしないな。
サポート特化だからか、攻撃に転用できそうなものではない。
次に期待しよう。
「何か増えてた?」
「メタルソナーだって」
「金属探知機?」
「そう聞くと微妙だな、これ。マナ消費アースシャッフルの倍なんだけど」
「アースシャッフルで穴掘って、さらに金属探知機なら当たりの部類じゃない? 鉱石とか見つけたら僕が加工するし」
「家で食う料理もいい加減串に刺して焼く以外のモンも食いたいしな」
そのためには包丁が必要だ。
近所で手に入るのは木材の他は石のみ。
台所はそれっぽくできたが、石の包丁では切れ味が悪すぎた。
それに魔法を利用するにも姫路さんのウィンドカッター(3WAY)だと繊細な包丁技術は期待できないし。
それで早速使用すると、畑の真下からあまりにも大量に反応があった。
丁度あの水晶玉が設置されてた場所だ。
採掘スキルを使って鉄のツルハシでカンカンしてると、数多くの石ころの中で一つだけ見慣れないものが手に入った。
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❗️ 古代帝国ジャキンガル鉱を手に入れた
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この世界の名前の金属?
それに帝国だって?
この世界ではかつて種族を統一していた人種がいたのか?
じゃああの水晶玉もその帝国のものかもしれないな。
「何か見つかった?」
「畑の下からこんなのが出たぞ」
下野に投げて寄越すと、しっかりキャッチして何やら魔道具の上に乗せて解析していた。
「これ……他の世界でも発見されてないレアメタルだよ?」
「そんなにすごいのか?」
「大発見、と言いたいけど……多分里の人に知られたら拙いやつかもね。他に情報は取れた?」
「古代帝国という名前と、この世界の名前が一緒に入ってたぞ」
「え、それってつまり?」
「ああ、もしかしたらこの世界にはもっと前に統一国家が存在していた可能性がある」
「エルフはそれを隠してる?」
「分からないけど、この世界で長寿な種族って他にいるか?」
「竜種やポセイドンとかは?」
「強者を求める奴と、地上の民を嫌う種族か。何か伝承が伝わってたりな」
「でも特に暴いたりはしない?」
「そりゃ自分の命は惜しいもん。お前はこういうの好きなタイプだった?」
「好きだけど、僕も自分の命は惜しいから磯貝君に賛成するよ」
俺たちは発掘物を見て見ぬ振りした。
◇ ◆ ◇ ◆
一方その頃異世界クラセリア・レグゼル王宮では。
家臣達が次々と異形生命体に変貌する事件が起きていた。
確実に転移させた水晶玉のせいだろう。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」
兵士たちは皮膚を溶かし、肉体から腐臭を放ちながら何かの目的を果たすために動き出す。
兵士に噛まれたメイド達も、次々にゾンビ化し、目的を達成するために数を増やしていた。
かつて魔法大国として世界にその名を轟かせたレグゼル王国は、城下町の神隠しに続き、ゴミの山によるゴーレム事件。
王女の失態続きにその名声は地に落ちていた。
しかしさらに追い討ちをかける様に王宮の臣下や兵士、メイド達までが中身を示す様に肉体までをも腐らせた。
かつてジャキンガルで栄えた帝国の神を復活させるために、レグゼル王宮の乗っ取り作戦を開始したのだ。
そして地下室へ逃げ込んだエミリー王女は、毒殺した自身の両親と再会した。
白骨死体でも関係なく感染し、生あるものにその牙を突き立てんと這いずり寄る。
もはや人だった時の動き方は忘れた様に無様に、しかし怖気を催すほどの邪悪さでエミリーを追い立てた。
「いやーーー!! 誰か! だれかたすけてよーー!! オスカー! オスカーはどこー!!」
もはや共犯者として数々の悪事を働いていたオスカーは、すでにエミリーを逃すために身体を張っていた。
しかしエミリーは記憶が混濁しており、ついさっきのことも覚えていなかった。
そしてエミリーが再びオスカーの姿を見た時、その姿は別の何かへと変貌していた。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
オスカーは無事(?)別世界の邪教徒と化し、ついにはエミリーにもその毒牙に晒された。
エミリーの内側に何者かの記憶が流れ込む。
「私は……そうだ、余は……こうしてはいられない」
動かぬ心臓、急速に体温が下がった肉体を鬱陶しく振りながら、エミリーはレグゼル王宮に置かれた水晶玉の元へ辿り着くと、それを新しいコアとして命を繋ぎ止める。
「おぉおお、力が漲るぞ! だがまだまだ本調子ではない。あの下等生物めが! 念入りに封印してくれおって……だがようやく一つ手に入れることができた。あとはゆっくり子孫を葬りながら考えれば良い。この魔王ジャキンガルが再び世界を支配してくれようぞ。クハハハハハ!」
ジャキンガルは知らない。
この世界が全く別の世界であることを。
そして過去に手を取り合って己を討ち取った部族が絶賛仲間割れ中である事実を。
更にはこの世界がエレメントツリーとは異なる形式のスキルによって支配されてることなど、復活したばかりのジャキンガルには知りようもなかった。