116. 『ましポん48』~オフパート 気づいてないフリ~
21時からの『ましポん48』の雑談が終わり、時間は22時40分。ちなみに23時からは彩芽ちゃんの初めての凸待ち、そのあとは0時から日咲さんの2度目の長時間耐久ゲーム配信となっている。
そして今、オレは明日の朝配信のサムネをノートパソコンで作り、日咲さんはパソコンの設定やらマイクの確認をしている。ちなみにオレはまたリビングで寝る予定だ。
「颯太」
「どうした日咲さん?」
「あのさ……ずっと気になってたんだけど、なんで颯太は彩芽ちゃんに裏でもましろん先輩って呼ばれてんの?」
「え?いや……理由は分からないけど……」
そう言われてみればそうかもしれない。別に気にしていなかったが、なんでなんだろうか?もしかしてオレの名前を知らない……わけないな。桃姉さんにも日咲さんにも呼ばれているわけだし。神崎さんと名字で呼ぶと桃姉さんと被るから呼ばないだけなのか?
「あたしがどうこう言う話じゃないんだけどさ、彩芽ちゃんって颯太のこと好きなんじゃない?」
「え?いやいや……彩芽ちゃんが好きなのは『姫宮ましろ』だから」
「……なんか……それを言い訳にしてない颯太?本当は彩芽ちゃんの気持ちにも、自分の気持ちにも気づいてないふりしてない?」
そう言われてドキッとした。確かにそうだ。最近になって気付いたが、オレはいつの間にか『双葉かのん』ではなく『彩芽ちゃん』として見ていたんだと思う。まぁ……それが恋愛感情かどうかなんてわからない。
「いやオレは……」
「まぁいいよ。それは自分で気付かないと意味がないと思うし、あたしが言っちゃダメな気がするから」
「……」
「彩芽ちゃんはガチで陰キャでコミュ障……でも颯太にはあんなに意思表示をしている。この『ましポん48』が終わったら、その『姫宮ましろ』だからって言うフィルターを外して、彩芽ちゃんのことを良く見てあげたら?きっと何かわかると思うよ?」
「……わかったよ」
「よし!じゃああたしは準備するから!ゆっくり休むんだよ?残り22時間あるんだから!」
「ああ」
そしてオレはそのままリビングに向かう。その途中の部屋。そこで今から彩芽ちゃんは『双葉かのん』として配信を始める。
彼女を意識し始めたのは、ましのん配信の時。リスナーからの『ガチ恋プリンセス』の文字を見た時から……。憧れの『姫宮ましろ』とユニットを組めるなんてまるでシンデレラのような、お姫様のような気分になったみたいだと彩芽ちゃんは言っていた。
『ガチ恋プリンセス』
もしかしたら……それはVtuber『姫宮ましろ』であるオレの方なのかもしれない……
オレは神崎颯太であり『姫宮ましろ』だから。
「……好きなのか?」
オレは自分の胸に手を当てながらそう呟く。今まで異性を好きになったことはあるが、こんなに胸が締め付けられるような感覚は初めてだった。