190. 後輩ちゃんは『許さない』ようです
オレは日咲さんと共にパスタ屋を出る。結局……解決方法は見つからなかったな……すると日咲さんが口を開く。
「颯太このあと暇?」
「え?まぁ……明日の配信準備は終わってるし、夜のすたライ収録の準備もできてるけど……」
「ならあたしに付き合ってよ」
オレは日咲さんに連れられ、しばらく歩いていくと駅前の大きなゲームセンターにたどり着く。中に入ると、沢山のゲームの音で溢れかえり、とても賑わっていた。オレはあまりこういった場所には来ないので少し躊躇していると、日咲さんが手を振り誰かを見つける。
「お。いたいた。」
「え?」
「あ。七海さんと……神崎マネージャー?」
「あれ?2人は知り合いなんですか?」
そこには衣音ちゃんと愛梨ちゃん。もちろん彩芽ちゃんもいる。オレが日咲さんのほうを見ると、微笑んでいた。マジで何考えてんだよ……こんな時に……
「颯太とは昔から知り合いなんだよね。さっき一緒に夕飯食べてたから、せっかくだから連れて来ちゃった。いいよね?それじゃクレーンゲームやろう!ほら衣音、愛梨。デッカイのとるぞ!」
衣音ちゃんと愛梨ちゃんは日咲さんに連れられて行ってしまう。そしてオレは彩芽ちゃんと取り残される。
「あの……七海さんと夕飯……食べてたんですか?」
「うっうん」
「……私……聞いてないですけど……」
ヤバい。彩芽ちゃんの表情がどんどん曇っていく。そうだよな……きちんと連絡するべきだったよな。日咲さんが言っていた言葉の意味が今分かった。もう立場も変わったし、もっと彩芽ちゃんと話し合わないとダメだって。
「ごめん。オレさ……彩芽ちゃんと付き合ってからデートに行けてないことに焦ってさ。最近話すのも仕事の内容ばかりだし……それで情けないけど日咲さんに相談にのってもらってたんだ」
「私の……ために……」
「それでさ。日咲さんに言われたよ。彩芽ちゃんの何を知ってるんだって。オレさ……本当に彩芽ちゃんの事を全然知らないし、何も分かってなかったよ」
オレがそういうと、彩芽ちゃんは俯きながら小さな声で話し出す。
「颯太さん……私……今は一緒にいるだけで幸せですから……仕事の話でも颯太さんと話すのが嬉しいです……あと……あまり……話せなくて……ごめんなさい」
「いや、彩芽ちゃんは悪くないよ悪いのはオレのほうで……」
「だから……もうすれ違うのは今日で……おしまいです」
彩芽ちゃんはそう言うと顔を上げる。その目は真っすぐオレの目を見つめていた。
「うん。そうしよう。」
「はい」
そう言ってお互い笑い合う。そうだ、ゆっくり進んでいこう。もっともっと彩芽ちゃんの事を知りたいし、オレのことを知ってほしい。そんなことを思いながら日咲さんたちを探そうとすると、突然背中をポカポカと彩芽ちゃんに殴られる。
オレが驚いて振り向くと、今まで見たことのない膨れた表情を見せる彩芽ちゃん。それがまた可愛らしかった。
「今日のは……浮気です。次は連絡してください……」
「うん。ごめん」
「次やったら……許さないですから」
「あはは。気を付けるよ。さて、日咲さんたちを探そうか」
そして奥のクレーンゲームで騒いでる日咲さんたちを見つけて合流する。
「あともう少しなんだけど……愛梨両替えしてこい!」
「分かりました!」
「いや……もうやめたほうが良くないですか?結構使ってますけど?」
「ここまで来てやめられないでしょ!愛梨の元に届けてやるんだからこのネコ!」
どうやら大型のネコのぬいぐるみを取ろうとしているらしい。今の会話から愛梨ちゃんのために取ってあげているらしいな。日咲さんは本当に後輩想いだな。
そのあと何回挑戦しただろうか、日咲さんが挑戦して愛梨ちゃんが両替えをするという流れを繰り返し、なんとかそのネコのぬいぐるみをゲットできた。日咲さんはその大きなネコのぬいぐるみを抱きかかえる。
「おぉーやっと取れた!愛梨、ほらこれ」
「ありがとうございます!七海さん!」
「いいっていいって。あ。彩芽ちゃんは欲しいのないの?颯太が取ってくれるよ?」
「え?……じゃあ……あのクマのぬいぐるみが……いいです」
彩芽ちゃんが指さしたのは、かなり大きめのクマのぬいぐるみ。それをオレは見つめる。いや……取れるかな……?
「頑張ってください……マネージャーさん……」
そう言った彩芽ちゃんの顔はとても嬉しそうな表情をしていた。もう意地でも取ろう。オレが挑戦していると日咲さんが『良かったじゃん。あまり外でてぇてぇしないようにね?あとでもう一回夕飯奢りね?今度は彩芽ちゃんに連絡してから』と言ってきた。本当にちゃっかりしてるよな。
ちなみに何十回かの挑戦で、オレは何とかクマのぬいぐるみを取ることができた。そして彩芽ちゃんに渡すと、すごく喜んでくれたのだった。