240. 後輩ちゃんは『一途』のようです
そして翌日。今日は事務所での双葉かのんの仕事を終えて、帰り道にあるカフェに彩芽ちゃんと立ち寄り、カフェデートを楽しんでいる最中だ。
彩芽ちゃんはいつものようにベンティサイズのアイスカフェオレを飲んでいる。お腹タポタポにならないのかな……本当に彩芽ちゃんは可愛いよな。
「あっあの……恥ずかしいです……」
「ごめんつい……可愛すぎる彩芽ちゃんがいけないんだよ」
彩芽ちゃんは頬を赤く染めながら、照れ隠しをするようにストローをくわえる。そしてそのままアイスカフェオレを飲む。
……いかんいかん。本題を話さなくては。オレが『姫宮ましろ』と明かさなくてはいけないので、他の1期生や玲奈ちゃんには、事務所のマネージャーを通して伝えてもらうことになっている。彩芽ちゃん『双葉かのん』のマネージャーはオレだから直接伝える。
「あのさ、彩芽ちゃん。実はオレ『ソプラノ』との案件を受けることになったんだ」
「製菓メーカーの……ですか?私も……お菓子好きです。そんな大手との案件なんて……すごいですね。頑張ってください」
「うん。それでね……この案件なんだけど……内容が決まっててスタジオ収録なんだ。そしてメンバーも決まってて、『海の迷宮』でやるんだ。だから衣音ちゃんと一ノ瀬さんにはオレの正体を明かすことになる」
「そう……ですか。わかりました」
そう言ってそのままカフェオレを飲む彩芽ちゃん。あれ?反応が薄くない?もう少し驚いてくれても……
「だからもし2人が……」
「颯太さん。衣音ちゃんも凛花さんも……きっと認めてくれます。だから……心配しないで大丈夫です。Fmすたーらいぶのライバーさんは……みんな優しいですから……それに……何かあっても私は颯太さんの味方ですから」
「彩芽ちゃん……うん。ありがとう。さすがは親衛隊隊長だな?」
「はい」
彩芽ちゃんのその微笑みにオレは救われる。正直毎回誰かに打ち明けるのは本当に怖い。オレが正体を明かすことで、どんな反応をされるのか……それが怖い。でもそんなオレの不安を吹き飛ばすように、彩芽ちゃんが側にいてくれる。それが幸せだ。
そのあとは、たわいない話をしながら彩芽ちゃんと楽しい時間を過ごす。そして帰り道を一緒に手を繋いで歩いていると彩芽ちゃんが話し始める。
「あの……颯太さん。聞きたいこと……あるんですけど……」
「聞きたいこと?」
「……配信で、その……あるてぃめいとのくだりが……あるじゃないですか?あれって……どういう……」
「どういうって?オレが本当にあるてぃめいとになりたいかどうかってこと?」
オレがそう言うと、首を大きく何度も縦に振る彩芽ちゃん。その表情は真剣そのものだ。
……そう言えば彩芽ちゃんには話していなかったな。すれ違いが起きないように色々話すべきだとこの前学んだし、別に隠す必要もないか。
「いや本当にあるてぃめいとになりたいと思ってるよ」
「なんで!?あっ……」
「あはは、彩芽ちゃん驚きすぎだよ」
オレはそんな彩芽ちゃんのリアクションに笑って答える。すると彩芽ちゃんは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、オレの服の裾をちょこんとつまむ。それも少し申し訳なさそうに……。
「実はさ。オレ、あるとちゃんのゲーム配信好きなんだよ。ほらこの前ゲーム配信したけど、今までゲームとかやったことなかったからさ?日咲さんの配信は同期だから恥ずかしくて観れないし、あるとちゃんの配信を観たら感動してさ?やっぱりゲーム上手いし面白いし。メン限でもゲームやってるらしいから観てみたいんだよね」
「え?あるとちゃんの配信観てるんですか?」
「たまにね?それに青い髪ツインテール可愛いから好きなんだよ。あ。別に中の人の衣音ちゃんが好きとか嫌いとかじゃなくて、アバターの話ね?Fmすたーらいぶのライバーのアバターの中では1位かもしれないな」
「……ロリ好きなんですね……?」
「語弊があるよそれ。別にロリが好きなわけじゃないから。美人なお姉さんより可愛いアバターのほうが好みなんだよ。彩芽ちゃんだって好きなアバターいるでしょ?『双葉かのん』以外にも。それと同じだよ」
「私はましろん先輩だけです」
「え?それはズルくない?」
「ズルくないです。私は一途です。颯太さんのは浮気です」
そう膨れながらも、しっかりと自分の意見を言う彩芽ちゃん。可愛いけどちょっと怖い……でも良く3期生の配信で『自分の意見』を持ってるって言われているけど、確かにそうかもしれない。将来、彩芽ちゃんに尻に敷かれるのかな……とか思いながら家に帰るのだった。