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283. 姫は『有名』になったらしいです

283. 姫は『有名』になったらしいです




 天気は春の陽気に包まれ、ぽかぽかとしてとても気持ちがいい。そんな中、オレと彩芽ちゃんは電車に揺られて目的の温泉地がある場所にまで向かっている。


 そう。オレと彩芽ちゃんは温泉旅行に来ているのだ。しかも今回は配信もしない、完全なオフで2人きりである。


 彩芽ちゃんは淡い色のワンピースに帽子を被り、パステルカラーのバッグも持っている。凄く……可愛いです。


 しかも彩芽ちゃんから漂うのはシャンプーの香りだろうか?何ていうかすごくいい匂いが漂ってくる。


 ちなみにオレも普段はしないようなカジュアルな格好をしてみたのだが、正直似合っているか分からない。


 何せ付き合ってから2人で出掛けるのはほとんど初めてで、さらに今回は温泉旅行である。しかも泊まりだ。こんなんで緊張しないわけが無いのである。


 それに……オレだって男な訳で、彩芽ちゃんと……


「あの颯太さん?」


「え?あ。なに彩芽ちゃん?お腹すいた?」


「いえ……なんかぼーっとしてたので……」


 あぁ。そんな心配そうな顔で見ないでくれ。可愛いから。もしここでオレの心の声を口に出していたとしたら、きっと彩芽ちゃんは顔を真っ赤にして可愛い反応をしてくれるだろう。でもそんなことを言ってしまうと、オレは今よりもっと緊張してまともに話せなくなる気がしたので止めておこうと思う。


 今日はせっかくの温泉旅行だ。最後まで楽しむためにも無粋なことは言わないようにしよう。


「いや大丈夫だよ。今日の温泉旅行が楽しみで昨日寝れなかっただけ」


「大丈夫ですか?なんか……颯太さん子供みたいですね?」


 ふふっと笑う彩芽ちゃん。もう天使かな?可愛すぎる!あぁ……やっぱり旅行に来てよかった。彩芽ちゃんの笑顔に癒されながら電車に揺られること20分。ようやく目的地の温泉地に到着した。


 とりあえず旅館に向かう前に昼食をとることにして、近場の蕎麦屋さんでオレはきつねうどんを注文する。彩芽ちゃんは大きな海老天が乗っている天ぷらそばだ。


 ……もちろん彩芽ちゃんは大盛だけど。あと唐揚げも注文していた。やはり彩芽ちゃんはよく食べる子だ。まぁ……とても幸せそうな顔で食べてるからいいんだけど。


 そんな彩芽ちゃんを見ながらきつねうどんを食べているとオレの視線に気づいたのか、彩芽ちゃんが恥ずかしそうにして慌てて食べる速度を速めた。


「そんな急がなくても唐揚げは逃げないよ?」


「その……私……食べ過ぎてて……嫌いになりますか?」


「いやそんなことないよ。彩芽ちゃんが食べるところ可愛いし」


「はっ……恥ずかしい……」


 顔を赤くしながら大きな海老天にかぶりつく彩芽ちゃん。うん可愛い。そんな会話をしていると彩芽ちゃんが隣の席を見て、声は小さいが少し驚いたような声を出した。


「あ。」


「ん?どうかした?」


「あの……隣の席の女の子のバックに……キーホルダーが……あれ……ましろん先輩とあるとちゃんです。その奥の女の子は……あれは違う箱の……ですね」


「本当だ……もしかしたら隣の女の子はFmすたーらいぶのリスナーさんで『あるましろ』推しなのかもな?」


「……私は認めてませんから」


「いや……今は配信してないよ?」


「いつでも認めてません」


 膨れる姿がまた可愛い。それにしても、こうやって身近でリスナーさんに会うなんてFmすたーらいぶ……いやVtuberが認知されてきたのかもな。オレも彩芽ちゃんも、それだけ有名になってきたということだ。これからも彩芽ちゃんと共に頑張っていかないとな。

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