303. 姫は『配信者』らしいです
そして4月6日。今日から2日連続で『Fmすたーらいぶ春の陣!』がおこなわれる。みんなゲームのほうに盛り上がりを見せているが、今日の俳句女王決定戦の配信も忘れてはいけない。
オレは午前中事務所で、双葉かのんの案件の打ち合わせや会議に参加をして今から家に帰ろうとしていると、タイミング良く玲奈ちゃんがやってくる。
「あっご機嫌よう颯太さん」
「え?あ。こんにちは玲奈ちゃん。早いね」
「今からひなた先輩とリハーサルがあるので少し早くきたんです」
「そっか。今日司会だもんな、頑張ってな」
「はい。ありがとうございます。あの良かったら、ひなた先輩が来るまで控え室でお話ししませんか?颯太さんとは久しぶりにお話もしたいですし……ダメですか?」
確かに玲奈ちゃんとはあのサムネの『ひなた組』のオフコラボ以来だもんな。この前ゲーム練習配信では一緒だったけど。
「うん。いいよ」
「はい!では行きましょう」
オレたちはそのまま控え室に入る。すると玲奈ちゃんは飲み物を用意してくれ席に座る。高校生なのにしっかりしてるなぁ。
「どうぞ颯太さん」
「ありがとう。そう言えば玲奈ちゃんは今春休みだっけ?」
「はい。だから今は時間が出来たので配信頑張れるんです!すごく充実してます。こうやって長い休みに入ると、こう……解放されたような清々しい気分になりますよね!」
「あはは。楽しそうだね」
「まぁ……月曜日から新学期なんですけどね。でもあと1年の辛抱ですから我慢します!」
そうか玲奈ちゃんも高校3年生なのか。ということはオレももう25……早いもんだな。
「あの颯太さん。実は……お願いがあるんですけど?」
「え?お願い?」
玲奈ちゃんはそう言って、いつものように上目遣いでオレにお願いをしてくる。この子高校生だよね?将来が怖いな。
「実は3期生でお泊まり旅行配信をしたいねって話がデビューしたときからあるんですけど。私のことを考えて実現できてなくて。でも最近は両親もやっと少しずつ認めてくれて」
「そうなんだ良かったね」
「でも……やっぱり遠出で女性だけだと許可が出ないんです。だから、かのんちゃんのマネージャーとして一緒に旅行についてきて貰えませんか?颯太さんは『姫宮ましろ』でもありますし、配信で何かトラブルがあっても対処出来そうですし!」
……いやいや。いきなり5人の女の子と旅行とかハーレムすぎてオレにとっては地獄なんだが。まぁ一応みんな知ってはいるが、キサラさんとは1回しか話したことないし……ただ今回は双葉かのんのマネージャーとして参加するのなら姫宮ましろだとバラす必要もないけど。
「ダメ……ですか?」
「いや……うん。いいよ」
「本当ですか?ありがとうございます颯太さん!早速両親に話して、3期生のみんなにも話して……5月のGWあたりに計画して……」
オレの目の前ではしゃいでいる姿を見ると、やっぱり年相応で可愛らしいなぁと思う。やっぱりまだ高校生なんだよな。まぁ……これも後輩の為だし、配信なら仕事だ。それに普段絡みがない彩芽ちゃんの為でもあるし。さすがに同期となら大丈夫だと思うけど。
それにしても旅行配信か……本当に3期生は仲が良いんだな。そう言えば日咲さんも1期生でやりたいようなこと言ってたな。
そのあとは雑談をし、月城さんが来たので玲奈ちゃんはそのままリハーサルにいき、オレは家に戻り配信の準備をすることにする。
今回の『Fmすたーらいぶ春の陣!俳句女王決定選!』は全員参加で順番は決まってないらしく、ランダムで配信に呼ばれるらしい。そんなことを考えていると彩芽ちゃんが部屋にやってくる。
「颯太さん。あの……一緒に配信観ませんか?呼ばれたら……自分の部屋に戻りますので……」
「うん。いいよ。あっ帰りにたい焼き買って来たんだけど食べる?」
「食べます……」
彩芽ちゃんはそう言いながらオレの隣にちょこんと座り、たい焼きを美味しそうに食べている。本当に良く食べる子だ。そんな様子を見て、あることを思いつく。ダメだ……これが配信者の脳なのか……
「あ。そうだ。彩芽ちゃん一緒に配信出ちゃわないか?いちいち部屋に戻るの面倒でしょ?」
「え?でも……いいんですか?その……」
「大丈夫。『ましのん』の打ち合わせってことにしておけば問題ないよ。彩芽ちゃんと一緒にいることをチャットしておくよ」
「はい……嬉しい……配信楽しみです……」
オレがそう言うと彩芽ちゃんはすごく嬉しそうにして、すでに2個目のたい焼きを幸せそうに頬張っている。
……ごめんな彩芽ちゃん。今日の配信は一緒にいたほうが面白くなるからなんだ。もちろん彩芽ちゃんには言えないけど。これもVtuberのお仕事だから許してな。