332. 後輩ちゃんは『遊びたい』そうです
『Fmすたーらいぶ春の陣!』が終わり数日。オレは彩芽ちゃんと共にリビングでスケジュールの打ち合わせをしていた。
最近の『双葉かのん』は配信でもお説教妖精と化しており、リスナーからも好評らしい。まぁ……その原因はオレなんだけどな。今まで『姫宮ましろ』に何かを言うなんてライバーはいなかったし、『姫宮ましろ』としても、初期の清楚キャラは大分崩れているのも事実だけど。
そして初の春の大型企画だったが、かなりの反響をもらっており、リスナーからは『秋もやるのかな?』と言う噂がでているくらいだ。まぁどうせやるような気はしている。
「すいません颯太さん」
「ん?どうしたの?」
「えっと……金曜日と土曜日は……休みじゃダメですか?その……無理なら……せめて金曜日だけでも……」
彩芽ちゃんは申し訳なさそうに聞いてくる。……彩芽ちゃんが休みの希望を出してくるなんて珍しいな?正月の時ですら、オレや桃姉さんが言って長めに休みを取ったんだけど。
「いいよ。何か用事でもあるの?」
「えっと……その……」
……なんで言いづらそうなんだ?もしかしてオレ以外の男と?いやそんなわけない。彩芽ちゃんはそもそも家から出ないし、出会いなんかほぼない。でも最近は流行りのSNSとかでも……待て待てその前にオレがいるだろ!オレの彩芽ちゃんを取られてたまるか!オレが変な顔をしていると、彩芽ちゃんは意を決したように話しだした。
「遊び……たくて……あと……お泊まりとか……」
「遊ぶ!?お泊まり!?誰と!?」
「え。あ……紗希さんと……予定聞いたら……そこが空いてるって言われて……すいません……」
「へ?紗希さん……朝比奈さん?クララちゃん?」
オレがそう言うと彩芽ちゃんは首を縦に振る。しかも予定聞いたらって……彩芽ちゃんから誘おうとしてるのか?こんな日がくるとは……今までは断ってばかりだったけど、今は自分の意思で人と関わろうとしているんだな。……相手が朝比奈さんなのが本当に意外なんだけど、でも確かに彩芽ちゃんは自分の配信でも仲良くなりたいって言ってたな……
「そっか。楽しんできて」
「はい。あともし……オフコラボとかになっても……大丈夫ですか?」
「うん。一応事前に連絡ちょうだい。2期生と3期生の枠の関係もあるから」
そんなこんなでスケジュールを決め、オレはそれを桃姉さんに送り、今度は自分のスケジュールを決める。と言ってもオレは朝配信か打ち合わせか会議しかないけどな。
そして木曜日。今日は彩芽ちゃんは休みで、無事にあのあとやり取りをして朝比奈さんとお出掛けをしている。映画を観に行くらしい、そしてオフコラボも予定されている。ということで『双葉かのん』としてのマネージャーの仕事も休みだ。
とは言っても『姫宮ましろ』としての仕事は沢山あるけど。パソコンを使いながら色々雑務をこなし、明日の朝配信のサムネを作ろうとしていると突然パソコンが重くなる。
「ん?あれ?……なんか挙動が……もしかして壊れそうなのか?」
デビューしてから配信パソコンはずっと同じ機種を使っている。もう4年くらいになるからな……オレはとりあえず事務所に連絡をすると、対応できるのが明後日以降になってしまうらしい。
「参ったな……まずデータを何とかするべきだよな……あと何をすればいいんだろうか……あっそうだ!」
オレはそのままスマホである人物にメッセージを送る。そして、その人からすぐに連絡がきた。
《もしもし?神崎マネージャーどうかしました?》
「あ。ごめんね。スケジュール見たら今日配信入ってなかったからさ、今大丈夫かな衣音ちゃん?」
《はい。大丈夫ですよ。今日はオフで家にいますから》
そう。オレが連絡したのは衣音ちゃん。彼女はパソコン関係には詳しいからな。良かったスマホでも連絡先を交換しておいて。とりあえず今のパソコンの状態を伝え、衣音ちゃんの指示のもと色々操作をしてみたが改善する様子は見られなかった。
「改善しないな……」
《う~ん……動かなくなる前に買い替えした方が良さそうですね。もし良かったら、これから買いにいきますか?今日なら私空いてますし、アドバイスできますけど……?》
「いいの?」
《はい。私も新しいメモリとか機材を見たかったので》
「ありがとう。ならお願いしようかな?せっかくだから夕飯おごるよ」
《わかりました。では、前に凛花さんの配信機材を揃えたお店覚えてますか?あそこに集合しましょう》
「了解」
そして通話を終え、支度をしながらとんでもないことに気がつく。彩芽ちゃんに伝えたほうがいいのだろうか……良く考えたら衣音ちゃんと2人きりだし、デートみたいになってしまったもんな……うん。LINEしておこう。別にやましい気持ちはないから。偶然にも『あるましろ』になってしまったけどさ……