355. 姫は『親友』ができたそうです
そして配信30分前、色々調整も終え配信が始まるのを待つだけとなる。オレはふと配信パソコンの近くにある日咲さんのスケジュールに目がいく。
「日咲さん。今週休まないのか?」
「え?あー……ゴールデンウィークだしね。新作RPGの流れ配信も入れてるし、やっぱり配信者として手は抜けないよ!」
「そうだけど、休みは取らないとダメだぞ?体調崩したら元も子もないんだし」
「うん……少し頑張りたいだけだから」
日咲さんは少し言いづらそうにそう言う。頑張りたい?日咲さんは十分頑張っていると思うが……ここは同期として仲間として話をするべきなんだろう。今まではあまり踏み込んだりしたことないし。日咲さんの性格でわざわざオレには言わないだろうから。そう思うとオレは自然と言葉が出てくる。
「頑張りたいって?」
「……最近は紫織さんも陽菜ちゃんも配信外で色々な仕事が増えてきてるでしょ?あたし切り抜き良く観るんだけど、やっぱり1期生の切り抜きが年々少なくなって来てるんだよね」
「最近は会社も大きくなって忙しくなってきたからな」
「もちろん会社として配信以外の仕事だって重要なのは分かる……でも……少し寂しいんだあたし。やっぱりVtuberの配信好きだし。だからリスナーさんも同じ気持ちにならないように、1期生として頑張りたいだけ。特にこういう世間が休みの時はね?ただのあたしのワガママだから」
そう言って微笑む日咲さん。確かに、立花さんと月城さんの配信頻度は少なくなっているのかもしれない。日咲さんなりに『1期生の露出』について色々考えているんだろう。
「じゃあ……そのワガママに付き合ってやるか」
「え?」
「今回は無理だけど、次の機会が来たらオレも付き合うよ。日咲さんの面倒をみるように立花さんと月城さんに言われてるからさ?」
「なにそれ?あたし子どもじゃないけど」
「1期生の『お子ちゃま組』だろ?オレたち」
「あはは。確かにそうか」
そう言って笑う日咲さん。やっぱりVtuberの仕事に誇りを持っているんだな……こういうところ本当に尊敬する。
「……ありがと。話を聞いてくれて。少しは女の子のこと分かるようになったじゃん?」
「先生が優秀だからかもな?」
「褒めてもカレーくらいしか出ないよ?」
「じゃあオレが食べたい時にカレー作ってもらう権利ってことでいい?」
「言うようになったね颯太?」
「こう見えてもFmすたーらいぶのエースだからな」
なんか初めての感覚だ。日咲さんと一緒にいると自然体でいられる。そう……配信の『姫宮ましろ』の時と同じように。日咲さんが配信も裏も変わらないからかもしれないけど。もしかしたら親友ってこういうものなのか、今まで親友と呼べるやつがいなかったから分からないけど。
オレが勝手に日咲さんを親友認定していると日咲さんがある提案をしてくる。
「あっそうだ!ねぇ颯太。配信終わったら暇でしょ?」
「え?暇って……まぁ予定はないけど。そもそも配信終わるの22時だぞ?」
「せっかくだから鍋パーティーしよ!彩芽ちゃんも呼んでいい?彼氏が遅くなると心配だもんね。あとは適当に呼んじゃお!」
「いや。やるって言ってないけど……」
「いいじゃん。颯太もたまには他のライバーと交流を持ったほうがいいって。『公式企画配信後22時30分から鍋パーティーしますので参加したまえ!買って来てほしい鍋の材料とポアロの家の住所は個別にLINEします。よろしく!』と」
誰を呼ぶのか知らないけど、なんか強制されてるし……まぁ別にいいか。確かに日咲さんの言う通りではあるもんな。もちろん『姫宮ましろ』としては参加できないけど、ライバーと交流するのは必要なことだし、今までやって来なかったから。せっかくの機会だし、彩芽ちゃんもいるなら問題ないしな。
「おおリアクションが早いね。みんな来てくれるってさ。楽しみだね!」
「それより先に配信だよ。5分前だけど大丈夫?」
「もちろん!」
「じゃあよろしく」
そして19時。謎の鍋パーティーはとりあえず置いておくことにして、公式企画配信が始まるのだった。