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第12話 その頃

 その頃。

 ラヴェンデル・メテオーア社内では、緊急会議が行われていた。

 議題は、アハト=ディソナンツ・キーラについてだ。

 並ぶ黒服達は、全員顔を白いヴェールで隠している。そんな彼らの前に立つ男性だけが、ラフな服装で顔を隠す事なくいる。

 黒い半そでシャツにジーンズ姿の、金髪をオールバックにした男性。

 エーリク・フォン・アルノルト――ラヴェンデル・メテオーア社のトップだ。

 彼は、微笑みを浮かべながら黒服達に告げる。


「よく集まってくれた、諸君! さて、議題であるアハト=ディソナンツ・キーラの事だが! 全く気にしなくて良い! 他の人造吸血鬼達に追わせている! その内処分できる! 君達の未来は、安寧だ!」


 黒服達から拍手が起こる。

 それに満面の笑みを浮かべると、エーリクは会議を解散させた。

 会議室から退出して行く黒服達を見つめながら、エーリクは傍らにいる女性に声をかけた。


「アマンダ」


「はい、エーリク様」


 名を呼ばれた金髪翠眼の女性、アマンダがエーリクの言葉を待つ。


「処分を急げ」


「承知しております」


 笑みを消したエーリクから感じられるのは……明確な不快感。貧困層から選び、改造を施した人造吸血鬼の反抗に対する侮蔑の表情に、アマンダは微笑む。

 彼らにとって、人造吸血鬼は使い捨ての駒だ。

 それが好き勝手にしている事実が、赦せない。


「早く処分を。大した脅威ではないが、下民から出た駒如きに時間を割くなど、不愉快極まりない」


「えぇ、私もそう思います。即刻処分するよう、より一層専念させます」


 どこまでも、自分達が優れていると自惚れている彼らが、地獄を見るまで後――


 ****


 その頃。

 件の彼女、アハト=ディソナンツ・キーラは……とある場所にいた。

 旧時代に使用されていた、屋上兼ヘリコプター乗り場だ。

 何故彼女がここに来たのか……答えは一つ。


(うん、思った通り。使えそうなヘリコプターが残っているわね。これで、向かうわよ)


 最初は、地上から向かうつもりだった。

 だが、それでは時間がかかるし、何より効率が悪い。

 そう判断した彼女が思いついたのが、ヘリコプターによる空中移動だ。

 この知識も、藍き血者アオキチシャと戦う中、建物跡地等で見つけた書物や記録媒体から得たものだ。


「操縦、出来るかしら? いえ、弱気はダメね。操縦するのよ」


 全ては、家族の仇を討つために。

 ――断罪、するために。


 そのためなら……。

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