その頃。
ラヴェンデル・メテオーア社内では、緊急会議が行われていた。
議題は、アハト=ディソナンツ・キーラについてだ。
並ぶ黒服達は、全員顔を白いヴェールで隠している。そんな彼らの前に立つ男性だけが、ラフな服装で顔を隠す事なくいる。
黒い半そでシャツにジーンズ姿の、金髪をオールバックにした男性。
エーリク・フォン・アルノルト――ラヴェンデル・メテオーア社のトップだ。
彼は、微笑みを浮かべながら黒服達に告げる。
「よく集まってくれた、諸君! さて、議題であるアハト=ディソナンツ・キーラの事だが! 全く気にしなくて良い! 他の人造吸血鬼達に追わせている! その内処分できる! 君達の未来は、安寧だ!」
黒服達から拍手が起こる。
それに満面の笑みを浮かべると、エーリクは会議を解散させた。
会議室から退出して行く黒服達を見つめながら、エーリクは傍らにいる女性に声をかけた。
「アマンダ」
「はい、エーリク様」
名を呼ばれた金髪翠眼の女性、アマンダがエーリクの言葉を待つ。
「処分を急げ」
「承知しております」
笑みを消したエーリクから感じられるのは……明確な不快感。貧困層から選び、改造を施した人造吸血鬼の反抗に対する侮蔑の表情に、アマンダは微笑む。
彼らにとって、人造吸血鬼は使い捨ての駒だ。
それが好き勝手にしている事実が、赦せない。
「早く処分を。大した脅威ではないが、下民から出た駒如きに時間を割くなど、不愉快極まりない」
「えぇ、私もそう思います。即刻処分するよう、より一層専念させます」
どこまでも、自分達が優れていると自惚れている彼らが、地獄を見るまで後――
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その頃。
件の彼女、アハト=ディソナンツ・キーラは……とある場所にいた。
旧時代に使用されていた、屋上兼ヘリコプター乗り場だ。
何故彼女がここに来たのか……答えは一つ。
(うん、思った通り。使えそうなヘリコプターが残っているわね。これで、向かうわよ)
最初は、地上から向かうつもりだった。
だが、それでは時間がかかるし、何より効率が悪い。
そう判断した彼女が思いついたのが、ヘリコプターによる空中移動だ。
この知識も、
「操縦、出来るかしら? いえ、弱気はダメね。操縦するのよ」
全ては、家族の仇を討つために。
――断罪、するために。
そのためなら……。