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第13話 終焉の始まり

(そろそろ……ね)


 ヘリコプターを操縦しながら、彼女……アハト=ディソナンツ・キーラは静かにその時を、迎えようとしていた。

 断罪の時間を――


「見えて来たわね……憎き仇の根城が」


 目前に、ラヴェンデル・メテオーア社が見える。

 彼女は、静かに息を吐き、そのまま……ビル最上階の層へ、ヘリコプターごと突撃した。

 轟音と共に、オフィスへ直撃され、中にいた者達は騒然とし、一気にパニックへと陥った。

 悲鳴の中で、ヘリコプターから降りたアハト=ディソナンツ・キーラは静かに……虐殺を開始した。

 逃げ惑う社員達に向けて、腰から下げた鞘からナイフを抜く。

 そして、一人の男性社員に向かって飛び掛かると、見せつけるように髪を引っ張り、その首に刃を当て、引いた。

 飛び散る赤い血を新鮮に感じながら、彼女は次々とを襲っていく。

 初めて、ちゃんとした人間を殺したが、その感覚は藍き血者アオキチシャとなった悲しき人々と大差なく――


「こんなものなのね。人間を殺すって……」


 大層つまらなそうに呟くと、血の海と化した最上階を探索し始めた。

 狙うは、この社の代表……エーリクの命だ。


 ****


 同時刻。

 報せを聞いたエーリクは、不快感に顔を歪ませた。


「早く! 早く奴の始末を! を! 早くしろ!!」


 まさか、アハト=ディソナンツ・キーラがヘリコプターで突撃して来るとは、全くの予想外であり、それがより、エーリクを焦らせる。

 それは秘書であるアマンダも同じであり、急いで警備兵達を呼び出す。

 そして、急いでエーリクとの安全を確保すべく、シェルターへと急ぐ。


「エーリク様、こちらへ!」


「あぁ! ジュウゾウにも連絡を! 奴が一番、人造吸血鬼を理解している! 対応策もすぐ出せるはずだ!!」


「承知しております! ジュウゾウ博士にも一報は入れました!」


 二人が口に出したジュウゾウ……ジュウゾウ・イズチ。

 人造吸血鬼の研究者にして、第一権威の彼ならば……そう考えているのだ。

 この二人は、要するに丸投げしたのである。

 アハト=ディソナンツ・キーラの始末を――


 ****


「全く、愚かなのはどちらであったのやら……」


 アマンダから一報を聞いたジュウゾウは、静かに呟いた。

 彼は、エーリクと利害の一致により人造吸血鬼の研究に着手し、実行して来た。

 だが、道徳という側面と研究という側面……その呵責に苛まれていた彼は、チャンスだと感じていた。

 ――この苦しみから解放される……実に自分都合の理由をつけてジュウゾウは待つ事にした。

 この国を終焉に導くであろう、アハト=ディソナンツ・キーラを……。

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