都内某所。
いつものジャンなカラオケ店で盛り上がり姦しく騒ぐ一室が一つ。
「愛し合う~ふーたーりー♪ しーあわせのー♪」
少し前の世代の歌を気持ちよく歌うギャル。
「なにこれ加工しすぎだって! っぷぷ!」
「ギャハハハ!!」
インスタにアップした行き過ぎた加工塗れの画像で盛り上がる。
「パクパクパクパクパクパク――」
「ちょっと瀬那……食べ過ぎだって」
「だって冷めちゃうじゃん! パクパクパク」
「……太るよ?」
「ギクッ」
歌や盛り上がる話題で、ほとんど手が付けられていないポテトやオニオンリングを
カービィの如く平らげる瀬那。ポテトを食べる事は別に誰も咎めないが、ツヤコがぼそり、と言った言葉が瀬那に刺さる。
「ぅう、確かに最近また体重が……」
食べる手を止めジュースが入っているストローを吸う瀬那。自分の腹部に触れようとするが、太ったと言う手で感じてしまいそうな現実が怖いのか、手がこわばっている。
「え、太ったの? 全然わからん」
「いつもの瀬那じゃん」
盛りすぎて爆笑していたギャルたちも参戦。わからない、いつもの、と言われた瀬那は口元を緩ませる隠し切れない喜びを感じた。
「違う! 太ってない!」
「!?」
「うるせぇ!」
マイクを通して叫ぶギャル。
「わかる! 私には! 無いものとして分るのよ!」
ババンと指さす。
「摂取したエネルギーはすべて! そのおっぱいに詰まっているのだ!!」
「「な、なんだってー!!」」
驚く瀬那。
ぶるんと揺れる。
三つの手が合掌。
「乳神さまー私にもお恵みをーー」
「お恵みをぉぉぉぉぉ」
「南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏」
瀬那に向けて、否。おっぱいに向けて拝むギャルズ。
「シシ神みたいに言うなあああ! あと拝むなあああ!!」
自分の胸を抱いてツッコむ瀬那に、ははー! とボケを続けるギャルたち。その光景はいつもの事だと言わんばかりに、ツヤコはポテトにケッチャプを付けて頬張った。
「この果実! 揉まずにはいられない!!」
「やわらけー」
「重量感あるよね」
「にゃあああああああああ!!!」
少し広い部屋ともあって、ソファに座る瀬那を後ろから前からもみくちゃにしている。
「はむ……うま」
半目でジトーと事の経緯を見ているツヤコ。楽しそうな友達を見ていて嬉しいのか、それとも気持ちよさそうに揉みしだく様とパワ○ロくんみたいな手足で暴れる瀬那を見て
「で? みんなは大丈夫なの?」
唐突に投げた質問。
じゃれつく友達が静止する。
"大丈夫"と曖昧な質問だが、特に"何が?"と質問を返されることは無かった。それは周知の事実の様に一つしかないからだ。
「大丈夫じゃなかったらカラオケ来てないし」
「むしろ貴重な体験したって感じ?」
「行政が設置してる"被害によるカウンセリング"だっけ? あんなの性格のひん曲がったジジババの受け皿じゃん」
席に戻りながら各々が持っている思いを言った。
「グループチャットで聞いた事また言ってるー」
「いや一応……」
「そういうところ好きー」
頬ずりされながら言う。
鬱陶しいと思い、ツヤコはケッチャプのついたポテトで釣り引き剥がす様誘導した。
パクリと食べられる。
「みんな金色の光に包まれてビルの屋上にいたじゃん」
「そだね」
「溺れるところだった……!」
「まぁ私だけ別のビルに転移? されたじゃん」
「うん」
「グループチャットでは言ってなかったけど、そこに居たんだよね――」
――金色ルーラー。
静まり返る。隣から聞こえる歌っているくぐもった声。この話題の始めから俯いていた瀬那が、より表情を暗くする。
しかし、打って変わって。
「「「マジでええええええ!!!」」」
驚きと羨望が混じる黄色い悲鳴。姦しく叫ぶギャルズ。
「スッゲぇレアじゃんか!」
「撮った? 撮った撮った!?」
「貴重すぎるその体験! うらやまああああ!!」
キャー! とテンションが高い。
それもそうだろう。世間では敵認定されているルーラーズ。マーメイドレイドでは実際に猛威を振るったルーラーだが、人を助けあまつさえ収束に導いたのもまたルーラーズたちだった。
瞬く間に拡散されるエルドラドの画像。映像。点が飛び回って見える幻霊君主であろう者の奮闘。さらに謎の武者姿のロボも確認され、明らかにルーラーズは一枚岩ではないと誰もが解いた。
そして巻き起こる質疑。組まれる特番。ネットでの止まらない情報。国連の疑惑。
それに伴い、エルドラドと幻霊を英雄視する声も広まる始末。
そのトレンドの渦中をまさに居たのかと、鼻息を荒くし興奮するのも分かるとツヤコは思った。
「ま、それは後で話すとして」
手を前に出して静止させ、
「どうしたの瀬那」
うつむく友達に声をかけた。
「あんたらしくないじゃん」
全員が瀬那を見た。ストローを吸ってはいるが、既に中身は何もなかった。
一間置いて、瀬那が吐露する。
「……勝てないよ、あんなの」
言葉を続けた。
「幻霊君主は怖かったケド、ルーラーズって大げさに言ってるだけで、みんなで協力すれば勝てると思ってた。……泡沫事件みたいに」
グラスの氷がカランと溶ける。
「でもアレなに……。津波って。ただの大災害じゃん! 自然の摂理みたいな事してくるんだよ……。攻略者だからって、それの卵だって! 勝てっこないじゃん!!」
震える声。吐き出した思い。
瀬那がなりふり構わず叫ぶ姿を始めて見た四人。
「少し強くなったからって調子に乗って……。結局何もできずに流されて。バカみたい……。わたし――」
――怖いよ。
眼に溜まった雫が、震える手に落ちた。
「「「瀬那ああああああ!!!」」」
一斉に駆け寄って抱擁するギャルたち。
よしよしと頭を撫で、体全体で震える体をくっつける。
私たちが居るよ。怖くない怖くない。かわいそうな瀬那ー。
各々が心配を口にして瀬那をもみくちゃにしていく。
しばらく瀬那を慰め、ツヤコが口を開いたのは。
「それさぁ、普通に大人に任せれば良くない?」
三人の手が胸を掴んだと同時だった。
「……え」
四人が一斉に見た。
「だいたい世間が女学生に期待してると思う? せいぜいパンチラや胸チラ、生足に援交だけじゃん」
「それは心理だわ」
「うんうん」
電車内で感じる舐めまわすようなオッサンの視線。露出の多い彼女らだからこそ、異性の視線に鋭く人一倍敏感。
「まぁ? 攻略者な瀬那には? ビシバシ活躍してもらってコスプレ衣装台無しにしたルーラーズたちに腹いせをぶつけて欲しいとは思ってるけども」
そう続けて。
「でもそれは今じゃ無いってのは私もみんなも分かってるし、世間だってわかってる。また少しずつ、自信つけていったら物事の見方も変わるって」
「……」
「怖いのは当然じゃん。だってうちらJKだし」
そう締めくくり、コーラをガブっと飲み込んだ。
「「「ツヤコおおおおおお!!!」」」
「あ゛あ゛あーもう!!」
今度はツヤコにJK突撃。鬱陶しいと額に青筋を立てている。
「お前らくっつくなああああ!!」
自分と同じ、それ以上のもみくちゃに、瀬那の表情は徐々に明るくなっていく。
そして。
「アッハハハ! みんなぐちゃぐちゃ! あははは!」
スカートが捲れパンツ丸出し、服もはだけブラも見えてしまっている。もはや大乱闘だ。
だが瀬那が笑った。
「あははは!」(今は大人に甘えていいのかも)
「ブラの中に手を入れるなああああ!!」
それが堪らなく嬉しくて弾んでしまうギャルズ。
(でも、絶対にみんなを守れるくらい強くなってやる!)
――励ましてくれてありがとう。みんな。
そう強く思う瀬那だった。