「私、強くなりたい!」
「またスか」
ウルアーラさんの葬儀の翌日。
リビングのテーブルを囲む俺と、我らがチームの紅一点。朝比奈 瀬那。通称お瀬那さんが朝っぱらから俺の家に突撃をかましてきた。
まぁ朝っぱらといっても、今は朝の八時だが。
デンデデン♪
『チュートリアル:友達を家に招こう』
『チュートリアルクリア』
『クリア報酬:速さ+』
いやそんなチュートリアルあったんかい。一覧に埋もれてたか。日課のトレーニングチュートリアルはクリアしてるから何事かと思った。
つか招いたと言うより瀬那が押しかけて来たんだが。昨日ダイレクトメールで了承はしたけども。
「早上好(おはよう)瀬那ちゃん☆。今日も元気だネ☆」
「おはようございます! 師匠!」
エプロン姿の我が家の料理人、登場。
毎日顔を合わしてるのに細目イケメンな顔を見るとイラっと来るのは俺だけか? これが陰キャの
「ちょうど遅めの朝食をとる所だけド☆、瀬那ちゃんは朝ご飯食べたかイ☆」
フワッとキッチンから美味しそうな良い匂いが鼻腔をくすぐって来た。同時に小さくお腹の虫が鳴る。
顔を赤らめる瀬那。
「えへへ、実はまだでしてー。さっき起きて速攻で支度したから……」
「じゃあ一緒に食べよウ☆ 大哥も瀬那ちゃんがいると嬉しいよネ☆」
「ええー萌ったら私とごはん食べれるの嬉しいんだ~!」
「……まぁ」
なんだろ、師匠と弟子として仲いいのはよろしい事だけど、仲良すぎじゃね? ……まぁ客観的に見ればただ朝飯に誘ってるだけだ。
「冷蔵庫から冷や水とお茶だしといてネ☆ 温かいお茶はテーブルにあるかラ☆」
「はーい!」
パタパタと機嫌よく歩く瀬那。それを目で追ってしまう。普段からナチュラルメイクな瀬那だが、この後トレーニングステーションにリャンリャンと向かうからいつもとちょっとだけ違う風に見える。汗かいても大丈夫的な?
「ちょ大哥突っ立ってったら邪魔なんだガ☆」
「え、うん、ごめん」
気付けばテーブルに我が家のシェフが作った朝飯が並べられていた。
「では! いただきます!!」
「平らげてね☆」
「……いただきます」
ついつい目で追ってしまう。いや、気づけば瀬那を見てる気がする。……なんでだろうか。
「パクパクパクパク、ん? どうしたの?」
「あ、いや、やっぱりよく食べるなぁて」
「ッ!! きょ、今日は抑えとこかなぁ……なんて」
「別にふと――」
突然足に猛烈な痛みが走る。思わずぎゃああと叫びそうになったが、瀬那の手前カッコ悪いのは見せれないと必死に我慢。
何事かと思いきや、隣で食べているリャンリャンが俺の足を踏んずけている。
「私が作った朝食はカロリー控えめで健康志向☆ これから激しい運動するし、いっぱい食べて体力つけないと☆」
「ホントですか! 確かに野菜多めだしヘルシーだなーって思ってました! 流石師匠!」
またパクパク食べ始めた瀬那。
細目イケメンがその細目を開き俺にこう訴えかけてきている。
(大哥! デリカシーなさすぎ! もっと女の子に優しくしテ!)
俺も睨んで意趣返し。
(俺が悪いのは謝るけどお前の足めっちゃ痛いんだよこのハゲ!! 市丸ギ○気取ってんじゃねーぞ!!)
(誰ヨそれ! 私は私だヨ!)
(もっと日本の漫画読め!)
こんなやり取りをしながらも朝食を食べるが、悔しい事にめっちゃ美味い。
そんなこんなで。
「よし、着替えも用意したし、行きますか~」
瀬那とリャンリャンが玄関ドアを開けて俺を待っている。もろもろ入ってるリュックを背負い、靴を履いていざ出発。
おまたせと言いながら玄関を締めオートロックが作動。
暗くなった廊下に解錠する音が響き、ドアが開けられる。
「ただいまー」
暗い廊下に常夜灯が灯る。
準備運動やらなんやらで十時頃に始まり、気づけば夕方。用事があると言ってリャンリャンは別行動。俺と瀬那は夕飯を食べ、女性寮の前まで瀬那を送り届け帰って来た。
「ふう」
リビングのソファにリュックを置いてキッチンへ。冷蔵庫を開けペットボトルに入っている水を飲む。
ソファに深々と座り、とりあえずテレビをつけてスマホのニュースアプリをいじる。
今日は主に持続性を上げるためのトレーニングをした。ゆっくりじっくり、時間をかけてトレーニングした。俺は二階のトレーニングルームを使用したが、リャンリャンと瀬那は実際に体を動かしてトレーニングしていたようだ。
「……え、また政治家の横領かよ」
どうやら機仙拳の歩法とかを伝授しているらしい。俺は言った。機仙拳そのものを教えればいいのではと。
「教えてもいいけド、仙気を操れないとダメだから無理☆」
だそうだ。
前にもリャンリャンは言ったが、スキルの恩恵で俺たちは戦える訳で。スキルを介さない仙気なるものの会得は時間がかかるらしい。
まぁ俺は強欲だから仙気を覚醒したいとは思っている。
それは何故か。
あの忌まわしきルーラー、マリオネットルーラー カルーディ。
奴と対峙した時、正直遊ばれていた。寿命を削りに来る二郎系ラーメンみたいに殺意マシマシ状態だったのにだ。
アンブレイカブルの想いももちろんあるが、個人的にもあの薄気味悪い帽子野郎を捻ってやりたい。そのためなら、貪欲に力を付けていきたいわけだ。
「っと。風呂入って寝るか」
もういい時間なので就寝の用意をする。リャンリャンなら心配いらない。またいつもの様にひょっこり帰ってくる。先に寝て居よう。
「――」
ああ。夢だ。これは夢だ。その自覚ができる。
何故ならば、ありえるはずがない。
屋敷に火が放たれ燃え盛り、使用人たちは総じて首から上が無い。
ほら、もっとありえない。
私の可愛い子たちが血を流して倒れている。
ありえない。有り得ない。アリエナイダロ。
最愛の妻メルセデスが年端もいかない赤子を抱いて血の池に沈んでいるのだ。
「――これは悪い夢だ」
やっとの思いで捻り出した震える声。燃える屋敷の炎の熱気が額の汗を焦がす。
一歩前へ。血だまりの端をつま先で踏むと、小さな波紋が泳ぎメルセデスの体に当たり帰ってくる。
それと同時に嗅覚を刺激してきた異臭。
――死の匂い。
「――――――」
わかっていた。これが現実なんだと。逃れられないリアルなんだと。
「ッうぅ!! おぼろ――」
膝から崩れ落ち様々な要因で吐しゃ物を撒き散らした。そんなのお構いなしに血だまりを這い、力なく横たわるメルセデスと赤子を抱き寄せた。
胸に大きな穴が空いている。
ピクリとも動かず、温もりも感じない。体は血まみれで顔にも付着している。
それなのに――
「綺麗だ……メルセデス……」
最愛の妻は、本当に綺麗だった。
「ッッッ~~~!!! あ゛あ゛あ゛ああぁああぁああ゛ああ゛あ!!!」
私の残響は、雨が降るまで続いた。