大災害規模のマーメイドレイドによる衝撃が拭えず、恐怖と情緒をうたい、またルーラーズによる災害規模の攻撃が来るのではないのかと。そっちの方面に警戒を強め、対抗戦の開催を反対。
事は日本だけではなく世界規模。株価に影響を及ぼし、放送権を得た大企業や国営の局は開催すべきだと声を大にしている。
テレビやネット新聞に至るまで、国連が強行したとも言われる対抗戦の開催は賛否両論だ。
対抗戦予選を来週に迫る俺たち学園の攻略者を目指す生徒の大半は、実力を伸ばすため一秒でも惜しいとトレーニングに勤しんでいる。
血と汗を流しながら自己主張を強化する同じ学生の面子に一人、トレーニング施設とはかけ離れた商業施設の有名待ち合わせスポットの時計塔の下で、浮かれてる奴がいた。
服なんて着れれば何でもええやろ精神を一脚し、放課後、普段行き慣れていないオシャンティーな服を扱う店へワりオのタックルが如く突撃。
恥を承知で店員に事情を説明し、営業スマイルを行使された結果。
「お客様は高身長に加えスタイルが大変よろしいので、コリアンコーデのこちらがお似合いかと!!」
「買います!!」
結局マネキン買いを選択。
自分に似合っているかとか考慮する頭は彼には無かった。
靴も新調した出費は予想を上回る程の金額を叩き、まさに商いの鴨な男。
(早めに着いちゃった……)
俺だ。
「……」
何故。男女問わずなぜこうも行き交う人の視線が俺に向くのか……。
思い当たる節しかない。
家で再び試着し鏡に写る俺を見た。
「……なんだこのイケメンにのみ許されたファッションは。買うの間違えてたか?」
リャンリャンにも事情を話、このコーデを見てもらった。
「アッイッヤッアッアッカグフォ!! 待って! 大哥それ自分で選んだのッ!?」
「て、店員が選んでくれた」
「真的假的!?(マジかよ!?)
こういった事に関しては一切信用ならない笑いを飛ばした家臣の何言ってんのかわからない中国語。これが出た時はあまりいい思い出が無い。
待ち合わせ時間は正午。現在時刻は正午より三十分早い。
幾度となく瀬那とお出かけした。でもそれはキャプテンアメリカが同伴していた。二人だけでお出かけなんて……。
(なに甘っちょろい事を思っているんだ!? これは単なるお出かけじゃない! 誘って来たんだぞ! デート!!)
そう。チームメイトの紅一点である朝比奈 瀬那が誘ってきた! デートに!!
俺の中でのデートのお誘いは男がするものだと、古事記にも乗ってると理由づけて信条にしている。まぁ実際に古事記は乗ってないが……。
夕暮れをバックにした彼女のお誘は表情こそ影になって分かり辛いかったけど、きっと勇気を絞って誘ってきたに違いない。それもそう、赤面しながら。
俺だったらそうだ。間違いない。
―――楽しんできて☆
細目イケメンが玄関先で俺に言った言葉だ。
(どこにそんな余裕があるんだよおおおおおお!!)
ゲームと漫画アニメネット小説を読み漁る陰キャな俺に余裕なんかない。ましてや誘ってきたのは瀬那の方だ。
(瀬那が誘って来たから……つまりは
そういう事、の意味を既に何億回も自問自答してきた。
そして一つの答えを見出した。
妄想を爆発させた勘ぐりすぎる陰キャの勘違い。と。
「は? 私があんたに気が有るって? 普通に遊ぶだけなのにぃ、勘違いさせちゃった? アハ♡ え~マジキモいんですけどー」
(いやああああああああああああああああ!!!!???)
それだけはやめてくれ!! 心の臓を引き裂くのは!!
お瀬那さんはそんな事言わない! そんな事言わない!!
オタクに優しいギャルはいる!!
俺がそれを証明して見せる!! そのために――
(靴も新調した! フワッと香る程度の香水も振って来た! ……いや待て! そもそもこの香水は俺が良い匂いと感じるだけで瀬那がそう受け取る保証は無い! どどどどどうしよ――)
そんな時だった。
「あーッハッハ、早いね……」
「せ、瀬那!!」
サノス登場。
「待ち合わせ時間まで十五分早いのに」
「じ、実はもう十五分早く来てた……」
「えーマジで?」
「う、うん」
「だったら嬉しいかも……」
「え」
「私とのデート、楽しみにしてるん……だよね?」
「」
アカーーーーーーーーン!! アカンよこれ!!
首を横に傾げて確かめてくる文言!
現地の案内人に見て見ろと言われたお祭り男、宮川○輔も「ええええええええ!!??」 言うて腰抜ける程の胸キュンですわ!!
「……正直楽しみすぎてヤバかった」
「普段の普通と違っておしゃれじゃん。わざわざ買たの?」
「頑張りました……」
「ありがと……」
恥じらいが頬を染める瀬那さん。足の付け根が見えそうなデニムパンツから見える生足。谷間が見える自己主張の権化たる胸部を纏うシャツははち切れんばかりで、上から羽織るメッシュ加工の白のトップスは肌の透け感をセクシーに演出している。
この場にいる男女の視線を一秒以上独占した彼女は、緊張してぎこちない俺の手を無理やり握り――
「じゃあ行こ!」
戸惑う俺を連れいつもの様に元気よく歩き出した。