「ほら動かないで! っぷぷ! これちょー似合ってるじゃん!」
そう言いながらスマホの画面を見せて来た。そこには背景がキラキラした俺が映っている。頬から下がバズ・ラ○トイヤーのがっしりした顎を添えて……。
「見てここめっちゃケツ顎ッアハハ!」
「ケツ顎って言うかもうケツじゃん……」
「これは保存しとこーっと」
バズにはケツ顎は無いけど、ケツ顎以外にもいろんな要素を加えれるらしい。このケツ顎は……うん。今にでも捻り出したモノが出てきそうなケツだ。このケツ顎を作った運営の技術者は変態に違いない。これを採用した会社も同様だ。
「はい寄って寄って!」
「いや近いって……」
「いいからカメラ見てー」
パシャリと一枚。
遠慮してる俺の腕を組んで無理やり引き寄せられた。
香る瀬那の鼻腔くすぐる甘い匂い。
肘に当たった柔らかくて大きな感触。
そして、体温。
「おーイイ感じ! 投稿投稿ぉー」
俺のドキドキを知ってか知らずか、瀬那は慣れた手つきでスマホを操作している。
(……意識して見ると、やっぱりかわいい顔してるなぁ)
普段は学園や施設で頑張ってる姿を見る事が大半で、こうしてまじまじと横顔を見るのは結構久しぶりかもしれない。
髪の色は明るいクリーム色? たしかミルクベージュだったか。小顔だし、長いまつ毛に小さな鼻、顔の整い具合は偏差値マックスだ。
「ちゅ~」
小ぶりな口でストローを吸いジュースを飲む姿は可愛らしい。
「ンク」
インスタで有名らしいホットドッグを食べ昼食を終え、ドリンクで喉を潤している。溢れんばかりのざく切り甘辛ソースは確かに驚いたし、味も良し。これが陽キャ世界の食べ物か! と知らなかった悲しみと味わった喜びが同時に俺を襲った。
あ、もちろん写真はバッチリ撮られた。
「見て見て! さっきアップしたフォトにさっそくいいねメッチャ付いてる!」
「そうなの?」
スマホを机に置いて画面を共有してきた。
バッチリ笑顔でウインクする瀬那の隣には、強張った笑顔の俺が仲良く映っている。顔の邪魔にならない位置に、二人は仲良し!! とふわふわな筆記体で書かれた文字が。
「……ん?」
陰キャな俺でもハッシュタグの存在は知っている。左下に女子高生やJKなど別におかしくないタグ。フードや友達もある。
でも一番最後に取って付けた様な「#カップル」が目を引く。
「瀬那、このカップルてハッシュタグ――」
「え、あーハハハー」
俺の指摘に、バレたか、と頬を染めて照れている。
「このハッシュタグはリア充の頂点的なタグなんだ~。友達と一緒のフォトもいいけど、さすがにカップルには負けると言うか……ね」
「そ、そうなんだ」
えへへと照れる瀬那を他所に、ハッシュタグリア充頂点なんてクソくらえな程、俺は内心焦りに焦り、心臓が爆発しそうだ。
(カップル……。俺と、瀬那が……!! この写真がインスタを通して全国配信ッ!!)
これはもしや……!!
「せ、瀬那ッ、それって――」
「え、なに?」
「いい、いや、何でもない、です……」
は、鼻血が出そうだッ!
この胸のドキドキは半端じゃない! 心臓が痛い! ギンタマのぱっつぁんがパンデモニウムにドキドキしてた気持ちが今わかる!! わかってしまう!!!
「それとね、萌が映ってるフォトって結構伸びるんだー。コメントも多いし」
そう言って見せて来たのはいつかの海辺。泡沫事件が起きた日に二人で撮った写真だ。
かわいいやら最高やらコメントされているが、瀬那のスワイプする指が止まる。
「この勇次郎ってコメント知ってる? 萌がいるフォトに絶対あるんだけど」
「」
お前らああああああ!! 見つかってしまったのか俺は!!
「ネットでの俺の愛称だわ……。面白がってんだよこれ」
「ふーん……」
スワイプしてコメントを確認していると、好感度なコメントの中に埋もれる見慣れたコメントが。
「!?」
≫今日はこれでいいや
≫これがいい
≫ふう……
≫デッッッッッッッッッッッッ!!
≫エッッッッッッッッッッッッ!!
「」
お前らああああああああ!!!!
覚悟の準備をしておいて下さい! ちかいうちに訴えます! 裁判も起こします! 裁判所にも問答無用できてもらいます! 慰謝料の準備もしておいて下さい! 貴方は犯罪者です! 刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい! いいですね!
思わずワザップジョルノになってしまった。俺を見つけて楽しむのはいいが、なに抜いてんだよ!? 抜こうとするな!! 俺の大事な友達だぞ!!
「ネットでも萌は人気者なんだね……」
「え?」
唐突に呟く様に言ってきた瀬那。ストローを突いてチラチラと俺を見ている。
「一時期凄かったでしょ、女子の追っかけ」
「あーまぁ。もう懲り懲りだけど」
「今は落ち着いてそんな事起きて無いけど、やっぱり他の女子は
「……まぁ」
一時期モニタリングでもされてんのかってくらい女子に追いかけられる時期があったけど、瀬那が言う様に今は沈静化している。でも、微かに感じる怪しい視線は今でも大いに感じている。
そうじゃないかなーって思ってたけど正解だった。まだ毒殺される危険性があるらしい。
「私さ、やだなーって思ったんだ」
「なにを?」
「萌が他の女子の所に行っちゃうの……」
「せっ瀬那、それって……」
「っにゃ!? ちち違う! 違くないけど違うの!」
ドキリとした俺は顔が焼けそうになって瀬那に問うた。その瀬那はあたふたしている。この慣れない感情の躍動はお互い様らしい。
「――俺も!」
「ぇ……」
「俺も、い、嫌だ。瀬那が他の男に寄って行くのは……」
「ッッ~~」
もう。もう目なんて合わせられない。秋なのにこうも暑いのか今日は。思わず言葉にしてしまった内なる声。これは紛れもない本心だ。
「「……」」
この何とも言えない雰囲気。ドリンクは既に空。暑さを冷ましてくれるモノは無い。でも、より暑く体を火照させる事しかできない。
そんな時だった。
ピロピロと鳴り響くアラーム。
「あ! え、映画の上映時間がもうすぐだって!」
「よよヨシ!! 会計済まして早速行こう!!」
お互いこれ以上何も言わず、そそくさと支度しその場を後にした。
俺は今、猛烈に熱血してる!!