時はギャルズがカラオケの一室で戯れ、瀬那が吐露した日まで遡る。ブラジャーの中にまで手を突っ込まれる程もみくちゃににされたツヤコは服装を正し、またカラオケが再開された頃、扉に影を落とす存在が居た。
「おっすー」
キャプテン○メリカこと梶 大吾に――
「どうも」
ガタイ良し眉毛良しの月野 進太郎が合流。
「おお! 座って座ってー」
少し広い一室を借りたのは男子二人が来るからだった。
開けろ開けろと席にずいっと座る大吾。同時に月野も申し訳なさそうな顔をして座った。
「で? あんたが月野?」
「そうだ。そっちは」
「ツヤコ」
お互い会うのは初めてだが話には聞いてた。このグループに顔を出すのは初めてな月野だが、紹介してくれと内心思いながらもさっそくうるさい隣を見た。
「おい!? ポテト残ってるって聞いたんだが!?」
「そりゃメッセージ返した時は残ってたよ」
「えー、五分前くらいかなぁ」
小腹が空いていた大吾はポテトが残っている旨を確認し、待ち合わせた月野を連れて少し楽しみにして来た。大吾が見たのは残り数本のポテトだった。
「ごめーん! 少し食べ過ぎちゃった」
「やっぱりお前かミルタンク!! そんなだから胸に特性「あついしぼう」なんだよ!」
「し、脂肪!? 今脂肪って言った!? あーいけないんだー女子にそんな事言うの!」
「食い意地張って食いもんにトラウマころがるか!? 冗談はその胸だけにしてくれよ!」
「むーー!! 転がしてるのは自分のタマタマじゃん! 蕾の裸想像してじばくしてるんでしょうがー!」
「ッ!!」
なぜバレたし。
大吾の物言わぬ表情を見て、ツヤコ以外のギャルズがドン引き。月野は何事もなくジュースを飲んでいた。
にらみ合う瀬那と大吾。その二人を見て、月野が口を開いた。
「お二人さん、熱くなると言い合いするのは学校だけじゃないんだな」
「この二人そっちでもうるさいんだ」
「ああ。こうなるといつもは
月野の疑問を受け、ツヤコは大吾をジト目で見た。
「暇だって言うしぃ、ほら、男目線は多い方がいいだろ?」
「……?」
月野は要領を掴めずに疑問を顔にする。
不意に大吾から連絡があり、今日は用事も無いと思い遊びに誘われてここへ連れてこられた月野。一応どういった面子が居るかと軽く説明された。
カラオケ店に入ったから歌って遊ぶのかと踏んでいた月野だったが、どうにも様子が違うと感じた。
「はぁ。まぁ男手が居ると参考になるかもって了承したのはウチたちだし、でも大吾説明不足。ポテトおごりね」
「うぅ、しかたない……。もう一つ頼むかぁ」
パットを操作して注文する大吾。月野は小さな欠片程のポテトを食べ、咀嚼してから眉を狭めた。
「とりあえず、なんの話だ?」
「恋バナー」
「ほう」
「瀬那っちの」
「そうか。萌と喧嘩でもしたのか朝比奈」
ギャルズの答えに理解した月野。すぐに瀬那に向かっておおよその悩みを聞いた。
「喧嘩なんてしてない。ただその……うかうかしてられないなって……」
「……うかうか?」
太い眉毛が繋がりそうになる程ひそめる月野。すかさず大吾が食い気味に割って入る。
「な? 言った通り勘違いしてるだろ?」
「こりゃ重症だわ」
「勘違い? なにを言ってるんだ?」
しぼんでいく瀬那。ほら見た事かと大吾とツヤコは微笑する。疑問が疑問を呼ぶ月野。もうどういった話なのか分からない。
「だからその……! 萌と……付き合いたいなって……」
月野が講じた予想、二人が言う勘違い、そして赤面する瀬那の顔を見て、ハノ字に開く眉毛。今、すべてのピースがハマる月野。
「まさか、あんなに近いのにまだ付き合ってなかったのか……」
この場にいる誰もが感じる月野の驚き以上に、月野本人はド肝を抜かれた程驚いた。
そしてデート当日。
服が充実してる実家にて、鏡に写る自分を審査する瀬那。
――可愛いコーデで決まり!
――萌くんの好きな要素テンコ盛り!
――下半身のテント張らせに行け。
あーでもないこーでもないと、良さそうな服を選ぶが、決め手になったアドバイスを思い出してババンと早着替え。
(あれ、この服少しキツイ……。また成長したのかな)
大胆な生足を披露するパンツ。肉付きが良い太ももは褐色肌もあって引き立つ。思ったよりも胸の谷間が見えてしまうと瀬那は焦るが、意中の相手はこう言うのが大好物と知っている為、ポジティブに考える事にした。
(今日は頑張るんだぞ私! 行くとこまでいく!!)
決意を胸にいざ行かん。
男性女性問わず、瀬那とすれ違う人はおのずと目で追ってしまう。瀬那にとってそれはいつもの事だが、"今日に限っては目で追われるほど決まっている"と感じ、確かな自信を大きな胸に抱いた。
バスで揺れる事数十分。学園がある人工島へとたどり着いた。
(すこし早いかなぁ……)
待ち合わせ場所に向かう瀬那。
――人畜無害そうな顔してるけどアレは絶対に惚れてるから。
――脈しかない。アレで
「ふふ!」
男子二人の意見を思い出すとつい笑ってしまう瀬那。見た目は派手でセクシーな印象を受けるが、屈託なく笑う笑顔は歩行者をドキリとさせるには十分だった。
(デートは私が誘ったの。だから萌にはいっぱいドキドキさせないと……!)
そう思ったと同時に自分がドキリとした。
「っ」
黒を主体としたコーデ。派手さの中にもスタイリッシュを風に吹かせ落ち着きを醸し出す。培った肉体が隠れる着痩せするのをいい事に、知ってか知らずか女性の視線を集めていた。
待ち合わせの時計塔。そのすぐ下に妙にそわそわした萌がいた。
(は、ハリキッテル!!)
瀬那はハッとし、見惚れてる場合じゃないと首を振る。
――褒めまくる事が大切!
――感謝も言葉にして!
――可愛らしいあどけなさも!
「ング……」
緊張と言う名の唾を飲み込み、気づいていない萌に近づいた。
「あーッハッハ、早いね……」
「せ、瀬那!!」
反応速度ゼロコンマな萌。
いつもの様に元気よく声をかけようとした瀬那だが、飲み込めきれなかった緊張が思わず出てしまった。
おかしい程に反応する萌の驚き顔。それを見て、向こうも緊張してるんだと思った。
(いつものように、いつものように!)
できるだけ緊張の色を見せたくないと、内心復唱。
「待ち合わせ時間まで十五分早いのに」
「じ、実はもう十五分早く来てた……」
「えーマジで?」
「う、うん」
(きゃああああマジでえええ!? めっちゃ楽しみにしてるじゃん~!!)
内心赤面で大いに喜ぶ。そしてアドバイスを思い出し、実行に移す。
「だったら嬉しいかも……」
「え」
「私とのデート、楽しみにしてるん……だよね?」
「」
首を傾けてわざとらしい仕草。瀬那も決まったなと表情を変えず確信したが、いや、効き過ぎたせいで一瞬白目をむいて気絶した萌を心配した。
しかしすぐに意識を戻した萌。
互いに意識した言葉のキャッチボールをする最中、
(見てる見てる! 今日の私は一味違うのだ!)
計算高い方ではないが、確かな感触を実感する瀬那。
「じゃ行こ!」
直視しすぎたと目を逸らした萌。きっとドキドキしてるんだと思い、瀬那は有無言わさずに手を握って歩き出した。