昼食は気になっていたファストフード。ざく切り甘辛ソースが溢れんばかりに乗せられた少し大き目なホットドッグ。
これが有名な……! と目をキラキラとさせる瀬那だが、フォトに収めた後、天啓にも似たアドバイスを思い出す。
――食べる時は舌の先端からねっとりと食べるようにね。あ、ベロを十分に唾液で濡らしてからね。
――あのそれ俺のポテト……。さっきから実践するの止めてくんね?
――は? じゃあチ○ポ出せや。
――勘弁してください。
「ッッ!! ぅぅ」
聞いていて恥ずかしいツヤコと大吾の会話。赤面したやり取りを思い出し、一応もごもごと、唾液を無理やり口内で出すと言う慣れないことをして挑もうとした。
「ん……」
頬を染めながら舌を出しソーセージの先端を舐めたが、見て欲しい意中の相手は頑張りに目もくれず、瀬那を無視して感動だとホットドッグを見ていた。
「……はむ」
結局普通に頬張る。美味しい。美味しいけれど、その眼の輝きは自分に向けて欲しかったと思う瀬那だった。
フォトアプリで遊ぶ二人。思ったよりも盛り上がり、ヘンテコな顔になった萌がどうにも可笑しく、しきりに笑い画像を保存した。
「はい寄って寄って!」
「いや近いって……」
「いいからカメラ見てー」
何回も二人で撮ったフォト。恥ずかしさなんて薄れてなくなったと思っていたが、こういったシチュエーションにデート、勇気を絞った腕の絡ませ引き寄せた大胆さ。
胸が大きくて良かったと思う思わせぶりで強引な引き寄せ。
パシャリと一枚。
「おーイイ感じ! 投稿投稿ぉー」
慣れた手つきでスマホを操作。
ドリンクを飲み、萌にさっきアップしたフォトで盛り上がったりした。
そこで萌からハッシュタグへのツッコミ。
恥ずかしがりながらはにかむ。リア充の頂点と言う意味合いの旨を伝えると、萌はみるみる赤面していく。
(私の妄想じゃなく、ホントにカップルになりたい。これ遠回しに誘ってるって事気づいてくれたかな……)
慣れないポーカーフェイスで意識した時だった。
「せ、瀬那ッ、それって――」
「え、なに?」
ポーカーフェイスの尾を引く疑問詞。
「いい、いや、何でもない、です……」
気付いた。わかってくれた。でも秘めてしまった萌の想い、瀬那の想い。二人は同じく目を逸らし――
((は、鼻血が出そうだッ!))
顔が熱くなった。
熱さを冷ますために話を変え、コメントの話へ。
萌のコメント百面相を隣で見ていた瀬那は、ある感情を生んだ。
「一時期凄かったでしょ、女子の追っかけ」
今では収まったものの、萌を本当に好いている自分は生きた心地がしなかったと、内心思い出す。
(こんな話しちゃいけないのに……。他の女子の話なんてしたくないのに……)
だが、溢れる嫉妬心に似た感情。どうしても止められず、自分が嫌いになった。
そして意図せず口走ってしまう。
「私さ、やだなーって思ったんだ」
「なにを?」
「萌が他の女子と他所に行っちゃうの……」
何も考えず、抱いていた想いを口にしてしまったと気づいたのは、萌が焦った口調で疑問を投げかけてきた時だった。
「ちち違う! 違くないけど違うの!」
否定への否定。こんなはずじゃなかったと、混乱した頭ではどう見繕っても前言撤回できない。
しかし――
「俺も!」
「ぇ……」
ドキリとした。
「俺も、い、嫌だ。瀬那が他の男に寄って行くのは……」
真っ直ぐ瞳を見つめ合って瀬那はそう言われた。
紛れもなく想いは一緒。そう取れる互いの言葉に恥ずかしさから見つめ合った目を逸らし、胸が苦しい程に心拍数が上がる。
(私と同じ反応! もう好きって言ってる様なもんじゃん!! ダメ、苦しいよぉ! 好きぃ萌好きぃ! にゃああああああ♡♡)
キャラ崩壊したバグった瀬那。
気絶するほどの衝撃を受ける萌。
二人が正気に戻ったのは、スマホのアラームだった。
場所は変わって映画館。この映画館はIMAXからMX4D、轟音シアターまでも取りそろえる学園島唯一の映画館。
今回、瀬那たちはこの豊富なまでのアトラクションを使用せず、一般的なシアターで映画を鑑賞する事になる。
《きゃあああああああああああ!!》
金切り声な悲鳴があがる音声。
「ッ」
怖いもの見たさで見てみたいと瀬那は萌に言ったが、内心は吊り橋効果を期待しての選択だった。
ホラーともあって萌は断るとかもと思っていた瀬那だが、思いのほか表情を崩さず、凄く冷静なOKを貰って、少し大人びた、頼りがいのある印象を受けた。
そんな怖いもの知らずな萌に更に思いを馳せた瀬那だが、一つだけ後悔した事がある。
(ちょっとぉ、けっこう怖いかもぉ……)
背中をなぞる演出面やびっくりする音響、嫌な空気に襲い来る人形。来るぞ来るぞと嫌な演出に目を背けたくなる瀬那。思いのほか怖かったのである。
《シンデ?》
《チョオマエフザケンナ――》
友情出演&カメオ出演のキャラクターを務める黒人キャラ――ボビーモロゴン氏が人形に惨殺されてしまったが、瀬那は怖がるが萌は特に何も思う事なく半目で見ていた。
《ミツケタ!!》
「ッ!!」
びっくりして体が飛び跳ねる。喉が渇いたと唾液を飲み込むが、緊張のあまりドリンクがある事を抜けている。
ホラーを見に来た事を少しだけ後悔した時だった。
「っぇ?」
強く握った両手に、大きくて暖かな手が添えられた。それはすぐに萌の手だと分かり、何事かと隣の萌を見た。
優しくて穏やかな目。暗がりの映画館でも萌の瞳を見て取れた。
目があった時、ずいっと耳打ちして来た。
「ごめん、怖いから手、握っていいよね」
(ぅぅ……)
耳に萌の吐息が当たる。ホラー映画とは違うゾクリとした感覚。それは癖になりそうで……。
「……うん」
了承した。
添えるから握るへ。萌は自分が怖いからと言ってきたが、それは嘘とは言わないが方便だと瀬那は知っていた。
(怖くないのにそう言って握ってくれた。……優しい。ずっと、手を握って欲しいなぁ)
映画は続き怖いシーンも続くが、萌が手を握ってくれたおかげで余裕ができ、なんとか鑑賞できた。
エンドロール後照明が付き席を立つ。足元に気を付けてと萌の気遣いを受けながらシアターを出た。
時間的に夕方。このデートもいよいよ大詰めだと、瀬那は心を決める。